終-おはなしの先行きは-
ある朝の、森の中の花畑。温かな陽光の中を少女が楽しげにくるくると踊っていました。
「ミーナ」
少年の呼びかけに、彼女は立ち止まります。
「ん、なに?ベア」
ちらちらと、木漏れ日が彼女の顔に陰影をつけます。風が涼やかに駆け抜けていきました。
それに目を細めて、彼はポケットの中からイヤリングを取り出します。白い貝殻の小さなイヤリングでした。それは陽光を反射してきらきらと輝きます。
「これ、置いて行ったでしょ」
少年の声がちょっとだけ低められました。少女はそれに大きく顔をひきつらせます。
「あ、あははは」
笑い声はみごとな棒読みでした。
「危険だって言ったのに、一体何してるの。僕、これでも結構怒ってるんだからね」
途端に少女の表情は曇ります。さっきまでの元気はどこへやら、両手を握りしめてうつむいてしまいました。
「ごめんね。結局私、ベアを引っ張り出すことになっちゃった」
沈黙が流れます。
不安になってミーナが顔を上げてみると、ベアが彼女のところまで歩いてくるところでした。彼の手が彼女の耳に触れます。少ししてから手が離されると、そこには貝殻のイヤリングが下げられていました。
ミーナが不思議そうにベアを見返すと、彼は優しく微笑みます。
「いいんだ。君は僕にきっかけを与えてくれたんだと思う。まあ、それはちょっと……強引な気もするけど。でも、決めたのは僕だ」
「それは君のものだよ。似合ってるしね」と言って彼女に背を向け、花畑の外へと歩いて行きます。
「ベアは、これからどうするの?」
彼は振り返らずに首を傾げました。
「うーん。どこか、暮らしていけそうな場所を探そうと思ってる。魔術もあるし、どうにもならないってことはないと思うんだ」
風が小鳥のさざめきを乗せて吹き抜けます。ミーナは素早く息を吸って意を決すると、歩きにくい花々の中を駆け出しました。ベアの背に飛びつきます。
「わ、み、ミーナ?」
それに慌てたのは彼の方でした。心なし顔も赤くなっています。しかし彼女は自分の思い付きに頭がいっぱいで、そんな彼にはお構いなしでした。
「じゃあ、私のところに来ればいいんじゃない?今は一人だけど、何年か前までは三人で暮らしてたから、家が広すぎて困ってたところなの」
「でも」
「嫌だったらいいの。でもそうじゃないんだったらどうかな、って」
その言葉にベアは考え込みました。ゆっくりと、大きな白雲が流れ過ぎて行きます。人気のない森の奥。長い長い時間が過ぎて行ったような気がしました。
やがて、彼は振り返ってミーナと目を合わせます。今しがた自分の手で彼女の耳につけたイヤリングに手を触れました。
「……ミーナがいいんだったら、じゃあ、お願いしようかな」
途端に彼女の顔がぱっと明るくなりました。朝の日の光もかくやという輝きようです。
「うんっ」
勢いよく頷きました。晴れやかに笑います。そしてベアの手を取って花畑へと引っ張り込みました。くるくるくるくるとでたらめに踊り出します。すると手をつないだままの彼も、くるくるくるくると踊る羽目になりました。
「ま、まって、ミーナ」
花の甘い香が広がります。遠く、木々のざわめきも聞こえてきました。木漏れ日も一緒にくるくるくるくると踊ります。
少年と少女の笑い声は聞くものもない森の中で、一際鮮やかに響いていくのでした。
―幕―
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