11話 お泊り会:後編
前話のあとがきで期待した人にはごめんなさい…
楽しい時間はあっという間に過ぎるのか、家に戻った頃にはそろそろ夕飯といった時刻だ。
鳴さんと一緒にキッチンに入り、夕飯の調理を開始する。
「縁ちゃん、海老のワタ抜き出来るネ?」
「ほいほい、出来るアルヨ!」
背中に切れ目を入れて、黒緑の線を取っていく。
「軽くコレをかけて、ちょっと揉んでネ」
「へいへい、揉み揉みアルネ!」
渡された粉をかけて、海老ちゃんを揉み揉みする。
モミモミモミモミ。
「次は、それをこのお酒を混ぜたお湯の中にさっとくぐらせて、あっちのフライパンでこのソースと一緒に炒めてネ」
「了解了解、わかったアル!」
ソースをフライパンに入れて、ジュゥゥと音が鳴り火が通ったら、海老を投入する。
海老とソースが混ざり合い、とろりとしてきた処で用意してたお皿へ移す。
「あっれー? お姉ちゃん、何時の間に料理できるようになったのー?」
皆と一緒に、夕飯を待つ妹が聞いてくる。
「ふふふ、祭! お姉ちゃんは日々成長中なのよ!」
友達とゲームセンターに行くほどの成長なのだ。
なのよ、等と女言葉まで操ってしまう。
あぁ、自分の成長具合が恐ろしい。
その後も、鳴さんの指示に従い調理を進める。
アワビっぽいのを見た時は興奮した。
新鮮なのか、光って見えたね!
調理が終わり、皆で食卓につく。
食卓には、春雨サラダから、エビチリ、麻婆豆腐、皮が透明な餃子、ローストビーフ?、そしてフカヒレの姿煮にアワビに何かソースがかったの等が、大皿で並んでる。
各人に、小さい器で卵を溶かしたスープに、デザートには杏仁豆腐も控えてる。
撮み食いしなかった自分を褒めたい。
早くフカヒレや、アワビとか食べたい!
「「いただきます!」」
先んじて、俺と千早さんの声が重なり、食事が始まる。
「あらぁ、このサラダ美味しいわねぇ」
「ありがとうございますネ。ママさん。それは、ごま油と岩塩、丸鳥のスープの粉末で薄味に味付けシタネ」
「あら? この麻婆豆腐は、刺激が少ないですね。甘口」
「花椒は苦手な人がいるかと思い、少なくしたネ。激辛食べたいなら店来るイイネ」
「わー、このお肉おいしー」
「それは中華風ローストビーフネ。妹さんが気に入ってくれて嬉しいネ」
どれを食べても、美味しいのだろう。
だが、俺の本命はアレとアレなのだ!
素早くアワビ様を小皿に移し、口に入れる。
こ、これは!…と言うネタは学食でしたし、素直に感想を言おう。
「アワビうまーー!」
「アワビのオイスターソース炒めネ。量が少なくて薄切りなのは許してネ」
俺がアワビを味わう為、ゆっくりもぐもぐしていると、ある事に気がついた。
おかしい、ハラペコワンコが静か過ぎる。
あのスリムな食いしん坊が、豪華な食卓を前にアクションを起こさないとは。
そう思い、ハラペコ犬に目を移す。
「って、フカヒレ食べすぎでしょーーー!」
「ふひはへふ、ほへはほいひくてふい」
言葉をちゃんと発せないほど、口に入れて食べている。
貴重なフカヒレちゃんが、半分以上餌食になってる。
「千早、他の方の分も考えてお食べなさい…」
「もぐもぐもぐもぐ…ごくっ。すいません、これが美味しくてつい」
このままでは、千早さんに全て持っていかれそうだったので、残った分を皆に取り分ける。
生き残った貴重なフカちゃんを、早速一口。
「つるっとして、ちょっともちっとしててうまー!」
「えっと、それは…あ、ありがとネ」
皆が美味しいと食べる中、お嬢様な月夜さんも一口食べる。
「あら? これは…。菩比さん、このフカヒレは?」
「アハハー、お嬢様にはバレたネ…。用意できなかったので、かわりに頑張ってみたのネ…」
何がばれたのだろう?
