13話 暗躍
しょーもない暗躍(´・ω・)
常温になってる無塩バターを、ボウルに入れて滑らかになるようにヘラで潰す。
十分滑らかになったら、グラニュー糖がないので砂糖を加える。
砂糖が混ざったら、用意してた卵黄を入れて混ぜる。
卵黄で全体が黄色っぽくなったら、パサパサにならないように注意して小麦粉を投入する。
全体的に程よく攪乱したら、生地を寝かせる為にラップで包み置いておく。
抹茶を練乳で溶いた物を入れた生地や、ココアを入れた物、ナッツを加えた物なども同じように用意する。
「おー? お姉ちゃん何してるの?」
「クッキー作ってるの」
「なんで急にクッキー? って言うか、クッキー作れたんだ」
自作は、安くお菓子を食べる為には必須だったのだ。
まぁ市販のお菓子は良く出来ている物で、自作するより安い物ばかりだが。
んで、何で急にクッキーを作ったかと言うと~。
「鳴さんが、友達にクッキーでも作ったら喜ばれるよって言ってたから」
「鳴さんって言うと、この間お泊りに来たお団子頭の人?」
「うん、そう」
生地が落ち着くまで、一時間位暇なので、妹とのんびりおしゃべりをする。
「ほへー、お姉ちゃん、いつの間にか料理だけじゃなく、お菓子まで…その内麺打ちとかしそう」
「同じ小麦粉でも、ラーメンの麺を打つなら強力粉とか、あ、カンスイも必要か」
「わー、また本読んで覚えたの? 読むだけで頭に入るって凄いよね」
俺のは実地ですよ?
あ、先代ゆかりんの事か。読むだけで頭に入るとか、天才だったのかしらん。
「ねー、そこに置いてる青とかピンクの可愛い袋って何?」
「ん? これは、お母さんが用意してくれた、クッキーを入れる袋だよ」
「はー、そこまで用意して友達にお菓子作ってあげるとか、すごいね。私なんて料理できないからなぁ」
自分で美味しいもの作って食べると幸せなのに。
それを、誰かが食べて美味しいと言ってくれると、もっと幸せなのに。
これは姉として妹に、その幸せを教えねばならぬ。
「祭も一緒にやってみよっか」
「え? いいの?」
「うむ! 祭も料理して食べる喜びを知るがいい!」
残った材料で、妹と一緒に追加のクッキー生地を作り始める。
「今日は砂糖を使うけど、本当はグラニュー糖がいいよ」
「ほえー? なんでー?」
「砂糖の方が褐色し易いから、焼き菓子の場合注意ね。クッキーなら気にしないでもいいかなぁ?」
その様子を、いつの間にやら椅子に座った母が、楽しそうに見てました。
翌日、クッキーを大事に鞄の中に入れて登校していると、バックアタックを受けた。
「おっは~、ゆっかりん」
「ぐえっ」
後から飛びつくように抱きつかれた。
ぐえ…ぐえだとぉ。今時誰も言わない呻き声を言わされるとは!
離れて後ろを振り向き、加害者を確認する。
「貴女は!? ジュース先輩!」
「は~い、ジュース先輩で~す。ってなんでやねん!」
偽関西弁で、ノリツッコミをしてくれる。
うむ、やはりこの人、なんかとっても親しみやすい。
襲撃者の正体は、昨日の部活見学の時に居たなっちゃん先輩だった。
「名前を忘れるなんて酷いわ~。昨日一緒に帰った仲ではないか~」
「昨日初めて会ったばかりの上に、あだ名しか知りませんが…」
「そうだっけ~?」
この先輩と居ると、すごく空気が軽い。
目上の人なのに、気軽に話せる感じだ。
「まぁまぁ、此処で会ったのも運命だ。一緒に登校するべさ~」
昨日の帰りも思ったが、先輩なのに先輩っぽくない人だ。
でもまぁ、部活見学では一応お世話になったし?
「あの、なっちゃん先輩、よければこれ」
「おや~? これはなんぞな~?」
「私が作ったクッキーです。昨日お世話になったから」
信幸や月夜さん達分にプラスして、ちょっと余分に作ったのだ。
「それはありがと~。これを今日の養分にして生きていくね~」
「普通にご飯食べればいいじゃないですか」
「いやぁ、お金がなくてさぁ~」
そのまま愉快な先輩と、雑談しながら登校するのだった。
「月夜さん、よ、良かったら、これどうぞ」
クッキーの入ったピンクの袋を取り出し、月夜さんに渡す。
喜んでくれるだろうか。
ジーと袋を見たまま、しゃべってくれない。うぅ。
「そ、その、いつもお世話になってるから、クッキー作ったの。喜んで欲しくて…」
「ありがとうございますわ! 縁さんからプレゼントを頂けるなんて、感動ですわ!」
おぉぅ。予想以上に喜んでくれた。
喜んでくれたのはいいのだが、顔を目の前に近づけるのはやめてほしい。
綺麗な顔が、目の前に吐息さえかかる距離にあると…色々冷静で居られない。
月夜さんが落ち着いてから、護衛の二人にも手渡しする。
「千早さん、瑠璃さんも、その、いつもありがとう」
友達で居てくれてありがとう。とは恥かしくて言えないぜ!
