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データが飛んで自分の気持ちと小説の復旧中
「ただいまー」
カランカランという涼やかなカウベルの音を伴ってお店のドアを開けると初穂が楓に気づき、笑顔を向ける。
「おかえりなさい、楓」
カウンターに座るとちらほらと人のいる店内を見渡し―
「ヒマ?」
ストレートな言葉におでこに軽くチョップを入れられた。
「もう。開店したばかりのお店だもの、様子見されてるのよ。
それよりも、お友達を紹介してもらえないかしら?」
初穂の言葉に、物珍しげにきょろきょろとしながら立ち尽くす夏樹と聖にあわてて席を勧める。
「紹介するね。
同じクラスの陽山聖ちゃんと、二つ上の長森夏樹さん」
「はじめましてっ!」
「ども、はじめまして」
元気よく手を上げる聖に、ふらふらとカウンターから出てきてぎゅっと抱きしめる。
「かわいい~。お人形さんみたい」
今朝楓がされたように、頬ずりでもされそうな程に顔を近づける初穂にきょとんとした顔をして、
「お姉ちゃん?」
聖の言葉に楓は吹き出しかけ、初穂は破顔する。
「ありがと~。
じゃあ、お姉さんが何かおごってあげちゃう!
何がいい?」
「じゃあ、ホットケーキっ!」
「OK、任せてっ!」
ぱあんっと二人両手を叩き合わせると初穂は足取り軽く奥へと向かい、その後姿を見ながら楓はこの二人、精神年齢が近いんじゃないかしらと苦笑する。
「やっぱり姉妹に見えます?」
「…って聞くって事は違うんだ?」
問う楓。同じく疑問形で聞き返す夏樹に。
「よく姉妹って言われますけど、私の母です」
『はい?』
「楓~! 言わなくてもいいじゃないのっ!」
「ウソはいけないと思うよっ!」
固まる二人にさらに苦笑し、奥からの言葉に小さく舌を出しながら大きな声で返す。
初穂と楓。
15歳で楓を授かり、16歳で出産したため初穂は現在31歳。
年の差が15歳というのは姉妹でもあり得る年齢差で、そのためか二人で買い物に出かけたりすると姉妹に見られることが多く、ややもすれば楓が姉に見られることもある。
「…すいません。ちょっと、シャワー浴びてきてもいいですか? 久しぶりにプレイしたら汗かいちゃったんで」
すまなさそうに言う楓に了解の旨を返すと「直ぐ戻ります」と残して奥へと向かうドアを開けて姿を消す。
「はい、ホットケーキお待たせっ!」
入れ替わるように初穂がホットケーキをとコーヒーを載せた皿を持ってくる。
「やたっ! ありがと、初穂さんっ!」
「お姉さんでもいいのに…」
手を上げ喜ぶ聖に、ちょっと残念そうな表情を見せる。
さっきのカフェでも、ケーキ5・6個食べてたよなぁ…と思いながら、差し出されたコーヒーに礼を言って口をつけていると、ややあってカウンター越しに座って自分たちを笑顔で見つめる初穂の瞳に気づく。
ちなみにこの間に聖は2枚目のホットケーキに取り掛かっている。
「ちょっと、お話していい?」
夏樹が首肯で答えると「間違っていたらごめんなさいね」と前置きをして、
「二人は方舟の人よね?」
間違っていたら、と言うものの言葉は断定。
聖は一瞬固まり、夏樹もわずかに目を見開く。
「あはは、気にしないで。ただ、何となくこの前来た人達と立ち居振る舞いの雰囲気が似ていたものだから」
笑顔は崩さぬまま、それでもその瞳の奥に真剣な色と微かな警戒を認め、夏樹の表情が引き締まる。
「そうです」
端的に答える夏樹に、笑みを深くする初穂の瞳から警戒の色が消える。
「正直なのね。
この前の人達とは大違い」
「…渉外のほうですね。
その様子だと、失礼を働いたみたいですね。すいません」
素直に頭を下げるとまた笑顔を返された。
「そんなに気にしないで。こっちも気にしていないから。
…今日ここにきたのは楓のスカウト?」
「そうですね。それはあります」
「夏樹センパイっ!?」
若干気色ばんだ聖を手で制すると、言葉を続ける。
「ただ、俺や聖が楓ちゃんと出会ったのは偶然だし、こいつはスカウトのことは立場上知らされてないです。
完全に物のついで、というか流れですね。
それに、一度断られたスカウトですからこっちとしてはそこまで執拗にする気はありません」
夏樹の言葉に苦笑を浮かべ、聖の皿にもう一枚ホットケーキを追加する初穂。
「いいの? そんなこと言って。
怒られたりしないの?」
「んー…決して良い訳ではないんですが、無理やりというのも」
「やる気のない人はいらない?」
ずっぱりと言ってのける初穂に、今度は夏樹が苦笑する。
「そんなんじゃないですよ。
こっちとしては立場が悪くなりようはないし、熱心にしたところで給料が上がるわけでもないんで、やる気のないのはこっちかも」
肩をすくめ、言葉を続ける。
「…方舟は、俺や聖みたいに帰る場所や居場所がない人間にはいいところなんだと思います。
けど、楓ちゃんには家族って言う居場所がある。だから、居場所がある人はそっちを選んだほうがいいって思うだけです」
家族を知らず、力しか持たなかった夏樹はこうせざるを得なかったが、楓には家族がある。
ちょっとうらやましいと思う反面、そういった家族や居場所を大事にしたいという気持ちは理解できる。
今は、仲間がいるから。
「そう…」
視線を奥のドアへと向け言葉を漏らす初穂。
「もう少しかかるかしらね。あの子お風呂遅いから。
…じゃあ、いつでもいいからこのお店にいらっしゃい。次は他のお友達も連れて」
優しい表情で言葉をかけると、視線を落としたままの聖の頭を撫で、きょとんとした表情の夏樹に視線をずらす。
「ふに…?」
「私ね、あなた達が気に入っちゃった。それだけじゃまた来てほしい、会いたい理由にならないかしら?」
「え…。でも俺達方舟の…」
言いかける夏樹を制するように自分の唇に指を当ててウィンクをする。
「関係ないわ。会ってたった1日だとしても、私はお礼を言いたいの。
楓があんな楽しそうな顔を見せてくれたのは久しぶりだから。最近は少し微笑んでくれるようになったけど、笑顔っていうのは本当に久しぶりだったから」
もう一度奥のドアを見つめ、遠い目をする。
「出来るなら、あの子の友達になって欲しい」
「それならだいじょーぶっ!
私、楓ちゃんのこと大好きだもん!」
いきなり復活し、したっと手を上げる聖に今度は初穂が目を丸くする。
「そう、ありがとうね。聖ちゃん。夏樹君も」
初穂の笑顔に、少し気恥ずかしくて夏樹は視線を明後日のほうへ向けた。
その様子に初穂は一人の少年を思い浮かべる。
楓の幼馴染で半身とも言えた少年。
不器用ではあったけれど、本当に楓を思って大事にしてくれていた今はいない少年を。
「もし、何かあったらいらっしゃい。
大きなことを言うわけじゃないけれど、あの子の大切なお友達の居場所くらいにはなれると思うから」
と、奥から聞こえる軽い足音にカウンターから離れる。
「…あ、上がったみたいね。向こうの席、空けるからごゆっくり♪」
「ありがとうございます」
頭を下げる夏樹。
らしくない行動は、嬉しさ半分、恥ずかしさ半分の表情を見られたくなかった照れ隠しだったのは誰にも言えない秘密になった。
色々試行錯誤しながらやっていますが、感想いただけると喜びます




