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鳥籠に咲いた愛の花  作者: 朝凪
1章

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対峙

オーギュストの足音は静かだ

静かなのに、木々が震える。夜の空気が重くなる

紫苑はエレオノールを腕から降ろし、背に庇った

彼は人間だ。吸血鬼の力には敵わない

それでも、身体が勝手に動いた

ーー逃げたら、また奪われるから


「…………お兄様」


エレオノールの声は震えている

恐怖だけではない。怒りも混ざっている

思い出したからだ。奪われたことを


闇が割れて、オーギュストが姿を現した

月光を受けて、その美貌は神話みたいに整っている

紅い目が光り、口元だけが微笑んでいた


「………窓から外に出るとはな。俺の小夜鳴鳥は随分と学習したらしい」

「………お兄様。わたくしはもう、籠に閉じ込められるだけの鳥ではありませんわ」


エレオノールが言い返す

その一言が、紫苑の胸を強く打った

“言い返した”ーーそれだけで、彼女は鳥籠から半分出ている


オーギュストの笑みが薄くなる


「………その男のせいか」


紅い目が紫苑を射抜く


「殺されにやってくるとは、人間はつくづく愚かだ」


紫苑は喉が凍るのを感じた

身体の奥が警告を鳴らす

ーーこいつは危険だ。と

でも、足は引かない


「……俺に用があるなら、俺に言えばいい」

「………当然だ。……お前が、俺の小夜鳴鳥を汚した」

「……俺は、彼女を鳥籠から出したいんだ」


オーギュストの表情が、僅かに歪む

だが次の瞬間、彼は笑った


「ーー地獄に送ってやろう」


言い終えるより早く、オーギュストが踏み込む

吸血鬼の速さ

刃が、紫苑の胸を狙う


「っ!」


紫苑は躱そうとしたーーが、間に合わない

刃の気配が迫る


ーーその瞬間だった


「紫苑!!」


エレオノールが紫苑を突き飛ばした


ーー刃が、柔らかな肉を裂く鈍い音がした

血が月光に散る

エレオノールの身体が、崩れ落ちた


「…………え……」


紫苑の声が掠れる

顔に、温かくぬるりとしたものがつく

彼女のワンピースが紅く染まる


「……エレオノール………?」

「しおん……けが、ありません……?」


彼女は笑おうとして、咳き込んだ

唇から血が溢れる


オーギュストは、刃を持ったまま立ち尽くしていた

自分の手を見つめている

何をしたのかわかっていない、わかりたくない目


「俺が………?」


呟きがポツリと落ちる

手から落ちたナイフが、カランと音を立てた


紫苑はエレオノールを抱きしめ、必死に傷口を塞ぐ

でも、血は止まらない

吸血鬼の治癒能力は高い。けれどーー銀の武器なら遅くなる

あの刃が銀なら、致命的だ


ーーその時、脳裏に幼い声が響いた


『ーー王子様を庇って大怪我を負った吸血鬼の姫。王子様が血を与えると、姫の傷は癒えるのでした』


絵本。かつて彼女が読んでくれたもの


紫苑は息を呑む

そしてーーオーギュストが落としたナイフを掴んだ


「エレオノール……」


紫苑は、自分の手のひらを切る

痛い。でも、これでエレオノールが助かるならーー


「………エレオノール」


紫苑は彼女の唇に、自分の手のひらを当てた


「……飲んで………生きて」


ーー甘い香り、温かい血

エレオノールの吸血鬼としての本能が疼いた

……ちゅ、と小さな音

エレオノールが血を飲む

その瞬間、彼女の傷口がジワリと熱を持った


血の流れが止まる

裂けた肉が、ゆっくりと結び合う

まるで時間が巻き戻るみたいに、傷が閉じていく


エレオノールの目に、光が戻る

震える指先が、紫苑の頰に触れる


「……し、おん……」

「……いるよ。ここにいる」


オーギュストは、その光景を呆然と見ていた


「……俺、は……………」


声が掠れる


「エレオノールのことは、俺だけが……守れると……」


紫苑は睨み返す

でも、その目には涙がある

怒りだけじゃない、痛みだけじゃない、そんな目


「………あなたは閉じ込めただけだ」


低い声


「鳥籠の中で、息ができると思うな」


オーギュストの肩が、僅かに震えた

紅い目が揺れる

それは怒りではなくーー迷いだった


エレオノールは紫苑の腕の中で、ゆっくりと息を整える

まだ青白い。けれど、確かに生きている


「………お兄様」


彼女は小さく呼んだ

その声に、責める響きはない

ただ、痛みと、悲しみと、それでも残る愛情が滲んでいた

……オーギュストは、初めて目を逸らした


そんな3人を、銀色の月が静かに見守っていた

庭の上で、3人の運命がゆっくりと形を変える


(……………ここからだ)


紫苑はエレオノールを抱きしめたまま、心の中で呟いた

16年越しの再会は、終わりではない

ーー新しい始まりだ

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