表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/35

9話 フラグ?

ずるずるずる…もぐもぐもぐ…。

これはアゴ出汁か。

関東ではカツオ出汁が主流だが、讃岐うどんにはアゴ出汁の方が好みだ。


「ここのうどん美味いなぁ」

「でしょ? 値段も200円だしね。体育会系の部活をやってる人とかは、三杯食べる人も居るよ」


今日は信幸(のぶゆき)と話す為に、昼は学食に食べに来ている。


「そっちのカツ丼も美味しそう」

「一切れなら食べてもいいよ」


優しい友の言葉に、遠慮なく一切れ貰う事にする。

こ、これは!衣はサクッとして噛み心地がよく、肉自体は程よい歯ごたえがあり、噛めば噛むほど旨みが出てくる!

卵のとろみと、出汁の風味、そして肉の味が渾然一体となり、三重のハーモニーを奏でている。


「うーまーいーぞー」

「あはははは、口から光でも出したら完璧だね」


たわい無いやり取りをしつつ、楽しく昼食を食べる。


「それで、何か相談したい事があったんじゃないの?」


楽しく食事が進むので、本題をすっかり忘れてた。

うっかりさんめ!…俺の事だけど。


「昨日の将棋勝負の原因だけどさ。皆でお泊りする家をどうするかで、菩比(ほくひ)さんと月夜(つくよ)さんが揉めたからなんだよねー」

「あぁ、その仲裁をして欲しいってこと?」

「いあいあ、違いますって」


何処に泊まるかも問題ではあるのだが、それよりも頼みたい事があるんだよ。


「信幸も、一緒にお泊りに参加してくれ」

「ぶっ」


飲んでいたお茶を少し吹きこぼしている。

きちゃないぞ、信幸くん。


「な、なんで僕が参加しなきゃいけないの?」

「そりゃあ、人生初お泊り会だし? 友達が月夜さんしか居ないのは不安じゃん? と言うか信幸が居ないと不安だ」


仲良くなる為とは言え、泊まりの中で友達が月夜さんしか居ないのは不安だ。

あの人の場合、居る事自体がある意味不安だ。


「友達が御堂(みどう)さんだけって言うのは、まぁ置いておくけど、りゅ、大日(おおひる)さん、ちなみにメンバーは?」

「んーと、発案の菩比さん、月夜さん、千早さん、瑠璃さん、それに俺と信幸」


うむ、これで全員のはずだ。


「あー、大日さん、昔読んだハーレム物の主人公に対してなんて言ってたっけ? 美女四人に主人公が囲まれるやつ」

「皆の好意を受けて、ニヤニヤしてむかつく。誰か一人に決めるんじゃなくて、鈍感な振りしてダラダラ良い目ばかり見やがって、極大トラップにでも(はま)って昇天すればいいんだ」


何故奴らハーレム主人公はもてるんだ。

俺なんて、女の子にもてたことなんてなかった。

むしろ、男から嫌がらせにラブレター貰ったりだったと思うと、むぉおお、許せん!

俺だって、多数にもてたいとは言わないが、男のうちに恋愛くらいしたかった。


「うんうん、その気持ちを思い出してくれて良かった。じゃあ、さっきの提案を振り返ろうか」

「うん?」


ハーレムとお泊りで何かつながりがあるのか?


「参加メンバーは、普通に可愛い女の子の菩比さん、超美人のお嬢様な御堂さん、スリムなポニテの火之夜(ひのや)さん、文系美形眼鏡の尾母鐘(おもがね)さん、それに大日さんだね」


間違ってないけど、俺は良いとして、火之夜千早さんだけ可愛いとか美の装飾がありませんでしたよ?

