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鳥籠に咲いた愛の花  作者: 朝凪
2章

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27/37

“エレオノール芸術コンクール”

小説家・朝凪すずの筆は、もはや止まらなかった

エレオノールと出会ってから、朝凪は“吸血鬼”という単語を異様な速度で量産した

彼女は書いた

書いて、書いて、書き散らかした

純血の吸血姫が夜を歩き、ホストは姫を守り、銀座の女王が笑い、夜の貴族が静かに見守る

ーー結果。読者は熱狂し、SNSは燃え、スズキ文庫の神棚には朝凪の写真が増えた

しかし、朝凪の作品が刺さったのは一般の読者だけではなかった


そう、芸術家たち


画家、彫刻家、写真家、小説家、映像作家、音楽家……などなど

彼らは、物語を読んだ瞬間に「これは芸術になる」と確信した

そして厄介なことに、こういう者たちは大抵腕がいい

最初は、ひっそりと始まった

SNSの片隅に、妙なタグが生まれた


#小夜鳴鳥

#銀の月の誓い

#夜のガヴァネス


イラストが増え、曲ができ、短編動画が生まれ、二次創作も作られた

界隈は盛り上がり、勝手に熱を帯び、そしてーー


「いっそ、競えばよくない?」


誰かが言い出しっぺとなり、誰かがノッた

別の誰かが規約を作り、さらに別の誰かが運営アカウントを作り、応募フォームも出来た

その名も、“エレオノール芸術コンクール”

本人の許可?ーー無い

主催者の責任?ーー知らない

しかし作品数だけは、異常に集まった

絵画、彫刻、香水、短編映画、詩、踊り、オペラ……etc.


そして、金賞が決まる

受賞者は、イギリスの画家であるアルバート・エヴァンズ

作品名は、“夜のガヴァネス”

そこの描かれていたのは、キャバレー「Canaria」の空気そのものだった

夜の空気、金色の照明、グラスのきらめき、キャバ嬢たちの熱と憧れ

その中心に、エレオノールは立っていた

優しく指導しながら、誰も逆らえない“威厳”を持った存在として


インターネットにこの絵が出回った瞬間、世界中が震撼した

そして、アルバートの才能に惚れた2人がいた

ーーオーギュストと、マダム・ミヤコだ

2人にとって、優れたものに金銭を注ぎ込むのは当然のこと。むしろ、支払わないことを恥とすら思っている


そんな2人に、アルバートは呼び出された


ーーーーーーー


ーーマダムの屋敷

豪奢、というと陳腐になる

庭の石畳も、噴水も、植木1本にすら“高級感”がある

だが、下品では無い

全てが計算された上品さで、ここが“選ばれた者の世界”だと知らせてくる


アルバートは玄関で立ち尽くしていた

無名では無いが、有名でも無い画家からすれば、完全に“場違い”であった


「え?……え?僕、本当にここに入っていいの……?これ、王宮…?」

「こちらへどうぞ。主人がお待ちでございます」


出迎えた使用人が淡々と答えた

アルバートは震える手で靴を脱ぎ、屋敷に入る

その様子を、廊下の陰から朝凪が見ていた

ーーなぜ朝凪がいるのか?

答えは簡単だ。彼女は勝手に来る


「取材です。取材。私は関係者ですから」


そんな朝凪に、マダムは笑いながら許可を出した

そうなったら無敵である


応接室にはマダムとオーギュストが揃っていた


「あなたがアルバートね。“夜のガヴァネス”は素晴らしい作品だったわ」

「は、はい!ありがとうございます!!」


アルバートは反射で返事をした

ほぼ条件反射だ


「お前に依頼がある」


オーギュストは、今日も王の如く威厳たっぷりであった

アルバートは直感で理解した


(この人、人間じゃ無い……)


だが逃げられない。夜の頂点の2人に呼ばれて、逃げられる者なんていない


「エレオノールと、義弟の肖像画を描け」

「え?あのご夫婦の肖像画を??か、描きます!!!」


アルバートは即答した。間髪入れずに


(芸術家って怖いよなぁ……命より芸術が勝つ)


