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4話 家族

家族紹介的なお話です

新たな我が家での初日にて、生活環境に致命的欠陥があることが発覚した。

人の生活に必要な三大要素である衣食住において、衣の部分が致命的に不足していたのだ。


その物資不足を解消する為に、今日は駅前商店街に行く事になりました。


駅前商店街。

東京のベットタウンである我が市で、最大の主要駅である駅から延びる商店街。

駅の東口から延びる歩行者専用道の左右に、銀行とスーパーから始まり、飲食店からドラッグストア、ゲームセンターにカラオケ店等、思い浮かぶ大抵のお店がある商店街だ。

商店街を進んだ先には、デパートまである。


前世で住んでいた孤児院も同じ市内にあったのだが、院のあった場所が市の隅っこだった為、ほとんど利用したことはない。


今日買うものが、主に俺の服と三人分の女物の下着という、思春期男子には言葉だけでもドキドキするであろうメニューなのだが…。

俺と妹のは、院で使われてたようなお子様パンツで十分だろうし、気軽に行くか。

買う物の方向性は、派手じゃない物を買うって決まってるし、すぐに買い終わるよね。




自宅から歩いても五分くらいで行けたのだが、荷物が多くなるかもという事で、車で行く事になった。

車をデパートの駐車場にとめ、デパートで買い揃えるのかと思いきや、商店街に向けて歩を進める母。


「お母さん、デパートで買うんじゃないの?」

「それでもいいんだけど、ゆかりちゃんの服は専門店の方がいいと思うの」


まず、俺の服を買うという事か。

ドレスを着て、うふふふとか言いながら出かけたりしたくないので、是非もない。

しかし、専門店?

自分の体に目を落とす。

…キッズ服専門店とかですかね?