すぐ笑ったり、落ち込んだりする可愛い人なのに。


「この女子五人のメンバーの中に、男の僕が入ったら、僕がハーレム主人公みたいで、むかつくでしょ?」

「あー…」


確かに、客観的に見ると信幸がハーレム主人公だな。でもまぁ…。


「信幸ならいいよ。親友だし、応援するよ。ハーレム作りたいなら応援だけはするよ!」

「ぐわっ、失敗した!? この方向じゃ駄目だった!?」


信幸なら仕方ない。実際顔は良いし、性格も良いし、親友だし。

きっと、全員に誠実に向き合う事だろう。


「隆一は良くてもさ、クラスの男子とかに知られると、僕が怨まれちゃうかもしれないから!」

「その可能性はあるか」

「うんうん、それに親御さんも、僕が泊まるのとか反対するはずだしね!」

「うーん、じゃあ保留にしとくかぁ」


よく考えたら、参加者や泊まる先の許可も取らなきゃいけないのか。


「よ、良かった。これで僕は助かった…」


保留になった事で、安堵している。

そんなに周りに気を使わなくてもいいと思うが、それだけ人が良いと言うことだろう。


「そ、それとさ、ちょっと気になったんだけど、友達が御堂さんだけってどういう事?」

「友達になろう。みたいな話になったのは、月夜さんだけだからだよ?」


友達になりたいの?と聞こうとしたら、なりたいと俺から言ってるような流れになったが、ちゃんと友達関係になるならないの会話は、月夜さんとしかしてない。


「他の三人とも結構話してると思うけど、嫌いだったりするの?」

「全然そんなことはないぞ?」


菩比さんは仲良くなりたいって言ってくれるし、千早さんに瑠璃さんは俺が失敗するとさり気無くフォローしてくれる。


「楽しそうに話したり、お弁当も一緒に食べたり、それにお泊り会をするなんて、もう十分友達だと思うよ」

「そ、そうなの?」

「そうだよ」


そうだったのか…。

友達の定義なんて、俺には正直わからなかった。

もう友達だと言われても、友達になりましょう、はい、とか言葉で確認したわけじゃないし…。


「ち、千早さんと瑠璃さんの前で、友達は信幸と月夜さんだけって言っちゃった…」

「それは、まずいかもしれないけど、そんなに落ち込まないで、戻ったら謝ってみたら?」

「うん、わかった…」

「あー、謝るだけじゃなくて、もう一歩頑張ったら、皆喜ぶかも?」


自分の失敗の対策を信幸に聞きつつ、楽しい昼食は反省と共に終えたのだった。






「今日はこれで終わりだ。帰っていいぞ」


言い出せないまま、帰りのHRまで終わってしまった。


「それでは(ゆかり)さん、また明日ですわ」


月夜さんが挨拶をして、それに二人が続いて帰ろうとしている。

後々になるほど気まずくなって、言えなくなってしまいそうだ。頑張れ俺。


「ちょ、ちょっと待って」


引き止めると三人が此方に振り返る。


「どうしましたの? 縁さん」

「千早さんと、瑠璃さんに言いたい事があって…」

「我々にですか?」

「貴女、またうっかり大日様に抱きついたりしたんですか? 10万馬力」


二人に話があると分かると、月夜さんは一歩下がって二人を前に出す。


「ごめんなさい」

「え? え? あれ、尾母鐘、私何かしましたっけ?」


頭を下げて、二人に謝罪する。

千早さんは、謝ってるのは俺なのに、自分が何かしたと思い慌ててるようだ。


「昨日、二人の事を友達じゃないみたいに言って、ごめんなさい。信幸に注意されて、悪い事言ったと気がつきました」

「大日様、お気になさりませんように。私達はお嬢様の影たる存在なのですから」

「そ、そうですよ。謝る事なんてありませんよ」


二人とも、逆に俺を気遣ってくれる。良い人だ。

もっと大事な事を言わねば。緊張する。


「よ、よよよければ、私とお友達になってくだちゃい!」


噛んだっ!

頭を下げたまま、怖くてあげることが出来ない。

二人はどんな様子なのかな…。


「まぁ、嬉しいです。大日様」


瑠璃さんはおっけーみたいだ!良かった!

千早さんの反応がないので、ゆっくり顔を上げてみる。

ぷるぷる震えてるな。


「大日さん、私でよければ是非友達になりましょう! 嬉しいです!」


動いたと思ったら、一瞬で距離を詰め、力強く抱きついてくる。

喜んでくれてるみたいで、頑張って言って良かった。


喜んでもらえたのと、新しい友達が出来た俺自身の喜びとで、興奮してるせいか意識が徐々に遠のいていく。

リンゴーンリンゴーンという鐘の音が聞こえ始め、急速に眠くなっていく。

頑張ったし…もう、眠っていいよね…。


「お、落ち着きなさい! 千早!」


月夜さんの声が遠くで聞こえた。






羽の生えた赤ん坊との邂逅から帰還を果たし、次は菩比さんと思ったら、すでに教室に居なかった。

明日言わなきゃと思いながら、洗濯物を(たた)む。


「そう~、お友達が出来て良かったわねぇ~ゆかりちゃん」


夕飯を終えて、家族団欒の話題として今日のことを話してる。


何で俺が洗濯物を畳んでいるかと言うと、可能な限り家事を手伝おうと決めてるからだ。

今の所、お風呂の準備と掃除、洗濯物を畳むくらいしか出来てないが。


しかし、これがかなり重要な仕事なのだ。

お母様ったら、油断すると人妻にあるまじき下着を使ってるからね…。

見つけたら、家族平和の為に説教だ。


「んー、それで、結局お泊りは何処ですることになったの~?」

「二人とも譲りそうにないからなぁ。どうしたらいいと思う? (まつり)