「これは、ジャガイモで作ったモドキ料理ですわね。って、縁さん、そんなに落ち込まずとも…。味付け自体は、本物と同じでしょうし、これ自体とてもよく出来ていて、美味しいですわ」
モドキと聞いて落ち込んだが、確かにとても美味しい。
月夜さんは、鳴さんをフォローする為か、精進料理にもモドキ料理があったり、海外でもモドキ料理の専門店があったりと、これはこれでとても素晴らしい料理である。と皆に説明している。
前から思ってたが、月夜さんって優しいよね。
お嬢様なのに、我が侭でもないし、千早さんや瑠璃さんにも気を使うし、引く時は引くけど、いざ事が起こると自分が前に出るし。
俺に構うのだけは積極的だが、普段は胸以外は色々控えめだ。むしろ、取巻きズの方が目立ってる。
…ロールのせいで気づかなかったが、実は非常に常識的なお方なのか。
「そういえば、先程から一言も話しませんわね。瀬田君、具合でも悪いのですか?」
早速、静かな信幸に優しく気を使っている。
「いや、何と言うか…女性七人の中で、男が僕一人で気後れしちゃってさ」
「あれ? そういえばお母さん、お父さんはどうしたんですか?」
今日も仕事で居ないのだろうか?
「何かあった時に居たらめんどくさいからぁ、今日明日は帰って来れないようにしといたわぁ。安心してねぇ、ゆかりちゃん、信幸くん」
俺と信幸に笑顔を向けながら説明する。
何かあった時こそ、一家の大黒柱に居てほしいのに、うちの母は何を言ってるんだろう。
祭が真っ赤な顔で此方を見ている。
あーもしかして、父のテーブル返しを警戒したのか。
「そんなロンリーな瀬田君に朗報ネ!」
鳴さんが、たたたっとキッチンに行って、スープが入ったお椀をもってきた。
「我が家秘伝の佛跳牆ネ! 特に精力増強に重点を置いた奴ネ!」
「えーと、僕だけに?」
「無理矢理連れて来たかなぁ、みたいな罪悪感があるので、お詫びネ! 一壷で数十万する貴重品ヨ!」
「嬉しいんだけど、そんな高い物僕だけ貰えないよ。それに、精力増強ってとこに、物凄い嫌な予感がするよ」
「ちょろまかせた佛跳牆、偶然これだけだったのネ」
横の信幸の席から、すごく良い匂いが流れてくる。
ちょっと飲んでみたい。
「信幸、それちょっとだけ飲んでみたい」
「ん? 大日さんが飲みたいならあげるけど」
「ほんとっ!?」
「え? あ、ちょ、子供が飲むとっ」
信幸が飲んで良いと言うので、遠慮なく貰う。
口に入れた瞬間、様々な味が口内に広がり、言い表せないような幸せな気分になる。
ゴクゴクゴクと一気に飲み干してしまう。
「美味い! もう一杯!」
「………その一杯で終わりネ」
もっと飲みたかったが、残念だ。
しかし、色々な美味しい中華料理が食べれて幸せだ。
美味しい物と楽しい会話で、お泊り会の夕食は大変満足でした。
大量にあったので、残るかなと思ったけど、ハラペコ千早さんが残さず食べましたとさ。
夕食後の片付けは、月夜さんと千早さんに瑠璃さんがしてくれるらしい。
お世話になるお礼だそうだ。
その間、他の皆はリビングで雑談中だ。
俺はと言うと、皆の為にお風呂の準備だ。
「必殺スポンジ二刀流! うりゃりゃりゃりゃ~~!」
説明しよう。
スポンジ二刀流とは、スポンジを両手に持って浴槽を洗う必殺奥義なのだ!
片手だけで洗う場合と速さ的に大差はなく、むしろ両手になった分意識が二分して大変になるかもしれない。
でも、なんとなく楽しいのだ!