やってきたのは洋服店なのだけど…。


「お母さん…。こういうのはもう間に合ってるんですが…」


店に入って目に入るのは、黒や白のドレス服。

どう見ても、俺こと(ゆかり)さんの部屋にあったのと同系統の服です。


「違うわよ~、こっちの服よ~」


そう言って店の奥へ進んでいく母。

それについて行こうとする横の妹を見て、疑問に思ってた事を聞いてみる。


「なんで、(まつり)は、ドレスじゃないの?」


下着さえ、自分の趣味に変えさせる本物の縁さん。

妹の普段着を、自分と同じにしてないとは思えないのだが。


「あー、あーいうゴスロリ服ってさ、お姉ちゃんみたいに、小さくて可愛い人は似合うけど、私みたいに背があると、悪目立ちするんだよね」

「…そんなことないと思うけどなぁ」


祭は、背が推定180cm近くあり、顔も可愛いと言うより凛々しい。

しかし、黒色のゴシックドレスを着て眼つきを鋭くし、周りを見下すようにすれば…。

大人の魅力というか、女王様の魅力というか、想像するだけでぞくぞくする。

……はっ、今危ない世界に旅立つところだった。

ドレスを着た妹を想像してぞくぞくするなど、この体になって変な影響でも受けているんだろうか。

きっとそうに違いない。


ちなみに、今の妹の格好は、黒のハイネックタンクトップの上に腰まである灰色のロングジャケットをはおり、黒のズボンを履いている。

ズボンは膝下から、しわがいっぱいに見えるのだが、クシュクシュパンツと言うそうです。ハックシュン…。

…オシャレさんですね。


「そ、それにさぁ、前にも言ったけど、私はお姉ちゃんほどカルマとか高くないから、あーいう服はまだ早いと思うんだよね!」


なるほど、カルマが低いからか。

カルマってきっと、坊やとか、幼いという意味なんだろう。それなら、とても納得だ。

だから、縁さんも強制しなかったのか。


「そっかそっか。じゃあ、お母さん先に行っちゃってるし、私達も奥に行こっか」

「うん」


ホッとした顔で、俺の後ろを付いて来る妹。


「…下着なら普段見えないからいいけど、ゴスロリ服とか外で着たら痛々しいし…」


小声で呟いてても、聞こえているよ…祭ちゃん。




店の奥へ行くと、入ってすぐにあるドレスっぽい服はなかった。

だけどなんだろう、妙にピンクとか淡いアイボリーの服とか多い気がする。

白と黒の落ち着いた、スカートと一体化した礼服っぽい物もある。

まるで、人形が着るような可愛さを全面に押し出したような…。


「ゆかりちゃん、これなんてどうかしら?」

「…もっと地味なのが良いです」


母が手にしているのは、両襟を結ぶようにチェーンがあり胸元にはフリルの付いた白のブラウス。

周りにある他の服よりは、地味に見える。

でも、俺が欲しいのって、ごく一般的なシャツとズボンです。


「そうなの? ゆかりちゃんが欲しい服って、どういうのなのかしら?」

「普通のシャツとかズボンです」

「わかったわ。それも後で見るとして、せっかく此処に来たんだし、試着だけでもしてみない?」


母は、娘の為を思ってあのブラウスを選んだんだよね。

買う事は断った後ろめたさもあるし、一着の試着で済むなら安いものだ。


「わかりました。それでお母さんが満足するなら、試着します」

「ありがとう! ゆかりちゃん!」

「お、お姉ちゃんっ!?」


満面の笑顔で、手に持ったブラウスを渡してくる母。

それに対し、驚愕の表情を浮かべる妹。


妹の反応に疑問を浮かべつつ、試着室に入る。

着てきたTシャツを脱いで、ブラウスを着る。

女物を着るといっても、礼服用のYシャツを着る感じと大差ないな。

むしろ、胸元のフリルが貴族っぽい感じで悪くない。普段着じゃなければだが。


「これで良いですか? お母さん」


試着室を出ると、大量の服を持った笑顔の母と、同じく大量の服をげんなりした顔で持っている妹。


「えっと…それは?」


思わず顔を引き攣りつつ聞いてしまう。


「お母さんが満足するまで、試着してくれるのよね?」


笑顔が怖いです。お母さん。

そんな顔で睨むなら、こうなる前に止めておくれよマイシスター…。




着せ替え人形よろしく、大量の服を着ては脱ぎ着ては脱ぎ、もはや何着目だか覚えていない。

ピンクのドレスを持ってきた時は、着方がわかりません、と抵抗をしたのだが、では着付けいたしますね~と笑顔の店員が、一瞬で服ごと俺を試着室に連れ込み、手早く着せてくれやがりました。

顧客サービス満点のお店ですね!

ちなみに、店員さんは全員女性です。


その後、母だけでなく店員さん複数も加わり、これがいい、こっちもいいなどと言いながら、服を持ってくる。

おかしい。最初より明らかに準備されている服が増えている。

色はピンクや黄色だが、自宅にあるゴシックドレスの様な服まである。


「お母さん、家にあるドレスと同じ物があるんですが…」

「これは、ロリータファッションだから、家にあるゴシックドレスとかゴシックアンドロリータの物とは違うのよ~♪」


何が違うんでしょう。色合い位しかわかりません。

楽しそうな母と対照的に、俺の精神的体力はゼロに近いです。

初めて女物の服を着る時は、きっとドキドキすると思ってたが、初めての機会で悟りすら啓けそうなほど着るとは。


「あら、これはまつりちゃんに似合いそうね」


さり気無い母の一言に、俺の頭脳が高速回転を始める。

謎の悟りを回避する策を瞬時に構築。


妹である祭を、着る側にすればいいのだ!

最良で、妹に試着を全て押し付ける。

悪くとも、着る量は半分になるはずだ。


生贄…じゃなくて、妹の祭を探す為に、周りを見てみる。はて?


「まつりちゃん何処行ったのかしら?おトイレかしら? あ、ゆかりちゃん、次はこれね♪」


希望の生贄こと妹は、いつの間にか居なくなっていた。

うん、逃げやがりましたね。

おのれマイシスタァァアア。




母による心の蹂躙を耐え…抜けなかった俺は、遅めの昼食を取る為に、母と妹と共に商店街にあるファミレスに居る。

耐え抜けなかった結果、上は最初のブラウス、下は黒を貴重としたふちに白のフリルの付いたスカートを着ている。

黒のハイソックスに、リボンの付いた黒のハイヒールのおまけ付きです。


耐え抜けなかった事を笑わないでほしい。

二時間以上、女性に囲まれ、着せ替えをさせられれば、誰だって無理だ。

全国の高校男子諸君、二時間女装という名の着せ替えを強制させられてみなさい。

無理だから、色々と。


着せ替えが終わって、会計に向かう途中になんとなく姿見を見たのだが、そこには天使が()りました。

長い黒髪をなびかせ、くりっとした黒目で頬がうっすら桜色。幼さの中にも、将来を期待させる美しさがある。

白と黒を基調にした服と相まって、とても可愛い少女がそこに居た。

思わず「これがボク?」って呟いてしまいました。


そうだよ、今の俺ってば、可愛い少女だ。

可愛い子が、可愛い服を着て何が悪いというのだ。いや、悪くない!

