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鳥籠に咲いた愛の花  作者: 朝凪
1章

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2人だけの結婚式

思い出の庭は、夜に1番美しくなる

月が高く昇るほど、葉の影は濃く、花の輪郭は解け、風の音が柔らかく響く

まるで、この場所そのものが2人の秘密を守ってくれているみたいだった


紫苑はもう人間ではない

喉の渇きも、低い体温も、血に反応してしまう本能もーー全部、身体の奥に根を張った

それでも彼は、怖くなかった

怖さより先に、大事なものがあったからだ


エレオノールが、ここにいる

失わないと決めた人が、いる


2人だけの結婚式

指輪もない、ケーキもない。参列者も、ブーケもない

ただ、庭の真ん中に立つ2人と、銀の月だけの結婚式


それで十分だった


紫苑は、ほんの少しだけ緊張していた

胸の奥が、人間の頃と同じように熱を持つ

淡い月色のドレス姿のエレオノールは、ため息が出るほど美しい

栗色の髪が夜風に揺れるたび、紅い目が月光を映して輝くたび、紫苑は自分の運命がそこに収束して行くのを感じた


2人は向かい合う

長い時間を超えて、ようやくたどり着いた距離


「病める時も健やかなる時も」


エレオノールは丁寧に言葉を紡ぐ


「紫苑を愛することを誓います」


月光が、彼女のまつげに触れて淡く輝いた

誓いの言葉が、祈りのように空へ登る

紫苑は喉が熱くなるのを感じた。血を飲まなければ生きられない体になったのに、涙だけは人間の頃と同じように溢れてきそうだった


紫苑は笑ってしまう

こんなにも幸せで、こんなにも苦しいなんて


彼はエレオノールの手を取った

冷たいはずの指先が、今日は少し温かい


「貧しい時も裕福な時も」


紫苑はエレオノールの目を真っ直ぐに見て言った


「エレオノールを愛すると誓うよ」


“誓う”という言葉は、紫苑にとって重い

守れなかった過去がある。だから、今度は守る。今度こそ守り抜く

この誓いだけは、絶対に折らない


2人は自然と距離を詰める

エレオノールが少し背伸びをして、紫苑が少し身をかがめる


銀の月の下。2人はそっと唇を重ねた


深くはない。けれど確かで、長いキスだった

互いの存在を確かめるための、永遠の合図


紫苑は思う

この唇が、血の味を知るまで

この腕が、誰かを失う恐怖で震えなくなるまで

この心が、愛されることに慣れるまで

どれほどの年月をかけてきたのだろう、と


奪われることも、傷つけられることもあった。苦しみを幾度も超えてきた

そして、2人はここに立っている


エレオノールが微笑んだ


「………紫苑。これで、わたくし達はーー」


紫苑はその言葉の続きを、キスで塞いだ

言葉よりも確かなものが、今夜は欲しかった

彼女の唇の温度、吐息の甘さ、指先の震え。全部が“誓い”の証明だった


「……幸せ?」

「はい、この上なく」


紫苑は笑って、エレオノールの額にも口付けた


「俺も。……この上なく」


庭の木々が、夜風に揺れた

葉の擦れる音が、まるで祝福のささやきのように降り注ぐ


2人は手を繋いだまま、庭をゆっくり歩き出す

これから先、夜は長い。永遠の近い時間が続く

餓えも、恐怖も、世界の偏見もーー消えはしないだろう


それでも、2人は迷わない

エレオノールを、紫苑を、今度こそ離さない


月の光が2人の影を重ねる

鳥籠の鍵は、もういらない

これからは、2人で一緒に歩くから


銀の月の下で交わした小さな結婚式は、誰にも知られない

けれど、2人の中ではどんな豪華な式よりも輝いていた


そして、夜が深まるほど、庭が静かに歌い出す

それは小夜鳴鳥の歌にも似た、風と葉擦れの旋律


ーーおめでとう

ーーずっと、ずっと一緒に


その祝福を抱いて、2人はもう一度そっと口付けた

長い年月をかけて、苦しみさえ超えて、ようやく結ばれた2人はーー

今夜、この上なく幸せだった


ーーーーーーー


紫苑の花を愛した小夜鳴鳥は

黄金の鳥籠から羽ばたきます

そして今も花の隣で

静かに歌っているのです……

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます

1章はこれで終わりです。次回から2章に入ります

2章の1話目は、今日の夜に投稿します。新キャラも出ますので、お楽しみに!

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