5.仕事
「陛下、休憩を」
「ああ、そろそろいれよう。エルウッドも下がれ」
政をしている時のコーデリアは男口調で話す。
コーデリアは、宮殿では男の衣装を身にまとって、男のような振る舞いで闊歩した。
「女」を捨てたことを見せることで、政治よりも結婚話(王なので結婚も十分政治の話ではあったが)に花を咲かせたがる貴族を牽制した。
完全に所作も言葉遣いも、上等な貴族のそれだった。
女性らしさが不自然でない程度に抜け、美貌も相まった中性的な姿は、宮殿の男、女ともに逆の意味で色めきたたせたが、縁談を遠ざけるコーデリアの作戦はある種成功していた。
「エルウッド、下がれといったのが聞こえなかったか?」
「陛下こそ、休憩されるのではなかったので?」
「……あなたにはかなわないね、ウィル」
コーデリアは演技を取り払って素に戻る。
コーデリアがウィル、と呼んだのは侍従長だった。
ウィリアム・エルウッド。誰の思惑なのか、元婚約者の弟が侍従長。しかも、兄と同じで騎士団に所属していたはずなのに、いつの間にか侍従長。
ただし、エリックとは髪の色も顔の雰囲気も違う。似てない兄弟だったのが、コーデリアには救いだった。
けれど、同じ色の瞳で見つめられると弱い。
「もう、何日寝室に戻られていないとでも?」
「3日くらい」
「いえ、もう5日になります。今日こそは、ベッドで寝て頂きますよ」
「わかったわ。ただ、この案件と視察の件に目を通したらね」
「そこまでにしておけ」
第三者の声に振り返ると、そこにも見知った顔があった。
王太子、兼、宰相。
「アディ」
「お前、エルウッドから聞いたぞ。食事もまともに取らないんだってな。神に祝福された王が倒れたら一大事だ、休め」
「前と食事量は変わらないはずよ」
「一度の食事量は変わらないくても、食事の回数が減れば必然的に摂取量は減るだろ、お前馬鹿か?」
「そのせいで、体重が6キロ、スリーサイズも落ちてしまって…」
「って、そこ!なんで知ってるの、ウィル」
ちなみに、昔のスリーサイズも現在のスリーサイズも何故か詳細に知っているウィリアム。
あれ、おかしいな。
エリックが生きている時、見た目は標準男性でがっちりしてはいるが性格は可愛い年上の義弟だったはずなのに。
少し、というか、だいぶショックは拭えないが、体調管理も仕事のうち。
侍従長はともかく、宰相まで心配させているとは思わなかった。
「思ってたよりも仕事たまってたんだもん。アディのお父様、外遊とかしてるくらいだからこんなに溜まってるとは思ってなかったし」
「仕事をしないので有名だったからな、父は。そこは謝罪しよう。でもそれとお前が休まないのは別問題だ」
「だって、時間がないんだもの……あと、2年。2年経ったら、アディに全てを渡すから。アディに全部を教えないと」
女王となったその日。
詳しくは何も話さなかった。
ただ、彼女は彼女自身の即位は数年であり、そのあとは、王太子で従兄のアドルフ・キャロル・ジュニアス・グリースに譲渡することを宣言した。
それが自分が即位をするための条件であると。
それから、彼女はただただ「時間がない」と言ってすべてを急いでいるようだった。
理由はいずれ話すという。
ウィリアムは少しは事情を知っていたが、すべてを知っているわけではない。
だけれど、兄が生きている時から垣間見える儚さだけは知っていた。
「とりあえず、この案件が終わらないとワセリンとの友好関係を保つのが難しい。でも、ワセリンと国交をたってしまうと我が国には不利益しか被らない…。でも、それを国民に理解させるなら私が動くのが一番でしょう?」
コーデリアが指をさしたのは、使節団に関する書類だった。
ワセリンへの不信を煽るのは、前王を襲撃し、エリック・エルウッドの死を招いたことだ。
前王はそれがきっかけで療養に専念するために譲位を行なっていることもあって、グリース内ではワセリンに対する国民による反抗活動が行われている。
それだけですむなら大事ではないがそれを扇動し、戦争へ発展させようという貴族の動きも出てきた。
冷静に見て、ワセリン国内で起こった襲撃で、グリースが受けた被害も尋常では無い。
けれど、それが原因で戦争を起こしてしまうのは、ワセリンに嫁いで、友好を必死につなぎとめた者の祈りをムダにすることである。
ワセリンの現王妃は、アドルフの妹であり、コーデリアの従姉。
身内だからという甘い判断ではないが、コーデリアは薄々、グリース国内のいざこざを国際問題に発展させたものだと考え、それに関する情報を収集している。
情報を集めている途中だからといっても、何も手を打たないわけにはいかない。
そのためにも。
「私が、ワセリンを訪おうと思ってる。きっとそれが一番効果があるわ。アディとウィルも連れて行くわよ…教えないといけないことはいっぱいあるんだから。だから、往復1ヶ月、滞在1週間、前後をみて2ヶ月分くらい案件は前倒しにしないとね」
笑ったコーデリアは、その後、身嗜みを整えるためだけに部屋に戻る生活を1週間繰り返し、前王が半年かけて終わらせた仕事を、1週間で終わらせた。
それに付き合っていたウィリアムもアドルフも、げっそりしていたのに、当の本人だけはけろりとしていたため、二人がコーデリアのことを化け物扱いしたとかしないとか。
本当は完全なコーデリアの独り語りがきっとストーリー展開がわかりやすいし、
もともと一人称で話を書くのが好きなんで私もそれで考えて作ってるのを
無理やり他の視点にしてるのでわかり辛い構成ですみません…
もうちょっと先に進んだら、ココらへんを完全なコーデリア視点にしたものを書こうかなぁと思ってます。
(コーデリア視点にすると結構先のネタバレが…)