そういう自己弁護を支えに、今を生きています。

頑張れ、俺。


ちなみに妹は、母と店員勢の包囲戦が終結した後のお会計中に、お姉ちゃん可愛いねーと言いながら、いつの間にか傍に居ました。

その時にはもう、妹に何か言う気力なんて、ありませんでしたとも。


「やー、天下のゴールデンウィークだからか、今日は人が多いねぇ」

「そうねぇ。もう後半だから、皆旅行とかから帰って来て、自宅に居るせいかもしれないわねぇ」

「やっぱりそうなのかぁ。ちらちら視線を感じたのって、人が多いからかな」


昼食を食べながら、談笑する母娘三人。

洋服店を出てから、ちらちら視線を感じるのだ。

美少女だから、男の視線かと思いきや、女の人の視線を。


「それは、ゆかりちゃんが可愛いからよ」


微笑みながら話す母の横で、妹が鋭い眼つきでアイコンタクトを送ってくる。

自分の失言を悟った俺は、素早く話題を変える。


「そういえば、連休なんだし、お父さんは家に戻ってこないのかな?」

「んー、連休だからこそ仕事がありそうな気もするけど、どうなのかな? ママ?」

「ん、そうね。メールを送って帰って来るように伝えておくわ」


母の言葉に、何か違和感を感じるが、今はこの後の心配があるので思考を止める。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか」