「此方こそありがとう御座います。大日様。これを毎日寝る前の慰みとし、身悶えながら頂こうと思います。至福」
…出来れば普通に食べて下さい。
そういえば、もう一人の千早さんが静かだな。
そっと千早さんを見ると、プルプル震えてる。
これは!
未来視とも言える程の直感で、次の千早さんの行動を予測し、素早く体を左に移動する!
俺が元居た位置を目掛け、千早さんの体が疾走する。
「甘い!」
思わず叫ぶ俺。
戦女神の戦士に、同じ技など二度は通じないのだ。
しかし、俺の目は驚愕で見開かれる事になる。
真っ直ぐ進むはずの千早さんが、此方に曲がってくるのだ。
ホーミングだと!?
「ありがとうございます。嬉しいです。大日さん!」
「むぎゅぅぅぅ」
今日も肉食獣に捕獲される草食獣でした。
月夜さん達にクッキーを渡せたので、次は信幸と鳴さんに渡さねば。
チャンスとばかりに休み時間になった瞬間、信幸の席に行く。
するとそこには、先客として鳴さんがすでに居た。
席が近いからって、俺より先に居るとは…一緒に渡せるので、むしろ良いんだけど。
「信幸、鳴さん、クッキー作ったんだ。良かったら貰って欲しい」
青とピンクの袋を、二人に渡す。
「ありがとネ。言った翌日に作ってくるなんて、縁ちゃんはマメネ」
「大日さん、ありがとう」
二人とも喜んで受け取ってくれた。
むぅ、つい嬉しくて顔がにやけてしまう。
俺がにやけながら二人を見てたら、一人男子が近寄ってきた。
「瀬田、ちょっと重要な話があるんだけどいいかな?」
「…あ、いいよ。じゃあ、廊下にでも出ようか。おっと…」
信幸は立ち上がろうとして、どこからか前に見た金色のカードを落とす。
持ち物管理がしっかりしてるはずなのに、物を落とすなんて珍しい。
「信幸、これ落としたよ」
「拾ってくれてありがとう」
落ちたカードを渡すと、先程の男子が震えている。
「ゴールド…だと…馬鹿な…俺はブラックだと言うのに…」
信幸の机の上にある、黄金の名を持つ缶が目に入る。
コーヒーの話だろうか、無糖なブラックとか俺は飲めないぞ。
「それで、重要な話ってまだしなきゃ駄目かな?」
「い、いや、もういい…です」
男子は急いで離れていく。
「話ってなんだったんだろうね?」
「きっと、こわーい話ネ。それを上手に脅して回避したネ」
「人聞きが悪いなぁ。僕は何もしてないってば。ね? 菩比さん?」
「ソウネー。私が余計な事言ったネ。忘れてネ、縁ちゃん」
信幸と鳴さんは、二人だけで分かったような会話をする。
なんとなく俺だけ仲間はずれとか、ずるい!
今日のお昼も、月夜さんのお弁当は豪華だった。
「月夜さんって、お重が多いけどよくそれ全部食べれるね?」
「私だけでは全部は食べれませんわ。千早に分けていますのよ」
なるほど、わんこのご飯も兼ねていましたか。
そんな千早さんは、しっかり自分用のお弁当もあるわけですが。
「他に女の子らしさって、何があるネ」
「好きな男子に、お弁当を作るとかはどうでしょうか? 愛妻弁当」
「いや、妻まではどうネ?」
鳴さんと瑠璃さんは、なんだかひたすら女の子らしさについて語り合ってる。
二人とも思春期女子なのだ。もしかしたら、好きな男子の一人も居るかもしれない。
そう考えると、女の子らしさの追求はしたくもなるのだろう。
好きな人の目を引く為に。
「ねーねー、月夜さん、鳴さんと瑠璃さんって好きな人でも居るの?」
「そんな話は聞いてませんが…。あの二人の事ですから、今話してるのも実は碌でもない事ですわ」
鳴さんはまだしも、自分の護衛に対して辛辣な評価です。
まぁ、俺も否定はしませんが。
「そういえば縁ちゃん、瀬田君がいつも学食なの知ってるネ?」
「ん? 知ってるよー。たまに一緒に食べに行くから」
あそこのご飯は、かなり美味しかった。
でも、学食はすごくにぎわってて、一人じゃ怖くて行く気になれない。
「学食ばかりじゃ栄養が偏るネ」
「ぬ、それは問題だ」
栄養の偏りは、病気になりやすかったりと大問題だ。
「うんうん、ところで縁ちゃんのそのお弁当は、自作ネ?」
「うん。前はお母さんに作ってもらってたけど、最近は自分で作るようにしてる」
お泊り会以降に、母は料理をするのを薦めてくるのだ。
今では、たまに夕飯も作ってる。
「瀬田君はいつも学食で困ってるかもネ。誰かが栄養を考えたお弁当を作ってあげたらイイネ?」
ふむ、あの混雑は大変だろうし、バランスよく栄養を取るのは大切だ。
病気にでもなったら、俺と遊ぶ時間が減るではないか。
「お弁当1個作るより、2個作るほうがバリエーション増えるし、信幸の分も作るか」
「それは素晴らしいネ。きっと喜ぶネ」
俺は何て親友思いなんだろうか。
明日から、心の友の分のお弁当を作る事を決めたのだった。
「そんなのずるいですわ!」
そして何故か、豪勢なご飯を食べる月夜さんが怒るのだった。
この小説は、天然ゆかりんvs秀才信幸の戦いの歴史である!(嘘)
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