暴走超特急・美佳【第6駅】超箱入りお嬢様にカップ焼きそばの話をしたら、お嬢様宅のお食事がとんでもないことになってしまいましたダァシエリイェス!!
※この作品は暴走超特急です。途中下車はできません。あらかじめご了承ください。
【アナウンス】この列車は、美佳の晩飯発、西園寺一族行きでございます。
途中、スーパー・厨房・邸内サロンを経由いたします。
お上品駅は通過いたしますのでご注意ください。
──ファストフード店のテーブル
ポテトをフォークに刺し、
優雅に口へ運ぶ須磨子様の前で、美佳が言った。
「昨日、晩飯作るの面倒でさ、
カップ焼きそばで済ませちゃった。」
「……カップ焼きそば?
あの、中華料理をティーカップで作りますの?」
「ちがうちがう!
インスタント! お湯かけて3分でできるやつ!」
「まあ……!
3分で焼きそばが?
それはシェフはとても手際がよろしいのね!」
庶民文化に目覚めた須磨子様の瞳が、きらりと光る。
その瞬間、西園寺家の運命は静かに変わり始めていた。
【アナウンス】次はスーパー駅ー、スーパー駅ー。
ダァシエリイェス!!
美佳に案内され、須磨子様は“庶民食品売り場”へと足を踏み入れた。
執事と黒服のボディガードを従えた一行である。
「まあ……ここが大衆食品店ですのね……!」
「そんな大げさな……スーパーだから!」
棚にずらりと並ぶカップ麺を前に、
須磨子様は神妙な面持ち。
「まあ、“ソース味”と“塩味”……!
同じ焼きそばでも派閥が……!」
「派閥って言うな!」
美佳が止める間もなく――
「庶民文化を語るには比較実験が不可欠ですわ!」
次々とカゴにカップ麺を入れていく。
須磨子様は棚の商品を一つひとつ吟味し始めた。
須磨子様「こちらの“やきそば”……香ばしそうですわね。
こちらの“塩”……さっぱりしていて健康的。
あら、“激辛地獄”…?これは庶民の修行食かしら?」
美佳「それ違う意味で地獄だよ!」
【アナウンス】次は爆買い駅ー、爆買い駅ー。
ダァシエリイェス!!
須磨子様が、カゴを構える。
須磨子様「店員の方! カップ焼きそば、ひと通り全部頂戴!」
美佳「出たよ……!爆買いモード……!」
店員「えっ、ええっ!?
ぜ、全部!?」
須磨子様「ええ、庶民文化の研究には
網羅性が肝心ですの!」
美佳「(すまっち……
それはもう学術調査の域……)」
執事が無言で追加のカゴを三つ取り出し、
黒服たちが列を成して商品を次々と積み上げていく。
あっという間に爆買い行列が形成された。
「お嬢様、レジへお運びいたします」
「ええ、庶民文化を支える経済活動、
今ここにございますわ!」
【アナウンス】次はお会計駅ー、お会計駅ー。
ダァシエリイェス!!
──レジにて。
「お会計は三千八百円でございます」
須磨子様は、執事にひとこと。
「お支払いをお願いいたしますわ。」
執事は懐から、きっちり折り畳まれた──小切手帳を取り出した。
店員「(え、え、え?)」
美佳「ちょっ、待って! ここスーパー! 庶民は小切手使わないのっ!」
須磨子様「まぁ、美佳様。ではどのように?」
美佳「この間電車に乗った時に買ったでしょ?
PASMOやSuicaカードで支払いできるから!」
須磨子様「西瓜でもご会計できますの?」
須磨子様の目がまんまるになる。
美佳「イントネーションが違ーーーう!
果物のスイカじゃなくて!
あーもう!PASMOで会計できるから!」
須磨子様「電車だけでなく、お買い物にも……!?
なんて文明の響き!」
美佳「ピッてするだけで支払えるから!」
須磨子様「……“ピッ”、ですの?