昼食の終わりを告げて、席を立つ母。

教訓を生かすために行動せねば。

あ、余談だけど、昼食の内容は、母はラザニア、妹はドリア、俺はグラタンでした。




「じゃあ、次は待望の下着ね。早速行きましょうか」


ガシッと、先に進もうとする母の肩を掴み止める。


「あ、あら? どうしたの? ゆかりちゃん?」

「次は下着ですね。ですので、デパートに買いに行きましょう」

「で、でもほら、デパートの下着売り場もいいけど、こういうのは専「荷物も車に置きたいですし、デパートの下着売り場で買いましょう」…えーと」


可能な限りの笑顔で、母を説得する。

先程俺は知ったのだ。笑顔は武器だ!使い方によっては、本気の笑顔は怖いのだ。

授業料は、今着てます。

荷物を置きたいと言うのも本当だ。俺用の服が六袋もある。

それに、デパートで5000円以上買わないと、駐車場代が無料になりませんよ、お母さん。


「そ、そうね。下着はデパートで買いましょう」


誠意が通じて、納得してくれる母。

小声で、ナイスお姉ちゃん、と言ってくる妹。


下着まで、先程と同じ目に会う訳には行かないのだ。

今更、男物の下着がいい!等とは言わない。

せめて、せめて普通の派手じゃない地味な下着がいいのです…。




デパートに着き、荷物を車に載せ、まずは心の平穏と円満家庭を維持する為に、母のを買おうとした。

デパートの下着売り場だし、ちゃんとした淑女御用達の常識的なデザインのがあるのだが――。

うちのお母様ったら、油断すると可能な限り派手なのを選ぼうとしやがります。


そんな母に対し、駄目だしツッコミ誘導を駆使し、必死に母と戦う(ゆかり)さんこと俺。

お店の選択権を勝ち取ったというのに、結局長時間選び、物凄く疲労する。


俺が死闘を繰り広げてる間、またも妹はいつの間にか居なかった。


母の物を選び終えて、会計が終わり、ベンチに座り一休みしていると妹が戻ってきた。

俺と君の分がまだあるというのに、母を俺に任せて何処に行ってたんだ。

文句の一つでも言おうと、口を開きかけると、妹が買い物袋を突き出してくる。


「やー、お姉ちゃん、これで良いよねー?」


突き出された買い物袋の中身を確認すると、なんと言う事でしょう。

純白や縞々、水玉などのお召し物が御座いました。

一応、妹に確認しておこう。


「これって私の?」

「うん、お姉ちゃんが、どういうのが良いか、昨日聞いてたしねー」

「ありがとう! 祭ちゃん!」


手を握って、ぶんぶん振り回しながらお礼を言う。

母の物を買うという事の難事を知ってた妹は、気を利かせて、自分と俺の分を買いに行ってくれたようだ。

その難事を、俺に押し付けて逃げただけのような気もするが、追求する元気はすでにないです。

熊さんプリントや、苺柄のもあったが、Tシャツやデニムのズボンとかも買ってくれてたので見なかった事にしよう。

ちなみに俺用の袋には、しっかりKIDSとか書かれていた。


念の為、妹が自分用に買った物も確認したが、至って普通の物でした。


必要な物を買い終わったので、母に告げて自宅に帰る。

母は、まだ買いたい物があったようだが、もう俺が限界です。


誰だ、今日の買い物は気軽にとか言ってた奴は。






自宅に戻ると、電気の明かりが点いているのが見える。


「おー、パパが帰ってるみたいだねー」


妹の言うとおり、荷物をもって玄関を開けると、入院の時にお見舞いに来てくれてた父が居た。


「おかえり、三人とも」


渋い声でそう言いながら、さり気無く荷物を持ってくれる父。

そのさり気無さが、紳士的で素敵過ぎる。


「ただいまです、お父さん」

「パパー、ただいまー」

「ただいま、あなた」


三者三様の挨拶をすると、優しく微笑む父。

紳士の格好良さと、優しさを持った理想の父親にしか見えない。


「ねーパパ、仕事大丈夫だったの?」

「ふむ。まぁ今は現場に出るわけでもないしな。問題ない」

「お父さんの仕事って、何をしているんです?」


そういえば、入院中もあまり父の事は話してなかった気がする。


「ゆかりは私の仕事を知らなかったか」

「何かお話をするなら、玄関じゃなくて中でして下さいな」


そう母に言われたので、荷物を部屋に持って行き、夕飯までリビングで父妹俺の三人でのんびりする事にした。




父の仕事には興味津々だ。


「それで、お父さんの仕事って何なんですか?」

「簡単に言うと、プロモーターだな」

「…レースとかをする人ですか?」

「…あー、モーターと言っても、エンジンの事じゃないよ、お姉ちゃん」


なんとなく残念な人を見る目で見つめてくる妹。

やめてっ、そんな目で見ないでっ。


「企業の経営者の事だ。特に、プロレス等の格闘技のイベントを主催する興行主の事をプロモーターと言うな」

「なるほど! つまり、お父さんは社長さんなんですね!」


難しくプロモーターなどと言わず、社長って言ってくれればいいのに。

でも社長か、すごい。

お金持ちに憧れていた身としては、社長という言葉だけでも尊敬してしまう。


「まぁうちの会社の場合、格闘技に限らず、村興しのイベントや歌手のライブなど、手広くやっているがね」

「やー、話を聞くと、すごい会社の偉い人だよね」


妹に同意です。

色々やってる大会社の社長さん。というイメージです。


「今みたいに、色々やれてるのは最近の事でな。ゆかりが生まれる少し前なんかは、主催した格闘大会のエキシビジョンマッチとして、船上で優勝チームと私が戦ったりと、現場で泥をかぶったものだよ」


社長と言うからには、知識やカリスマもあるはずだ。

さらに、エキシビジョンマッチとは言え格闘大会の試合で戦うとは、運動能力も高いという事。

人生を自分の力で切り開き、知性と力とお金を持っている。

前世で俺が抱いていた理想像が、今目の前に居る。


憧れに目を輝かせて、会話を続ける。


「そんな大変な仕事をしてるから、うちが隣の県とは言え、東京に単身赴任してるんですね」

「…う、むぅ」

「…あー、お姉ちゃん、それはね」


父の反応で、何か引っかかる物を感じ、妹の言葉を手で制して止める。

このパターンはあれだ。

昨日三回ほどあったあれに違いない。

確信とも言える予想を口に出す。


「…自宅から通勤可能なのに、私が単身赴任するように言ったから、ですか?」

「あ、あぁ。覚えていてくれたか。ゆかりが『アニメや漫画の父親って言うのは、普段家に居なくて存在感が薄い物よ!』と言うのでな…」


本物の縁さん、あなたは一体何者ですか。

と、言うかですよ。

娘が可愛いからって、娘に言われて一家の主が無駄に単身赴任で家を出るとか駄目でしょう。

憧れの父とはいえ、ここは強く言わねばならない。

アニメなんかに引っ掛けた方がいいのだろうか?


