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鳥籠に咲いた愛の花  作者: 朝凪
2章

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25/37

エレオノールの1日キャバ嬢体験

きっかけは、園田の土下座だった


「お嬢さん、お願いです。1日だけ…1日だけでいい。嬢達に接客の見本を見せてもらえませんか」


園田と一緒に「Nightingale」へやって来たキャバ嬢達も、口々に言う


「先生の接客が見てみたいんです!先生の接客する姿を見たら…もっと学べる気がします」

「私達、先生のやり方をちゃんと真似できてるか知りたいんです!」


しかし、紫苑は即座に反対した


「ダメ。危ない」

「………紫苑」


エレオノールは好奇心を隠せない声で言った


「わたくし……やってみたいですわ」


そう言われて仕舞えば、紫苑は反対できない

そしてもう1人、エレオノールの援護者が現れた


「歴史的瞬間になります!見たいです!!」


ーー朝凪だった


ーーーーーーー


というわけで数日後。エレオノールは「Canaria」の控え室にいた

キャバ嬢達は、どうやってエレオノールを飾り立てようかと目が血走っていた


「こっちのドレスが」

「いや、この色の方が」

「先生にはこのメイクが似合う!」

「アクセはこれでいい?」

「いや、やっぱりこっちでしょ?」


ーー結果

紫色の肌を見せすぎないドレス

アメジストが鎮座したネックレス(エレオノールの私物)

メイクは薄く、口紅も控えめ

髪はまとめ、うなじを少しだけ見せる


キャバ嬢達は理解した。エレオノールの武器は露出でも濃いメイクでもない

内面からにじみ出るオーラと、持って生まれし美貌だと


鏡の前で完成した彼女を見た瞬間、控え室が沈黙した

ベテランキャバ嬢がポツリとこぼす


「……終わった。客が死ぬ」


控え室に入って来た紫苑は、ピシッと固まった

喉が鳴る

“彼女が欲しい”と、本能が叫ぶ


「……エレオノール」

「どうですか?」


エレオノールは無邪気に笑う

紫苑は胸の奥から絞り出すように言った


「……危険、かな」

「え?」

「俺の理性が」


一拍おいて、控え室から歓声が上がった


「先生ぇぇ!!」

「エレンさん、恋してる顔だ!!」

「尊いがすぎる!」


控え室の隅に張り付いていた朝凪は、早くもペンを走らせていた


(書ける……!これだけでラブコメの1章分……いや、1冊分……?)


ーーーーーーー


「Canaria」開店

エレオノールは“新人嬢”として、最初は端の席に座った

キャバ嬢や園田は「上座に座ってもいい」と言ったが、エレオノールは


「わたくしは今日が初めてですもの。お店のルールに従いますわ」


と微笑んだ

キャバ嬢と園田の、エレオノールへの評価が爆上がりしたのは言うまでもない


“先生”が居るという事で、今日の客は厳選されている

園田が信頼する常連、紹介筋が確かな者、トラブルゼロの紳士のみだ

エレオノールが最初についたのは、上品な中年紳士だった

園田は耳打ちする


「……先生、こちらは本当に安全な方です。安心して下さい」


エレオノールは頷き、席に向かった

その歩き方だけで、フロアが静まる

“歩く音”が違う。焦らず、重心がブレず、足音が柔らかい

新人キャバ嬢が背後で手を握りしめた


(これ……授業で見たやつだ……!本物……!)


エレオノールは席に着き、軽くお辞儀をした


「こんばんは。エレオノールと申します」


お辞儀は深すぎず浅すぎず、相手に圧を与えない

けれど、まるでバレエを観ているように美しい


「……噂以上だね。君が“先生”?」

「先生と呼ばれるほどでは……でも、皆さんと一緒に学んでおりますわ」


その返しが上品だった

驕らないけれど、卑屈にもならない

紳士は自然と背筋を伸ばした


「……今日は仕事帰りですか?」

「そう。忙しくてね……」


紳士が話し始めると、エレオノールは遮らない。相槌も程よく入れる

そのかわり、言葉の端々を丁寧に拾う


「忙しいのに来ていただき、光栄ですわ」


結果ではなく、選択を褒める

紳士は一瞬止まり、次に笑った


「そう言われると、嬉しいものだなぁ…」

「ありがとうございます。今日はここで休んでくださいませ」


新人キャバ嬢と朝凪は夢中でメモを取っていた


ーーーーーーー


次の席は、20代後半の男たち

時計も靴も派手で、声も大きい

“俺たちが主役”という騒がしさ


「うわ、すげぇ。新人?この店、レベル上げた?」


男の1人が笑いながら言う

エレオノールは微笑んで座る


「こんばんは。お席に混ぜていただいても?」

「もちろん!ねぇ、何歳?」


それを聞いたベテランキャバ嬢が、冷や汗をかく

こういう質問は危ない。雑に扱われる動線だ

でも、エレオノールは眉ひとつ動かさない


「年齢は、秘密にしておきますね。代わりに……皆さまの“今”を教えてくださいませ」

「今?」

「1番楽しいこと、1番怖いこと、どちらか1つだけでも聞きたいですわ」


男達が顔を見合わせる

普通、キャバ嬢は“相手を持ち上げる言葉”を探す

しかし、エレオノールは“相手が自分で話したくなる扉”を用意する


「楽しいのは……金が動く瞬間かな」

「そして怖いのは、飽きられること」

「……正直すぎだろ」


彼らは笑いあった。けれど、その笑いは少しだけ柔らかい

エレオノールは微笑んだ


「飽きられるのが怖いのは、真剣に取り組んでいるからですわ。飽きられても平気な人は、最初から心血を注いでいませんもの」


男の1人がふと黙った


「……それ、刺さるな」

「刺していませんわ」

「言い方が上品すぎる」

「上品さは、努力で身につきますわ」


ここで、男がふざけた


「じゃあ俺、上品になったらモテる?」

「上品になったらモテるより先にーー“自分を雑に扱う人”を嫌いになれます」


男が目を丸くする


「……それ、いいな」


男達は黙ってグラスを置いた

その瞬間、周囲の空気が変わる

男達は、エレオノールに丁寧に接し始めた


紫苑は遠くで思う


(エレオノール、接客で人生の価値観を矯正している……)