「ふぅ、あとはボタンを押してっと」
綺麗に洗ってシャワーで泡を流して、ボタンを押せばお風呂が沸くのは楽ちんだ。
軽く体を動かした為か、体が熱くてぼーとしてしまう。
皆に、お風呂の準備が出来たのを言いに行かなきゃ。
リビングに行くと、月夜さん達も片付けが終わって歓談に加わっていた。
思ったより長く、ぼーとしてたらしい。
「皆、お風呂もうすぐ入れるよ!」
大きな声で伝えると、全員の視線が俺に向く。
ちょっと恥かしい。
「まぁ、それなら、ゆかりちゃんとお友達の皆さん一緒に入ったらどうかしらぁ?」
母が素敵な言葉を言う。いや、素敵だけど、その覚悟はしてなかったよ、お母さん。
「そうですわね。折角のご提案ですし、そう致しましょう」
月夜さんまで同意する。
この先の展開への緊張のせいか、体が熱くて心臓がどきどきする。
このままでは嬉しい、コホン、まずいので、信幸に視線で助けを求める。
「ん? んー、勇気があるなら瀬田君も一緒に入るネ?」
俺の視線に気づいた鳴さんが、信幸に提案する。
「親御さんの居る前で、その手の冗談はきついよ」
「あらぁ? 構わないわよぉ? 信幸くんが、ゆかりちゃんと一緒したいならいいわぁ」
「謹んで、ご辞退申し上げます」
土下座までして、提案を断る心の友。
「行きましょう。大日さん」
覚悟も何も決めないままに、千早さんに連れて行かれる。
藁にも縋る思いで信幸を見ると、目が合った瞬間逸らされた。
お、おにょれ、の~ぶ~ゆ~きぃい~。
浴室に続く扉の前で、衣擦れの音が響く。
きっと、今俺の後ろでは皆が服を脱いでるに違いない。
「あいやぁ、お嬢様、さすが派手な下着ネ」
「ただの赤色なだけですわ」
「いやいや、意匠がすごく凝ってるネ。…メガネは普通に派手ネ!」
「この程度、大日様に比べたら地味です。そう言う貴女は普通に地味ですね。清貧」
「一般人は、コレが普通ネ…」
この会話は、お召し物についてで御座いますね。
体育の着替えの時は、淡々としてるのに、何故今そんな会話をするのだ。
ちなみに、体育の着替えの時は、俺は隅っこで皆に後ろを向いて着替えてます。
「それにしても、前から大きいと思ってたけど…すごい大きさネ」
「あまり大きいと、運動する時に痛くて困りますわ」
「持ってる人の余裕ってわけネ。うわぁ、柔らかい」
「ちょ、ちょっと、急に何をするんですの」
あぁ、後で何かが始まった!
どきどきが止まらない。
誰か相談相手は居ないものか!
俺は一体どうしたらいいのだ!
悪魔「さっさと後ろを向いて見りゃいいんじゃね?」
おや、いつぞやの悪魔、台詞枠すら持って出世したね。
天使「友人の裸を見るなど、男の風上にも置けませんよ!」
天使までか。
「このサイズでこんなに柔らかいのに、垂れてないとか、どんな詐欺ネ」
「ちょ、そんな、あっ」
「お気持ちはわかりますが、無い物ねだりはおやめ下さい。ナイチチ」
「私よりあるからって、調子に乗ってるネ?」
そうか、鳴さんより瑠璃さんのほうがあるのか!
悪魔「男なら、据え膳なんとやらだぜ」
天使「男なら、我慢の時です」
どっちの言い分も一理ある。と言うか、どっちも俺の心の声だろうから、一理どころか本音なのだが。
「ほ、菩比さん、も、もうやめ、んっ」
「あ、つい気持ちよくて…むむむ、下から持ち上げると何と言う重さネ!」
「菩比、お嬢様が苦しそうだから、もう止めるといい」
「く、苦しいと言うか、その」
「あー…真のナイチチの言うとおりネ。やりすぎたネ」
「はぁ…はぁ…」
はっ、お嬢様の見せ場が終わってしまった!?
急いで天使を説得せねば、このままでは色々後悔してしまうかもしれなくもない。
天使天使、ほら、今俺って女だし?問題なしみたいな?
悪魔「女が女の裸を見ても、普通だな…。さっさと服ぬいで風呂入れ」
あれ!?悪魔が急に投げやりに!?
天使「女性が女性の裸を見るのは普通ですね…。説法のし甲斐がない」
天使まで!?ってか、君ら何気に息合ってるよね。
「ナイチチとは失礼ですね! ちゃんとありますよ! ほら!」
「はいはい、あるわねーよかったネー」
「昨今流行の男の娘よりは無さそうですが。清貧乳」
「二人とも、自分よりあるからって…。男の子よりはありますよ!」
天使の説得も終わり、そろそろ覚悟を決めなければ!
ここに来る前からの胸の高鳴りが、ドクンドクンと激しく脈打つ。
でもあれだね、悪魔も投げやりで、天使も止めないと、逆に行動に移せないよね。
「ちゃんとあると認めてください!」
「はいはい。おーアルネ。ぷにぷにとメガネのお腹のお肉くらいの柔らかさで」
「ここは、お腹ではないのですが…」
「貴女より女性的なだけで、無駄な脂肪はありません。火之夜も、貴女のもちゃんと需要があるのですから、安心なさい。ぺったん」
ぼちぼち俺の心臓も限界だ。
どきどきの鐘楼が止まらない!
熱に浮かされながら、後ろを振り向く。
いざ行かん!我らが理想郷へ!
