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鳥籠に咲いた愛の花  作者: 朝凪


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2/10

2人だけの秘密

あの夜から、紫苑は夜毎やって来た


最初は、庭の外で警戒したまま立っていた

次の日は半歩だけ近づき、3日目には庭の隅っこに立ち、1週間経つ頃にはエレオノールの隣に座っていた

エレオノールはその変化が嬉しくて、毎日手作りのおやつを用意した

マドレーヌ、クッキー、チョコレート。時には焼き立てのパンを

紫苑は食べ方がぎこちなかった。食べ散らかしはしないが、上品でもない

“食べ慣れていない”ーーそれが痛いほど伝わった


「紫苑、今日はサンドイッチにしましたわ。これなら野菜もとれるでしょう?」

「こんなに、いいの?」

「ええ、紫苑はもっと食べないと!そんなに痩せていては病気になってしまいますわ」

「…………ありがと」

「すぐに紅茶も淹れますわね」


おやつや紅茶を受け取るたび、紫苑は嬉しそうに笑う

日々が経つにつれ、怯えた獣のような表情から、健やかな子どもの表情へと変わっていく

それを見るだけで、エレオノールの胸は何故か温かくなった


ある夜、エレオノールは屋敷から絵本を持ち出した

厚い皮表紙に、金箔のタイトル。屋敷の書庫から拝借した古い童話集だ


「今日はこれを読みますわ」

「……じ、よめるの?」

「わたくし、読書ばかりしてるの」


言ってから、エレオノールは少しだけ悲しくなった

ーー読書をするか、刺繍をするか、お菓子を作るか

この3つしか選択肢がない事が、鳥籠しか知らない事実を彼女に突きつけた


2人はシートの上に並んで座り、エレオノールが本を開く

紫苑は物珍しそうに絵本を見ていた


「昔々あるところに、人間の王子様と吸血鬼のお姫様がいました」

「きゅうけつき?」

「……え?知らないの……?」


紫苑はコクンと頷いた


「……血を飲んで生きる一族のことよ。わたくしも吸血鬼なの」

「エレオノールも……?」

「そう」

「なら、きゅうけつきって、やさしいんだね!」

「え……?」

「だってエレオノールはやさしいから」


エレオノールは、嬉しさに頬を染めた

そして、恥ずかしさを隠すように本の朗読を続ける


「ーー王子様を庇って大怪我を負った吸血鬼の姫。王子様が血を与えると、姫の傷は癒えるのでした」


エレオノールがその一節を読むと、紫苑がポツリと言う


「………エレオノールも、ちをのむとキズがなおるの?」

「ええ。吸血鬼は、血を飲むと傷がすぐに治るの。特に…好きな人の血は特別なのですわ」

「すきなひと……」


紫苑はその言葉を繰り返す

まるで、大事なことを確かめるみたいに


「じゃあ、エレオノールがケガをしたら、ぼくのちをあげる!」


唐突な宣言

紫苑の黒い目は、まっすぐにエレオノールを見つめていた

エレオノールは息を飲む。胸の奥が一気に熱くなった

吸血鬼の心臓はゆっくりとしか動かないのに、まるで早鐘のように暴走してしまう


「紫苑……!」

「だって、エレオノールはいつもくれる。おやつもハンカチも……やさしさも。ぼく、なにもかえせてない」

「返さなくても、誰も怒りませんわ」

「やだ!かえしたい!」


エレオノールは笑って、でも泣きそうになって、紫苑の手を取った

紫苑の手は、温かい。吸血鬼の冷たい手とは違う、生きている人間の体温


「……では、約束。わたくしが怪我をしたら、紫苑に助けてもらいますわ」

「うん!やくそく!」


それは小さな恋の芽だった

鳥籠の中で育った吸血鬼の少女と、寒さに震えていた人間の少年が結んだーー秘密の約束


けれど、秘密は長く続かない

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