初めての出会い
窓から入ってくる、暖かい日差しに、清田がうたた寝をしかけていると、一限目の授業が終わった。
続けて同じ授業があるので、ニ限目が始まるまで休もうと、机に体を突っ伏していた。
少し経った頃、隣の方から椅子に座る音が聞こえたので、清田は何気なく目をやった。
少し焦った様子の女性が席についていた。
鞄からノートと筆箱を取り出し、しきりに前方にある黒板に目をやっている。
しかし、この授業を教える教授は黒板に書く量が多く、
スペースがなくなると消していたので内容はよくわからなくなっていた。
清田も、あまりの本格的、いや、殺人的文字数に驚きと、手首の心配をしたほどだった。
女性は、諦めたのか、静かに座っていた。
周りを見渡していた、友達を探しているのか、それとも授業の内容を気にしていたのかわからなかった。
しばらく様子を見ていたが、もし困っているとしたらかわいそうだと思い、清田は思い切って声をかけてみた。
「すいません」
ビクッ!と体を反応させ女性は清田を見た。
「あの、ノート写します?」見ず知らずの男にいきなり話しかけられたのである
当然一瞬驚いたがすぐに、
「ありがとうございます!助かります!」
と笑顔で応えた。
正面から女性を見ると、可愛らしい顔立ちに魅力的な笑顔の持ち主だった。
少しみとれていると
「うん?」
と女性がそれに気付き顔を見てきたので、少し取り乱しながら
「あっ、どうぞどうぞ」
とノートを差し出した。
ノートを写している間も、気になってはいたが、机に突っ伏していた。
まだ写し終わってないところでニ限目の授業が始まったので、授業が終わってからまたノートを貸すことにした。
授業が終わり、またノートを貸した清田は決心していろいろ話しをしてみることにした。
「あの、えっと〜、何さんですか?」
「えっ」
女性は少し驚いたが、笑みを浮かべて、
「ユン・ハンナです」
名前を聞いても清田に驚きはなかった。
アジア、その中でも、日本人、韓国人、中国人、台湾人に関しては、見た目で判断できるという自称特技?を持っているからだった。
「僕は清田和哉です。えっと韓国の方ですか?」
「はい、留学生です」
「日本語すごく上手ですね」
わずかに訛りがあるが、違和感なく日本語が聞けるレベルである。
「ありがとうございます!あっ、ノートありがとうございました」
使い分けもバッチリできている。
頭が良いんだろうなあとうなずきながらしみじみ思っている清田。
それを見て、ユンは微笑んでいる。
「清田さん、面白い人ですね」
「えっ!そうですか!?あ〜なんか恥ずかしいなあ」
そう言うと二人で笑った。
あっという間に休憩時間も半分を過ぎていた。時計を見て、ユンは言った。
「あっ!時間が。授業大丈夫ですか?私、次はないんです」
「えっと」
時間割りを印刷した紙をリュックの中を掻き回しながら探しだし見る清田。
「あっ。僕もないです。次は四限目ですね。昼があるから、待つ時間が長いです。やることがないのでちょっと退屈です」
そう言う清田にユンは
「それだったら、私、これから留学生の人達一緒に清田さんも来ます?」
「えっ!いいんですか?」
授業までの長い時間の使い方が全く白紙だった清田にとって、その提案は嬉しいものだった。
さらに、友達をつくりたいという気持ちもあるのだ。
「いいですよ!私も一人だと緊張するので、あとお礼もしたいし」
「いえ、お礼なんていらないですよ!誘ってもらって嬉しいです。あっあの僕、別に変な人じゃないですから。変な人?やな人?何ゆってんやろ。自分でもわからんようになってきた」
清田は自分で言って自分で勝手に焦っている。
それを呆気にとられて見ていたユンだが、
「ははっ!」と笑顔で見つめ
「清田さん、やっぱり面白い。それに優しい人。もうお友達ですよ」
そう言う、ユン・ハンナは清田には天使に見えたようである。
「ありがとうございます。はい、もう友達です。あっ、僕は清田和哉なので、清田と呼びすてでも和哉でも呼んでください」ユンは頷きながら言った
「それじゃあ、かず君と呼びますね。私は友達にはハンナと呼ばれていますが、何でもいいですよ」
「う〜ん、それじゃあ、ハンナちゃん…ハンちゃんで」恐る恐る顔を向けると、
「はい、いいですよ」
と言うユン改めハンの笑顔にまた癒される清田ことかず君であった。