「お父さん、いくら娘に言われたからって、何でも言う事聞いてたら駄目でしょう?」

「しかしだな…」

「駄目なのです。アニメでも、頑固で子供にガツンと言う父親は居るでしょ」

「そう、だな。うむ、私が軽率だったか」

「そうですよ! 明日から、ちゃんと自宅から通ってください」

「…わかった。そうしよう」


俺の憧れを全て持っている父。

そんな父ならば、しっかりと自宅に控えて居てほしい。


妹の祭が、俺と父を生暖かい目で見ているのなんて、気にならない。

祭ちゃん、そんな目で家族を見たら駄目だと思うんだ。お姉ちゃんは。




自分の理想をより完璧にした事に満足すると、母からご飯が出来た事を伝えられる。


「……頑固…アニ……ふむ………星…ちゃぶ台……」


食卓に向かう最中に、父が何か呟いていた。


「今日は家族四人揃ったし、ちょっと奮発してみたのよぉ」


母の言うとおり、食卓のテーブルには豪勢な料理が並んでいる。

四人ともテーブルに座り、さぁ食べようと言うところで父がテーブルに手をかける。

そして、誰にも当たらないように器用にテーブルをひっくり返す。


ガシャン!ガチャン!パキン!


テーブルをひっくり返したら、当然料理もひっくり返るわけで…。

何が起こったかわからない母娘三人。


「ふむ。ゆかりが頑固な父が良いと言うのでな。昔のアニメを参考にちゃぶ台ではないが、テーブルをひっくり返してみた」


なるほど、アニメで頑固と言った俺のせいですか。

しかし、父のその行動には致命的欠点がある。


「お父さん! あれって意外とちゃぶ台を返したりしてないからね!」

「お姉ちゃん!? ツッコムのはそこなの!?」


妹よ、これは重要な事なのだ。

しかし、食べ物を無駄にするのは、父とは言え許せない行為だ。

ここは厳然とした態度で、食べ物の大切さを教え込まなくてはならない。


そんな事を思っていると、唐突に乾いた破裂音が響き渡る。


バチンッ!!


母が、父にビンタをしたようだ。

此方には背中を向けている為に、どんな表情をしているのかは不明だが、背中から出る溢れんばかりの威圧感が、怒ってる事を物語っている。


「ま、まて、美子。これにはわけがあってだな」


バチンッバチンッ!


母の往復ビンタが炸裂する。

美子と言うのは、母の名前だ。大日美子(おおひるみこ)が母のフルネーム。


「私が作った料理を無駄にした事を、ゆかりちゃんのせいにするっていうの? それとも、さっき言った事以外に何かあるの?」

「いや、そういうわけじゃないのだが」


バチンッバチンッバチンッ!!!


父の腕のガードをすり抜けて、母のビンタが当たっているようだ。

母のあまりの迫力に、食べ物の大切さ云々を忘れて、そっと後ろに下がる。

母は強しという言葉があるが、そうか、あれは母は物理的に強いという意味だったのか!


下がって視界が広がると、隣に居たはずの妹が居ない事がわかる。

妹を探すとキッチンでお湯を沸かしていた。


ここに居て巻き込まれたら怖いので、俺もキッチンへ向かう。


「なんでお湯なんて沸かしてるの?」


まさか、父への拷問に使うわけじゃないよね。


「んー、カップ麺でも食べようかと。お姉ちゃんの分もお湯あるよ」


冷静な妹に、すごく安心する。

幾分落ち着いたので、食卓付近の惨状をどうにかしなきゃと行動する。


「そ、そっか。じゃあ私は、今のうちにあっちを片付けておこうかな」

「やー、やめた方がいいよ。どーせ後でパパに片付けさせるだろうし。下手に片付けるとママに怒られるよ」


そうですか、それは恐ろしいですね。






妹とカップ麺を啜りながら、目の前で行われる惨劇を目にしつつ決心する。


この家族を守る為には、俺がしっかりしなきゃ駄目だ―――と




パパさんのモデルになったキャラわかる方居るかなぁ。

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