「お姉ちゃんが、お泊りはうちでいいですか? とでも言えば、丸く収まりそうだけどー?」

「まぁ、うちにゆかりちゃんのお友達が、お泊りに来るなんて素敵ねぇ」


どうやら、親的にも妹的にも、うちに呼んでもいいようだ。

ちなみに、父は仕事で帰れないらしく、今日は家に居ない。社長って大変だね。


「うちに泊まってもいいなら、明日提案してみる。それと、信幸も参加していいかなぁ? 親の許可がないと駄目って参加保留にしてるんだよね」

「まぁまぁまぁまぁ、信幸くんをゆかりちゃんは参加させたいのね? うんうん、参加おっけーよ」

「へー、うんうん、私も良いよー。どんな人か見てみたいし」


一も二も無く、了承してくれる母に妹。

二人分のブラを畳みながら、二人に返事をする。

何故二人分かは、察するといい。


「じゃあ、明日泊まるのうちで良いか、皆に聞いてみるね。信幸にも、うちの家族は参加しておっけーって言ってたって伝えとくね」

「えぇ、信幸くんには、是非来てもらわなきゃね」


やけに乗り気ですね、お母さん。






ちょっと早めに来た朝の教室で、菩比さんを見つけた。

彼女にもちゃんと言わなきゃ。


「おはよう。菩比さん」

「おはようネ。大日サン」


誰も居ない教室で、頭のお団子を作成中だったようだ。

髪を下ろしてるのが珍しいせいか、いつもより可愛く見える。


誰かに聞かれたら恥かしいし、頑張って今言おう。


「えっと、菩比さん、お友達になって下さい!」


昨日、千早さんと瑠璃さんに言った経験からか、噛まずに言えた。偉いぞ俺。

菩比さんは何故か、きょとんとした顔で細い目を開いてこっちを見てる。

何か失敗したかな。


「あははははは」


急に楽しそうに笑い出した。

どうやら何か失敗したらしい。恥かしい…。


「ごめんごめん、嫌われてるんじゃないかって思ってたから、あまりに予想外のことを言われてさ。なんだか可笑しくなっちゃったの」

「そ、そうなんだ。別に嫌ってなんかいないのに…」


ちょっと怪しい人くらいにしか思ってなかったのに。


「ん、大日さんから、そう言ってもらえて嬉しいな。私の事は(めい)でいいよ。よろしくね」


居住まいを正して、そう告げてくる。


「私の事は、(ゆかり)でいいよ。鳴さん」

「呼び捨てで良いんだけどね。縁…ちゃん」


ちゃん…うーん、ちゃんは断りたいけど、自分の見た目を思い出すと、断りにくい。

せっかく友達になったんだし、ちゃんくらい受け入れるか。


そういえば、お泊り会の泊まり先の提案をしなきゃ。


「鳴さん、お泊り会の事なんだけど――」






パクッと、フォークに巻いたスパゲッティを口に入れる。

クリーム状のソースの滑らかな舌触りに、ベーコンの塩味、黒コショウの程よい刺激が合わさって、複雑な味わいを出している。

その美味しさに、思わず手をパァンと叩いてしまう。


「旨し!」

「そのカルボナーラは、女子に人気のメニューだね」


今日も我が友信幸と、一緒に学食に来ている。


「それで、皆とは上手くいった?」

「うん! おかげで、友達が一気に三人も増えたよ!」


ちゃんと仲直り?出来た事を、信幸に報告している。


「後はお泊り会の事だね。それは、僕は協力できないけど、頑張ってね」

「あ、それなんだけど、俺の家に泊まる事になったんだ」

「そうなんだ。仲裁までするなんて、成長したね。りゅ――大日さん」


うむうむ、新しい人生の中で、俺は日々成長中なのだ。


「で、月夜さんや鳴さんも、信幸参加して良いって。うちの家族も、おっけーって言ってたよ」

「ぶぶっ」


飲んでる烏龍茶を吹きこぼしている。

風邪でも引いてるのかな。


「皆でお泊り楽しみだなっ。信幸も一緒に楽しもうな! 月夜さんに話したい事があるって言われてるから、先に教室戻ってるね」


ちょっと早足で、食器を片付けて教室へ向かう。


「なんでだ、頑張ってフラグは折ってるのに、なんで外堀が埋まるんだ。このままでは僕の命が…ま、負けない、僕は負けない!」


戦う決意をした、確固たる意思を持った言葉が後ろから届く。

あんなに生き生きと覇気がある信幸の声は、初めて聞くな。


何を頑張るのかわからないが、親友として応援しよう。


頑張れ、信幸!




信幸君が出ると真面目になりがちです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