3.日常
どこをさがしても、あなたがいない。
それは、哀しい真実。
それでもさがしてしまうのは、愚かな自分。
****
まるで、あの日がなかったかのようだった。
コーデリアの兄、アルバートは、勘当を解かれた妹を見ていて信じられなかった。
無理をしている様子もなく、ただただ以前のような日々を過ごしているのである。
彼女は、昔から政ということが非常に得意であった。
王宮での地位もあり領土のことは留守にしがちな父、騎士として働いていた長兄の自分、文官として王宮に仕えている次兄。
テオフィンドールの姓を持つ男は、残念ながら領土のことは頭にありながら、他事に気を取られがちだった。
それを許したのは、コーデリアの善政があったからだということを、1年前の勘当で身にしみていた。
信じられないことだが、当時16歳だった一人の伯爵令嬢が、テオフィンドールの領土をすべてを支えていた。
すべての実権をたかが小娘に任せていた当主も当主だが、この1年で残念なことに、テオフィンドールの地は無残なほどに荒れてしまった。
今、彼女は黙々と資料に目を通し、当主である父と次期当主のアルバートと三人で施策を話し合っていた。
主に彼女の意見ばかりが採用され、伯爵自身も舌を巻いてそれに唯々諾々と従うばかりの様子を見て、苦笑いしかできない。
コーデリアのビジョンは、目先のことだけではなく、1年先、3年先、5年先、10年先と未来を見越した政策を打ち立て、現状のデータと見合わせ、その比率を上手いバランスで調整していた。
彼女が政治が上手いのは、幼い頃の経歴もある。
血筋もよく、身分もいい上に神の祝福がある彼女は、王太子妃の最有力候補であり、ほぼ決定していた。
そのため、幼い頃から政治に携わり、多くの要人とも関係を持ち、根回しの方法も、人の使い方も、先を見通す力も、教師も誰も追いつけないほどに成長をしていった。
それを見ていた父親が、いつの頃だったか、テオフィンドールの土地の管理を任せた。次期当主であるアルバートのことも差し置いて。
「アルお兄さま、聞いていらっしゃいます?」
ぼうっと回想をしていたアルバートの様子に気づいたコーデリアの少し拗ねた声で、アルバートは我に返った。
わざわざ騎士団を予定よりも早く退団して、コーデリアの引き継ぎをしているのである。
自分はこれほどうまく見通しを立てて道筋を立てられるとは思わないが、少しはそれを得なければ困るのは領民である。
「ごめんごめん、コーデ。聞いてるから、ね」
2時間あまりの引き継ぎが終わると、夕食の時間になった。
父との仲もすっかり復帰したコーデリアは、常に笑いがたえなかった。
あの日以来、彼女を泣く姿を自分も、弟のブライアンも見てはいない。
情けない兄たちに、もうこの子は自分の弱さを見せてはくれないのだろうかと思う。
思い返してみれば、彼女が最後に泣いていたのを慰めたのはいつだったのだろうか。思い出せもしない自分に、アルベルトは小さくため息をついた。
まとめて休暇を取ることがようやくできた、次兄のブライアンがテオフィンドール家に帰ってきたのは夜更け過ぎだった。
あのクソバカ上司め、せっかくの妹とゆっくり出来る機会を、と思ったが、もう日付も変わろうとしている時間である。
もう、妹には会えないだろうと思って肩を落としたブライアンだったが、よく見ると庭に影が一つ。
不審者かと目を凝らし、武闘派の兄を叩き起こそうかと思ったら、愛しい妹だった。
「コーデ?」
声をかけてたが、反応はなく。
満月の月明かりの下、よく見ると彼女は涙をこぼしていた。
ブライアンは少し離れたところで、彼女を見ていた。
ブライアンが知っている「泣く」と言う行為とは違っていた。
声も上げず、ただ遠くを見つめ、祈るような表情で涙がこぼれ落ちる彼女の姿はどこか儚げで消えてしまいそうだった。
いつも花のように笑い、周りを明るく照らす、誰からも愛される妹の様相からかけ離れた姿にブライアンは胸を痛め、静かに屋敷に入り、楽な格好になってベッドに横になる。
ブライアンも、アルベルトも、「エリック・アベル・エルウッド」の存在はよく知っていた。
アルベルトは、騎士団に属している中で、ブライアンは王宮にいる中で、その人の動向というものは際立ってよく聞こえた。
上司としても、一人の人間としても、少し潔癖で真面目すぎるきらいはあったが、王の深い信頼も勝ち得ている男だった。
娘を王太子妃、のちの王妃にと望んでいた父親には残念だったが、兄たちはエリックであれば可愛い妹を任せられると納得しており、コーデリアが自分で勝ち得た良縁であると二人の結婚を草葉の陰から見守っていたのである。
そんな折の、騎士団にいる以上は、ありうるかもしれない、でもあっては欲しくなかった、エリックの死。
信じられないほど元気にしていると兄からは手紙をもらってはいたが、その死は17歳の妹の身には重く、きっと消化できないのだ。
昼間はどうしているかはわからないが、夜は暗闇に物事を隠すことはできても、真実から逃げるには静かすぎるのかもしれない。
きっと明日には何事もないように振る舞うのだろう。
そんな、不器用な強さを持つ妹のことを案じながら、ブライアンは目を閉じ、意識を手放した。
難産だった上どの設定を採用にするかを悩んだ挙句、兄視点(しかも×2)で進むという暴挙。しかも説明ばっかりで少ししか話しが進んでなくてすみません。二人の立ち位置もまだうまく説明しきれていないという。
王宮に彼女が上がるまで、家族以外が出てくる予感がしません…。。。
次は、コーデリア視点になる予定。




