導かれしもの
ビルを出て、駅に向かう道中、二人は後ろを振り返ることなく話し始めた。
「奴らはまだ信用してないみたいですね」
若く爽やかな顔立ちの男が言った。
「まあ、あの規模では一回で信用はできんってことやな」
スーツのボタンを外しながら、もう一人の短髪のガッシリとした体格の男が答えた。
「はぁ〜、どうします?」
「でかいとこ行くしかないやろな」
「でかいとこっていうと?」
「そやな〜、銀行なら本店クラス、それか現金輸送車とかか?」
「でも、厳しいですよね、奴ら何をやろうとしているんだか」
「裏社会の支配か、もしくは…日本を」
一瞬緊張感が張り詰めた。
「そうだったら、大変なことになりそうですね」
「やらせはせえへんよ」」
その返事に呼応するかのように短髪の男も
「もちろんです」と力強く答えた。
駅から地下鉄御堂筋線に乗り、難波に着いた。
「空…いや、和也、腹減ってるか?」
体格のいい男が呼びかけた。
「ますね、かなり。」
和也と呼ばれた男は笑顔で答える。
「それじゃあ、ここで食べましょうよ」
和也は、難波駅近くにある大きなビルを指さした。
「美味しい韓国料理屋があるんです」
「あんまり食べたことないけどまあええわ、案内頼んますわ」
そう言うと、和也の両肩を握りしめた。
「痛っ!力がハンパないですから」
和也は、本気で痛がった。
「おっ、少し筋肉付いたか?まだまだやけどな」
楽しそうに笑いながら後ろにいる男に和也が言った。
「ひろさん、加減して下さいよ。のうりょくの方もですけど…、あと、コードネームで呼ぶの治ってませんね」
「あぁ、訳分からんようなるんよ」
「まぁ、ややこしいっちゃ、ややこしいですけど、真一さんが言ってたでしょ、用心しろって」
ふぅとため息をつきながら、ひろは若干うんざりしながら言った。
「そうやな。ところで店はどこにあるんや?」
「あぁ、ここですよ!よし、すいてる。」
ビルの8階にある韓国料理のチェーン店に入り、席についた。
客は見たところカップルが一組だけのようだ。
「何食べよかなあ、よし、ビビンバにしよ、ひろさんは?」
「同じので」
和也は手でウエイトレスに合図をし呼んだ。
「はい、御注文お決まりでしょうか?」
若く可愛らしい女性が注文を取りにきた。
「あの、石焼きカルビビビンバを二つと、海鮮チヂミで」
ウエイトレスが注文を確認し、厨房へ向かって行くのを見ながら、和也はひろの方を見た。
「あの娘、可愛いですね!ユンさん。留学生かな?う〜ん、可愛い」
「告白してこいよ」
「無理ですよ、振られますから。一度でいいから女性とお付き合いしたいですよ〜」
うなだれながら、テーブルに身体を預けていた和也だが、
「あっそうだ、ビビンバってピビンバって言うんですよ〜、少し授業で韓国語習ってたんですよ」
「そうか」
ひろは、素っ気ない返事を返した。
そうこうしている間に料理が運ばれてきた。
二人は特に話しをすることなく料理を平らげた。勘定を終え、店を出た。
「美味しかった〜」
そう言いながら和也は、先程から気になっていたことを確認するかのように後ろを見た。
横では、ひろが同じ方向、店の中を見つめていた。