ぷしゅ
何かが弾ける音と共に、天井が見えて、意識がぼーとする。
「ゆ、縁さん、大丈夫ですの!?」
「あ、あー…」
「これは、もしや…白状するべきかと。中華」
「あのスープさ、男性用で、しかも子供に飲ませたらまずいやつだったんだよね…」
「大丈夫ですか? 大日さん!」
薄れ行く意識の中、ぼやける視界で四人の天使を見た。
…あぁ、ここにあったよ理想郷。
一人リビングで横になってると、母が入ってきた。
「ゆかりちゃん、具合はどう?」
「もー大丈夫ー」
あまりの興奮のせいか、鼻血を出して倒れるとは…。
ギャグ漫画的な事をしてしまい恥かしい。
「お友達は皆、ゆかりちゃんの部屋に居るから、ゆかりちゃんも今お風呂入ってきたらぁ?」
皆はもう、お風呂から上がって部屋で待ってるのか。
立場的にホストなのに、ゲストを放置とか良くないな。
「うにゃー、じゃあ入ってきます」
「えぇ、今すぐ! しっかり! お風呂入ってくるといいわぁ」
まだちょっと、ぼーとするけど入ってきますかね。
服を脱いで、お風呂の扉を開ける。
「え? 大日さん…?」
「ほえ?」
先客と目が合う。
扉を閉じる。
タオルを巻いて、リビングへ向かう。
「おかぁ~~さ~~~ん!!」
無事にお風呂を済まし、ジャージ姿で部屋に入る。
そこには色とりどりの華が咲いていた。
「縁さん、元気になりましたのね。良かったですわ」
真っ白なガウンに身を包み、弾けんばかりの二つの膨らみの谷間が見えている。
「縁ちゃん、ごめんね」
薄いライトグリーン色でまるでタオル生地のようだ。大人し目で派手さはないけど、可愛らしい。
「お風呂ご一緒できずに、真に残念でございます。しょんぼり」
紫色の薄く少し透けたワンピースのようだ。メガネがなくて、髪も三つ編みじゃないせいか、大人な迫力がある。
「大日さん、無事でよかった」
白いTシャツに、黄色と白のストライプのホットパンツと、色気はいまいちだが実にらしい。
「心配させてごめんね」
俺の純情ハートでは、まだまだあの試練は無理だった事への謝罪をし、皆の輪に加わる。
すでに布団も敷き終わって、皆寝る準備は万端のようだ。
ちなみに、布団は田の字に敷かれている。
俺はベッドがあるから四人分だね。
「そ、それにしても、皆個性的な寝巻きだね!」
内心の興奮を隠し切れず、少し大きな声になる。
あまり興奮すると、うっかり倒れるので気をつけよう。
「まぁメガネとナイチチは個性的で済むネ…。でも、お嬢様のそれはナンネ」
「あら? ただのガウンですわよ?」
「それもだけど、さっきからチラチラ見えてるネ。中はどうしたネ?」
「? 寝る時ガウンを着るなら、中は何もないのが普通ですわ」
自分のベッドに座りながら聞いているが、何故ここに座ったのだ!
教室のように、何故あの膝の上に居ないんだ俺!
「貴女は随分お淑やかで可愛らしいですね。乙女でもアピールしてるんですか? 狙いすぎ」
「そういうあんたは、それちょっとケバイんじゃないの?」
皆普段と違って、髪を下ろしてるせいか、いつもより色っぽい。
月夜さんは、少しロールの残滓があるけども。
「確かに、尾母鐘は少し派手すぎますね」
「まぁ大日様に比べたら、私のなんて足元にも及びません。反省」
「そういえば、縁さんの寝巻きはどんなのですの?」
うん?俺の寝巻きは、現在進行形で着ているジャージですよ。
「あー、縁ちゃんのパジャマとか気になるネ。どんなに可愛いネ?」
「ジャージが寝巻きじゃないんですか?」
「何をボケてるのですか、大日様がジャージなんて、無粋な物で寝るはずがないでしょう。洗濯板」
「そ、そういえば、そうでしたね。…ちゃんと、ありますよ!」
俺のパジャマ様はジャージ優勢なのですが、謎の調査でアレがばれてるんだっけか。
前向きに、今の人生を生きていくと誓ってるので、アレも受け入れるべきなのか?
でも、それは俺には難易度高すぎですよ?