朝凪はメモが止まらない


(これ、ただの“体験回”じゃない。“啓蒙回”だ……)


ーーーーーーー


和やかな雰囲気の中、「Canaria」に1人の男が乱暴に入ってきた

紫苑やキャバ嬢はすぐに察する。“危ない”と


男は40代前後

高いスーツを着ているが、品がない

酒や香水の匂いが濃い。どこかのキャバクラでたらふく飲んできたのだろう

そして、金でなんでも買えると思っている目をしていた


園田の顔が青ざめ、キャバ嬢達はエレオノールを避難させようとした

しかし、エレオノールは颯爽と男の席に着く

逃げないが、近くもない距離で


「おい、新人?すげぇな、この店、そういう路線にした?」


男が下卑た笑いを浮かべる


「こんばんは。ご一緒させていただきます」

「名前は?」

「エレオノール、と申します」


男の目が光る。獲物を見つけた目


「触らせろ」


店内の空気が凍る

キャバ嬢達の背筋が硬直する

園田は一歩動き、紫苑の目が鋭くなる

朝凪はペンの動きを止めた


しかし、エレオノールは動じない。笑みさえ浮かべている

でも、瞳の奥は鋭い


「申し訳ありません。わたくし、“許可した方”以外に触って欲しくありませんの」

「は?何様?」


眉を吊り上げた男に対し、エレオノールは微笑みを崩さない


「あなたが今欲しがっているのは、私ではなくーー“拒まれない権利”ですわ」

「………あ?」

「拒まれない人間になりたいのなら、相手を尊重するしかありませんわ」

「説教かよ。キャバ嬢のくせに」


その言葉は、地雷だった

“くせに”

ーー夜の女達が、何千回と吐き捨てられてきた言葉


エレオノールは、怒らない

怒りで戦ったら、相手の土俵に乗るから

代わりに、静かに戦う


「“くせに”と仰る方は、誰かに“くせに”と言われるのが怖いのです」

「………何言ってやがる」

「あなたは今、怖いのですわ。支配できないものが目の前にいるから」


男の笑みが消える


「調子乗んなよ」


男が立ち上がる気配がしたーーその瞬間、紫苑が影のように現れた

彼は笑っている。完璧な接客の笑顔

でも目は笑っていない


「お客様。この方を困らせるなら、店を出ていただきます」

「誰だお前」

「店の者です」

「ただの黒服が偉そうに」


紫苑は微笑んだまま言う


「偉そうではありませんーー“礼儀”です」


男が一歩前に出た

近い。拳が出てもおかしくない距離

ここで、エレオノールが立ち上がった


「エレン」


紫苑をそっと制した彼女は、男に向き直る


「この店は“品位”を大事にしております」

「品位?笑わせんな」

「品位を笑う方は、品位を持つ人間に“選ばれない”人生を歩みます」


男の顔が歪む。何か刺さったようだ

真実は、時に殴るより痛い


園田が合図をし、屈強なスタッフが現れる

紫苑が少しだけ前に出て、最後通牒を落とす


「ーー退店をお願いします」


男は引きずられるように出て行った


扉が閉まった瞬間、店内の雰囲気が戻る

キャバ嬢達は一斉に息を吐いた


「先生……怖く、なかったんですか」


新人キャバ嬢が問いかける

エレオノールはフッと微笑んだ


「怖かったですわ。もちろん。でもーー怖い時ほど、自分を見失ってはなりません」


紫苑がエレオノールの肩に手を置いた


「……無事でよかった」

「あなたがいたからですわ」


2人の甘い雰囲気に、召されかけるキャバ嬢達だった


(これ、絶対売れる。エレオノールさんもエレンさんも強すぎる)


そして、朝凪は震える手でメモを取り続けていた


ーーーーーーー


閉店後。控え室で反省会が始まる

キャバ嬢達は緊張しながら座っていた

エレオノールはにっこりと笑い、静かに話し始めた


「今日わたくしが学んだ事。それは、“皆さまは毎晩すごい事をしている”という事です」


それだけで、新人キャバ嬢達は泣きそうになる


「先生……ありがとうございます……!」


そして、エレオノールは言った


「けれど、お客様に品位を求めるなら、自分の品位を捨ててはいけません。皆さまを軽く扱う人は、皆さまの人生をも軽く扱います」


キャバ嬢達は頷き、園田は泣いた


「皆さまは、もう立派なカナリアですわ。これからはーー自分の翼で自由に飛んでくださいませ」

「「「はい、先生!」」」


朝凪は書く気満々だった


「タイトルもう決まった……“1日キャバ嬢体験記”……いい…売れる……!」


紫苑はエレオノールの隣に立ち、そっと言う


「エレオノール、帰ろう」

「ええ」


その返事は仕事を終えたキャバ嬢の顔ではなくーー恋する女性の顔だった

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