想像者の力
学校への通学中の電車の中で清田はあの頃を思い返していた。
それは、なんでもない、いたって普通の毎日をすごしていた日々。
しかし、ある日、起こり始めた身体の異変によって崩れ始めた。
その異変により力が目覚めたのだ。
清田に力が目覚めたのは、二年前だ。
通信制高校に通っていた頃だった、このような力が出現するような特別な事など何もなかった。
ただ、清田自身では、自分の性格や考え方等が影響しているんだと思っている。
幼い頃から穏和で気の小さいな性格、人のことを想える優しい男である。
しかし、それが身体に負担として蓄積されてきた。
きっかけは些細な事だった、駅でうずくまっていた女性を看病した時、
貧血だったろうか、無事に回復したことを見届けたところ、安堵と共にふいに動悸がした。
冷や汗が出て、呼吸が苦しくなる。怖い、怖い、怖い。
今までに感じたことのない恐怖。死んでしまうと思った。
そのまま病院に運ばれた。病院で点滴を受けながら、しばらくすると大分落ち着いた。
先生は体に問題はないと。精神的なものらしい。
その日から、体、心との闘いが始まった。
一年間は家の外に一歩も出ることができなかった。呼吸が苦しく過呼吸や動悸に悩まされていた。
恐怖と闘いながら、将来の事を考えると絶望しそうだったが、
高校を一度辞め、再起をかけて入学した通信制高校への思いを呼び起こし、
清田は気力で再び学校に通い始めた。今では大学生だ。
よくここまでこれたなあと思っていると電車が目的地へ到着した。
学校は入学してから、まだ一週間なので授業は教科の紹介的な内容であったので、少し早く終わった。
友達もつくりたいが、なかなか話しかけれなかった。
「来週からは、もっと積極的にいってみようかな」
清田は小言でつぶやきながら、まっすぐ家路についた。
家に帰ると、お風呂に入り、ご飯を食べながらテレビを見ていた。
全国ニュースが終わり、その後の関西のニュースが流れていた。家の近所が映っていた。
歩いて5分くらいのところにある郵便局である。
三日前にニュースで強盗があったと流れたばかりだが、また何かあったのかと見ていたが、
どうやらその郵便局にお金が返されたそうだ。
「えっ!!どういうこと?」と一緒にニュースを見ていた母と顔を見合わせた。
「何がしたかったんやろ」清田の問い掛けに
「何やろなあ?」と母も答えるしかなかった。
自分達のしてしまった事に後悔したのか。ニュースが終わり、天気予報のコーナーが始まった。
そこで清田は、画面を注視した。画面の向こうでは、明日は雨が激しく降る恐れがあると伝える女性が。お天気キャスターの吉川佳奈だ。清田は言った。
「よっし〜!」
「よっし〜かなんかしらんけど、それより勉強でもしいや」
母のつっこみが入った。
「はい、勉強します」
清田は自分の部屋に冷蔵庫からスポーツ飲料のペットボトルを持って入った。
机にペットボトルを置き、床に座ってあぐらをかくポーズになった。
目を閉じ、息を整え、右手に意識を集中している。10分くらい経っただろうか、清田は目を開けると立ち上がり、机の上のペットボトルを左手でとり、半分くらいを一気に飲み干してから右手に持ち替えた。
右手に集中し、しばらく握り、机に置いた。
「まだまだやな〜」
そう言って首を降りながら、周りに水滴がついたペットボトルを残し部屋を出た。