朝凪はメモを取りつつ思ったが、彼女だって似たようなものだ


「資金は惜しまぬ、最高の材料を使え。期限は2ヶ月だ」

「あ、ありがとうございます!!」


アルバートは泣きそうだった

なにせ、芸術家は金と理解者に弱い


こうして、エレオノールと紫苑の肖像画制作が始まった


ーーーーーーー


2ヶ月後。マダムの屋敷で肖像画のお披露目が行われることになった

応接室にいるのは6人

マダム、オーギュスト、アルバート、エレオノール、紫苑、そして朝凪


応接室には、1枚の大きなキャンバス(布がかかった状態)が置かれている

アルバートは深呼吸をした

緊張で肩が震えているが、目だけはギラギラと輝いていた


「では、発表します」


布が外された

現れたのはーー紫苑とエレオノールが並んで立つ姿

エレオノールは優しく微笑み、紫苑は彼女に穏やかな視線を向ける

背景は夜。けれど暗いだけじゃない。光がある

2人が一緒にいることで生まれた、柔らかい夜


「……素晴らしい」


まず賞賛をしたのは、マダムだった

オーギュストは絵を凝視し、眉を寄せる


「ふむ……義弟に関しては100点だな」

「そうね!まるで今にも動き出しそうだわ。素晴らしい」


アルバートは胸を撫で下ろした

だが、次の言葉でその安堵は粉々に砕けた


「しかし、エレオノールに関しては65点だ。オーラが足りぬ」


紫苑と朝凪は心の中で叫ぶ


(65点!?この絵で!?この人の採点基準はどうなってる!?)


しかし、マダムは興味深そうに笑った


「あら……厳しいのね」


アルバートは青ざめーー次の瞬間、シャウトした


「そうなんですよっ!!」

「え?」


紫苑は間の抜けた声を出してしまった

アルバートは絵を見つめ、拳を握りしめる


「エレオノール様の、女王のような気品と幼い姫のような無垢さ!!人外の妖艶さと美しさ!!その全てを同じ画面に、同じ肌に、同じ目に宿らせる……!それには、僕の腕ではまだ足りないっ……!!」


朝凪は高速でメモを取っていた。今のセリフを次回作で使う気である

そして、オーギュストは珍しく口角を上げた


「ほう、中々わかっているではないか」


もはやアルバートは涙目だった


「よし、次はエレオノール1人の肖像画を描け。私の寝室に飾る」

「……………」


紫苑はジト目でオーギュストを見た


(寝室に飾るな)


それをスルーし、オーギュストはサラッと言った


「あと、この絵は我が家の玄関に飾ろう。来客に“我が誇り”を見せつけたいからな」

「あら狡い!私もこの肖像画が欲しいわ!ドローイングルームに飾りたいもの!」

「なら、もう1枚描かせればいい」

「もちろん描かせるわ」


アルバートは、ほぼ条件反射で返事をした


「ありがとうございます!!!」


芸術家というのは“依頼”に弱い生き物だ。特に、お金に糸目をつけない依頼主には


「質問いいですか?」


朝凪が手を挙げた


「なんでそこまで芸術家に貢ぐんですか?」


オーギュストは「何を当然なことを」とでも言いたげに答えた


「決まっているだろう?優れた才能に投資をするのは貴族の義務だ」


マダムも頷く


「文化はね、お金と才能があって初めて発展するのよ。資産家として文化発展に貢献するのは当然だわ」


朝凪は興奮した


「……最高。思想が強すぎて好き」


紫苑は一種の恐怖を感じていた


(この2人が手を組んだら、芸術界がひっくり返るんじゃ……)


そして実際ーーひっくり返った

朝凪の最新作によって、この発言が広まりまくったのである

“文化を支えることを義務と考えるパトロンがいる”と


腕のいい芸術家たちは熱狂した

ーーあのパトロンに認められたい

ーーもっと高みに行きたい

“本物のパトロン”の存在は、彼らにとって天上の甘露のようなものであった


ーーーーーーー


お披露目会が終わり、屋敷の廊下でエレオノールが小さく息を吐いた


「わたくしの絵、65点ですって」

「いや、信じられないよ。俺には100点以上に見えたけど」

「お兄様の採点は厳しいのですわ」

「厳しいってレベルじゃ無い」


エレオノールはクスッと笑い、紫苑の袖をちょんと掴んだ


「でも、紫苑が100点なら、それで良いですわ」

「……ありがとう」


紫苑は少し顔を赤らめ、お礼を言った

隣で笑うエレオノールが幸せそうなら、それで良い


夜はさらに深くなる

そして、文化革命の波は止まらない

リアクションとか頂けると、作者は泣いて喜びます(T ^ T)

どうぞ、よろしくお願い致します

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