“ピッ”?」
(カードを凝視)
「まぁっ……! これが“文明の響き”というものですのね!」
──レジ前、静寂。
隣のレジの子どもが「ぶんめい…?」とつぶやき、
サラリーマンが飲みかけの缶コーヒーを吹き出しそうになる。
美佳「ちょっ……声がでかいって!」
須磨子様「ですが美佳様!
電車でも“ピッ”でしたのに、
まさか庶民の市場でも“ピッ”ですのよ?
同じ音が鳴るとは……!
まさに文明の波が押し寄せておりますわ!」
周囲の客がくすっと笑う。
美佳は顔から火が出そうだった。
「……ま、まあ、そうだね。
これで“庶民文化体験”もひと段落だし!」
「ええ、とても有意義な学びでしたわ。
美佳様、次はぜひ──」
須磨子様の瞳がきらりと光る。
「わたくしの家の食卓で、
庶民文化を再現してみたいのです!」
「えっ……や、やめといたほうがいいんじゃ……!」
「ふふふ、またお会いしましょうね、美佳様。」
そう言い残し、須磨子様は庶民食品店の自動ドアをくぐり、
黒塗りの車に乗り込んだ。
窓の外で美佳が手を振る。
その顔には、妙な不安が滲んでいる。
(……すまっち、頼むから爆発だけはすんなよ……)
【アナウンス】次は厨房ー、厨房駅ー。
ダァシエリイェス!!
──その夜。
邸内の厨房には、異様な緊張が漂っていた。
須磨子様の手には、庶民文化の象徴「カップ焼きそば」。
シェフたちは包丁を止め、息を呑む。
「この“カップ焼きそば”を作ってみとうございます。」
「お、お嬢様……!? お湯は危険でございます!」
「これは庶民文化の研究ですわ!」
シェフたちは顔を見合わせ、最年長の料理長がうなずく。
「……承知いたしました。
では、わたくしどもが補助を。」
須磨子様は頷いた。
「ええ、庶民の叡智を正しく学ばねばなりませんもの。」
結局、シェフが恐る恐るお湯を注ぎ、
須磨子様はその儀式を神妙に見守った。
立ち上る湯気を見つめながら、
どこか神聖な祈りのような面持ちで呟く。
「お皿に盛らずに…
…このままいただきますの?」
「左様でございます」
「なんて合理的!
ではこれを食堂へ運んで頂戴!」
銀の盆にプラカップが載せられ、
豪奢な食堂へと運ばれていく。
メイドがそっと扉を開ける。
西園寺家の食堂に、異様な静寂が流れた。
優雅な花の香りの中で、
ソースの香りがまるで異国の風のように漂う。
須磨子様はナプキンを膝に置き、
銀のフォークを手に取った。
「では、いただきます。」
フォークで麺を少し巻き上げ、口元へ運ぶ。
「……まあ!美味しいですわ!」
シェフたちは胸を撫で下ろした。
「庶民の味、恐るべし……。
この絶妙な塩加減、
これが3分の叡智なのですわね。」
感激に震える須磨子様。
だが──この時点で、まだ“最大の衝撃”は残されていた。
屋敷の外では、雷鳴が再びとどろく。
夜空を裂くその音が、
まるで次の暴走を告げる汽笛のように響いていた。
【アナウンス】次は邸内サロン駅ー、邸内サロン駅ー。
ダァシエリイェス!!
邸内のサロンには、
午後の日差しが柔らかく差し込んでいた。
白磁のティーセットと銀の菓子皿の隣には、
場違いなほどカジュアルな物体。
──カップ焼きそば。
「まあ、須磨子。
この“カップ焼きそば”というものがそうなの?」
ご母堂が上品に紅茶を口にしながら微笑む。
「ええ、お母様。
庶民文化の代表格なのですわ。
美佳様に教えていただきましたの。」
須磨子様はカップのパッケージを丁寧に並べ、
それぞれの違いをプレゼンテーションでもするかのように解説していく。
「こちらが“ソース味”。
そしてこちらが“塩味”。
この“ペペロンチーノ風”という物も気になりますのよ。」
「まあまあ……!同じ焼きそばでも、
まるで香水のように種類がありますのね。」
ご母堂の声には、興味と品の良い驚きが混じっていた。
「お母様もご覧くださいませ。
この合理性。
たった3分で完成する、文明の粋なのですわ。」
「文明の……粋……?」
ご母堂は笑みをこぼす。
その瞳に、須磨子様と同じ好奇心の光が灯る。
──流石は母娘である。
「あなたは昔から“文明”という言葉に弱いのね。」
「ええ。人類の進歩には敬意を払わねばなりませんもの。」
母娘のティーカップが静かに触れ合う音。
その傍らで、無言で控えていた執事の手が、
積み上がったカップ焼きそばのパッケージを見てわずかに震えた。
「……お嬢様方の“文明”とは、
なかなか……深いものにございますな……。」
母娘は笑いながら話を続けた。
ご母堂「ぜひ一度、食卓でいただいてみましょうね」
須磨子様「まあ!