「縁さんの可愛い寝巻きを、早く見てみたいですわ!」
「縁ちゃんのパジャマ、きっと可愛いネ。早く見たいネ!」
今生の四人のお友達に、期待の視線で急かされる。
友達の期待を裏切れない気持ちと、男しての何かの矜持の狭間でクラクラする。
悩む心は置いといて、期待の目には逆らえず、フラフラ幽鬼のようにある場所へ。
そっと仕舞ってあった薄い布を取り出して、皆に見せる。
「…わ、私のはコレ…」
ベビードールって言うんですって。
夜も更けて、良い子も悪い子も寝静まる中、俺の意識は覚醒中だ。
むっちり気持ちの良い物に包まれて、どきどきして眠れない。
何故か月夜さんに、抱き枕にされて寝てるからだ。
楽しく微妙に残念な会話も、俺が寝巻きに着替えた頃には終焉し、さぁ寝ましょうかとなりました。
そして、電気を消してベッドに入ろうとした瞬間、しゅるりと月夜さんに絡めとられ、布団の中に捕獲された。
そのまま現在、お嬢様専用抱き枕として頑張ってます。
そんなの気にせず寝りゃいいじゃん。とか思う人も居るかもしれない。
でもですよ、いつもは制服越しなのに、今の後頭部の感触は直接体温すら感じるのですよ。
ほとんど半裸の女性に抱きしめられて、普通に寝れる男子が居るでしょうか?
いや、居ない!
前を向くと、月明かりに照らされて、無垢な顔で寝ている鳴さんもいる。
こんな状況で寝れるやつは男じゃない!
このままでは俺の神経擦り切れると、危機感を覚えたので、別の開いてる部屋に脱出だ。
ゆっくりと、腕の中から抜け出して、自分の枕と掛け布団をもって部屋を出る。
キィと音が鳴る扉を静かに閉めて、一人廊下に躍り出る。
「ふぅ、助かった」
静かな廊下で、一人安堵のため息をつく。
その時、サァァァァァァと外の木の葉の音が流れ行く。
暗い夜、静かな場所、風の音…。
昼間のゾンビを思い出しちゃったよ…。
一人で開いてる部屋で寝ようと思ったが…それは断念してある部屋へ。
静かに扉を開けて、部屋に入る。
敷かれてる布団を確認して、そっと枕をそこに置き、ゆっくり布団に入る。
「いや、そんなに自然と布団に入られると、僕としてもどうツッコめばいいかわからないよ…」
「ゾンビを思い出して怖いんだ。一緒に寝てくれ」
避難場所に選んだのは、安心安全安泰の大親友、信幸の部屋だ。
「…皆と一緒に寝てたんじゃないの?」
「あれはあれで、興奮して寝れない」
同じ男だから、分かるはずだ。俺は元男だが。
「それで、こっそり抜け出して僕のところへ来たと…」
「うむ、他に安全な場所が思いつかなかった!」
「そんなに威張って言われても、僕は困るんだけど…」
こんな怖がって震えてる俺を追い出そうというのか!
正直、今の俺は一人でおトイレにも行けないほどビビってるぞ!
「そんな子犬みたいな目で見られても…。…はぁ、わかったよ」
「さすが信幸だ!」
許可が出たので、安心して布団に乗り込む。
うむ、ぬくぬくじゃ。
「…そういえば、確認なんだけど、火之夜さんや尾母鐘さんも一緒の部屋に居たんだよね?」
「うん? 一緒の部屋でぐっすり寝てたよ?」
俺が返事をすると、信幸はゆっくりとドアの方へ歩いていく。
む、おトイレか、怖いので一緒に行くぞ。
そう思い、布団から出ようとしたら、信幸がドアを一気に開いた。
ドタドタバタ
複数の人が、重なって倒れるように部屋に入ってくる。
「くっ、瀬田君、貴方は女性に興味がないと聞いて油断してましたわ!」
「せ、瀬田君、ゴメンネ」
「これは一体なんなんですか?」
「貴女は黙ってなさい。KY」
「ゆかりちゃん、ごめんなさいねぇ」
「や、やー、お姉ちゃん、邪魔してごめん!」
怒った月夜さんや、何故か謝ってくる母と妹など、今家に居る全員がそこにいた。
「…これは…本当に早めに何とかしないとまずい…」
皆が部屋に入ったのを確認したら、信幸が頭を抱えて悩んでた。
俺は状況についていけず、わいわいと騒いでる皆を見ているしかなかった。
千早さんじゃないけど、一体なんなんだろうね?
結局その後、ゾンビが怖いと白状した俺は、母の部屋で一緒に寝ることになった。
初めての母との就寝で緊張するかと思ったが、母がしてくれたアロマテラピーとやらの匂いのせいか、すぐにぐっすりと眠れた。
信幸は、母の部屋に向かう途中に見たら、月夜さんの指示で千早さんに簀巻きにされてた。
何か隠れて悪い事でもしたんだろうか。
色々あったけど、お泊り会は楽しかったな。
お腹が空いてるときに書いたら、食事風景だけで1話書くところでした!
コレが今の作者の全力です。
期待した人ごめんなさい(><