プロローグ
「すまん、ねぇちゃん」
男は続けた。
「金をくれ」
「えっ!」と受付の女性は、思いも寄らない言葉に驚いて一瞬動きが止まったが、
何か文字らしきものが書いてあるマスクを被っている風貌、そして男の手に握られているナイフを見て状況が読めたのだろう。少しの間をあけたあと、カウンターの下に右腕を伸ばそうとした。
その瞬間、女性の視界が遮られた。後ろにいた男の手が顔をわしづかみにしていた。
同時に声が聞こえた
「西口さん、お金、お願いしますね」
顔を掴んでいる手の間から、文字を確認できた。
−空−、最初に来た男は、と確認しようとした時、何も考えられなくなった。言葉も勝手に口をついて出た。
「はい」
「ありがとう」
そう言うと、西口と名札に書いてある女性は、つい先程とは別人のような表情、態度でカウンター内で機械を扱いだした。
そして、少ししてから男の元に歩いて来て言った。
「どうぞ」
微笑を浮かべながら、一万円札の束を持ってきた。見た感じで、ざっと五百万といったところか、金を受け取った男は周りを見渡した。
従業員が三人、客は近所に住んでいるであろう杖を持った年配の女性が一人。男達が入ってきた時は隣の受付で従業員の女性と話していた。
マスクを被った者が入って来たのである、もちろん隣の従業員の女性と客の女性も気付いたのだが、恐怖のあまり身体が固まってしまった。
もう一人の従業員は奥にいたが、こちらには全く気付いてはいなかった。
「よし、さっさとずらかるか。」 チラッと男は空と書かれたマスクの男を見た。
「後のことは頼むよ、西口さん」
そう言った空と書かれたマスクの男がもう一人の男と共に銀行の出口へ振り返り歩きだした
「女には何をしたんだ?」
車の中でマスクを脱ぎ、運転している男が尋ねた。
「えぇ、彼女に後片付けをまかせました」
そう言うと後部座席に座っている空のマスクを手に持つ男は微笑を浮かべた。それをバックミラー越しに見ていた運転している男は口元を緩め言った。
「楽しくなりそうだ」