それは素晴らしいお考えですわ、お母様!」
こうして“庶民文化の会食”計画が
正式に動き出した──。
──その数日後。
美佳のもとに届いたのは、
西園寺家の封蝋付きの正式な招待状だった。
金の縁取り、丁寧な筆致、
赤いシーリングスタンプ。
「美佳様。
須磨子より話を伺い、
ぜひお礼を申し上げたく存じます。
つきましてはご都合のよろしい折に、
西園寺邸へお越しくださいませ。」
美佳「……え、なんだこれ。
ドラマ?ドラマのやつじゃん!?
招待状!?まさかの!?」
封筒の中には、
リムジンの送迎案内まで添えられていた。
【アナウンス】次は西園寺邸お迎え駅ー、
西園寺邸お迎え駅ー。
ダァシエリイェス!!
──当日。
マンションの前に黒塗りのリムジンが停まった。
「……え、え、ちょ、え? あれ迎え?
マジで!?」
ドアが開くと、白手袋の運転手が恭しく一礼した。
「美佳様でいらっしゃいますね。
西園寺家よりお迎えに上がりました」
(様!? なんか一気に身分上がった!?)
近所の子どもが
「あれ芸能人の人?」
と囁く中、庶民代表、美佳。
今、突然の“有名人疑惑”をかけられた。
美佳は見栄と動揺の狭間で、変に姿勢を正した。
「す、すまっちの家って……
マジで別世界じゃん……」
おそるおそる乗り込むと、座席がふかふか。
足を組んでも余るほどの広さに、目が泳ぐ。
「……え、何この広さ、家より快適なんだけど……」
シート横に並ぶボタンを一つ押すと、
間接照明がふわりと灯った。
「おおぉぉ……(やべ、無駄に高級……!)」
運転手「まもなく発車いたします。ベルトをお締めくださいませ。」
運転手の声に、美佳は咄嗟に「はいっ!」と返事をしてしまう。
車は静かに動き出した。
窓の外の景色が、少しずつ変わっていく。
コンビニやバス停が次々と遠ざかり、
街の喧騒が薄れ、
空気がひんやりと澄んでいく。
並木道、煉瓦塀、白い門扉
──“庶民ゾーン”がフェードアウトしていく。
美佳は窓越しにぽつりと呟いた。
「……マジで別世界だな、すまっちの家……」
背中の汗がじわりと滲む。
人生初のリムジン、初の上流社会。
美佳はこの時、知らず知らずのうちに
──“人生最大のアウェー戦”に突入していた。
窓の外を眺めていた美佳は、
ふと前方にそびえるものを見て、息を呑んだ。
そこには、まるで映画の舞台のような巨大な門。
鉄細工の装飾がきらりと光り、
長い私道の奥には、
信じがたいほど立派な洋館…
──いや、洋館というより城が見える。
リムジンはそのままゆっくりと門をくぐり、
長すぎるほどのアプローチを進む。
「……門から玄関まで長ぇ……」
思わず漏れた本音は、柔らかいシートに吸い込まれた。
庶民代表、美佳。
ついに“別世界の玄関口”に立つ。
【アナウンス】次は玄関ホール駅ー、玄関ホール駅ー。
ダァシエリイェス!!
扉が開いた瞬間、美佳の目の前に広がったのは──
“玄関”ではなく“空間”。
「……え、ちょっ、これ玄関って言っていいの!?
