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鳥籠に咲いた愛の花  作者: 朝凪
1章

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12/37

謝罪と、飛び去る音

エレオノールはふっと目を覚ました

天蓋の布が揺れ、銀の月明かりが床に薄く落ちている


(あら……?)


彼女の記憶が確かならば、血を流しすぎて庭で気を失ったのが最後だ

でも、今寝ているのは屋敷の寝室


(……きっと、紫苑が運んでくれたのですね………)


そう思うと、胸に温かいものが宿った


「………起きた?」


すぐそばで、低い声が聞こえた

枕元に座っていたのは、やはり紫苑だった


「………紫苑」


名前を呼ぶと、彼は泣きそうになった

次の瞬間、彼は堪えきれないようにエレオノールの肩へ顔を埋めた


「……よかった………」

「泣かないで……」

「泣くよ。……泣くに決まってる」


抱きしめる腕は強いのに、触れ方はとても優しかった。まるで、壊れ物に触れる手つき

ーーあの夜、白いハンカチで頰を拭った時の自分と同じ触れ方だ、とエレオノールは思った


「……思い出しました」


彼の腕の中で、小さく言う


「おやつ、ハンカチ、あなたの名前……」

「………全部?」

「全部ではありませんが……。でも……あなたの名前は紫苑。森景、紫苑」


紫苑は顔をあげた

泣いて瞳が濡れているのに、笑おうとする


「……わたくし……あなたを置いていってしまったんですね。あの時」

「……ううん。俺も、君を鳥籠に置いたままにしてしまったんだ」


そう言いながら、紫苑はエレオノールの額に口付けた

まるで、長いこと許されていなかったものを確かめるように


扉の向こうで、微かな衣擦れの音がした

空気が一瞬張り詰める

ーー紅い目


けれど、オーギュストは扉のそばに立ち尽くすだけだった

外套の裾が夜風に揺れ、紅い目が月明かりを吸っている

いつもなら絶対に崩さない顔が、今夜はひどく疲れて見えた


「………エレオノール」


兄の声は、静かだった


「目は、さめたか」


エレオノールは紫苑の腕の中から出て、兄を見た

怒りが湧くはずなのに、涙が先に出そうになる

ーーこの人もまた恐怖で壊れた人なのだと、今ならわかる気がした


「……お兄様」


呼んだだけで、オーギュストの表情がわずかに揺れた

そしてーー彼は頭を下げた

吸血鬼の誇りの塊みたいな兄が。誰にも屈しない兄が


「………すまなかった」


短い言葉

それなのに、屋敷中の鍵が外れる音みたいに重かった


「俺は……お前を守っているつもりだった。お前を、失いたくなかった」


オーギュストの声が震える


「けれど、守るふりをして……お前を苦しめた」


紫苑が低く息を吸った

怒りで言葉を吐きそうになるが、耐える

エレオノールは、首を横に振った


「お兄様」


エレオノールは優しく微笑んだ


「わたくしは……確かに寂しかったです。でも……お兄様の事を嫌いになりたいわけではありません」

「………………」

「だから、お願いします」


エレオノールは、オーギュストをまっすぐに見据えた


「わたくしを、鳥籠から出してくださいませ」


オーギュストの喉が動いた


「……わかった」


声は掠れていた


「鳥籠の鍵を開けよう。……お前が行きたいところへ、自由に飛んで行くといい」


その瞬間、窓の外で鳥が羽ばたく音がした

まるで、“鳥籠の鍵が外れた”合図みたいに


エレオノールは、胸の奥で何かが解ける音を聞いた

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