ホールじゃん!いや城じゃん!」
そこに広がるのは、
家というより聖堂。
大理石の床が鏡みたいに光って、
シャンデリアがいくつも連なり、
左右に分かれた階段は、
まるで上層階へ続く“社交界の坂”。
「……天井高っ!
音が反響してる!
やば、体育館より広い……」
庶民、感動と困惑のダブルパンチ。
そこへ、完璧な姿勢の執事がすっと現れて一礼。
「お待ちしておりました、美佳様。
ようこそ西園寺家へ。」
美佳は反射的に会釈しながらも心の中で叫んだ。
(“へ”じゃなくて“家の中”に入るだけでこの圧!?)
使用人たちが静かに一礼。
案内されるままに広い廊下を進むと、
奥の扉の向こうに柔らかな照明と談笑の声が漏れていた。
扉が静かに開くと、そこには広すぎる食堂。
長いテーブルの中央には、
銀の燭台がゆらめき、
クリスタルのグラスが月光を返している。
その荘厳な光景の真ん中に
──場違いなほど堂々と鎮座する、
湯気を上げるカップ焼きそば。
(え……マジで出た……ほんとに出たよこれ……!)
美佳の目が泳ぐ間に、
須磨子様がにこやかに立ち上がり、
両手を広げた。
「美佳様!
ようこそ西園寺家へ!
本日は“庶民文化”の会食をいたしますの!」
「……う、うん。あの、ほんとに“会食”で……これなのね……?」
ご母堂が優雅に微笑み、
「あなたが美佳様?
最近須磨子が、あなたのお話を
とても楽しそうにいたしますのよ。
須磨子から伺いましたの。
とても面白い文化だと。
ぜひ家族で体験をと思いまして」
その横でご尊父が真顔で頷いた。
「庶民文化には礼節と創意がある。
実に興味深い」
(いや、そんな真面目な顔で言わないで……!)
給仕の合図で一同が着席。
テーブルには銀のフォーク、ナプキン、紅茶のポット…
──そして中央に並ぶ、
堂々たるカップ焼きそばの列。
「それでは、いただきましょう」
須磨子様はフォークを手に取り、
静かに麺を巻き取った。
美佳が「ずずずーっ」と音を立てて食べると
「庶民文化では、そのように“音を立てて”いただくのですね?」
真剣な表情。
瞳の奥に決意の炎が宿る。
「……は、はい。まあ、そうっすけど……」
須磨子様は意を決して――
「すぅ……ぷ……ぷ……ず……!」
目を潤ませながら、ひとこと。
「……難易度の高い文化ですわね……!」
ご母堂も挑戦。
「……す、すずず……あら……」
ご尊父も負けじと試すが──
「ずずっ……むぅ……これは……修練が要る」
「この音が、庶民のリズムなのですわね……!」
美佳は頭を抱えた。
「……いやもう、何も言えねぇ……」
屋敷の食堂には、すすれぬ貴族たちの奮闘音と、
どこか楽しげな笑い声が静かに響いていた。
【アナウンス】次は終点、西園寺一族駅ー、西園寺一族駅ー。
どなた様もお忘れ物のないようご注意ください。
──翌朝。
美佳のスマホに届いたのは、
須磨子様からのメッセージ。
添付された写真には、
食卓いっぱいに並ぶプラカップと、
笑顔の西園寺家の人々。
「庶民文化を、正式に朝食にも採用いたしましたの。」
(……まさかの定着……!?)
美佳は天を仰ぐ。
「すまっちんち、どこまで行く気なんだよ…」
西園寺家では
──カップ焼きそばが、朝の新定番になった。
【アナウンス】
本日は「美佳の晩飯発・スーパー経由・西園寺一族行き」に
ご乗車いただきまして誠にありがとうございました。
またのご乗車をお待ちしております。
ダァシエリイェス!!
西園寺家では今もなお、
「庶民文化」が静かにブームを拡大しているらしい。
作者は塩焼きそば派です。
中でも近所のスーパーで売っている、
レモン風味やバジルの香りなどが好きです。




