さよならアナルえもん
しず子ちゃんと別れた帰り道、僕はアナルえもんと二人、夕焼けの坂道を歩いていた。
「お前、ほんとに……なんでずっと木の陰にいたんだよ」
「いや〜、デートの邪魔にならないように、木の裏で肛門だけ出して応援してたんだけどね」
「怖いよ!?それ怪談話の“のぞく系”だよ!?」
「でもちゃんと君を見守ってたよ。肛門から目をそらさずに」
「だからその視点やめろっつってんだよ!」
言い合いながらも、どこか笑っていた。
この数週間。笑うことなんて少なかった僕の毎日が、アナルえもんの登場でガラッと変わった。
変なことばっかり。恥ずかしいことも、ムカつくことも、いっぱいあったけど──
たぶん、それが僕の“日常”になっていた。
「なあ、アナルえもん」
「なに?」
「未来に帰る時が来てもさ……たまに、顔出してくれよな」
「……のびスケくん」
アナルえもんが少しだけ寂しそうな顔をした。
「本当はね、もうすぐ、帰還要請が来るんだ。未来の世界で、メンテナンス期間に入るんだってさ」
「……そっか」
「でも!ちゃんと戻ってくるから!メンテ終わったらすぐ、また君のアナールをチェックしにくる!」
「言い方ァ!!」
「……だから、それまで自分で自分の肛門を守ってね」
「任せとけ。お前と一緒に鍛えた俺のアナール力、なめんなよ?」
「さっすが、のびスケくん!」
二人でガッツポーズを取った。
背景の夕焼けが、なぜかすごく似合ってた。
***
その日の夜。
アナルえもんが、静かにアナポケットを開いた。
「じゃあ、行くね」
「おう……気をつけてな」
「僕がいなくても、大のときは深呼吸してね」
「それはお前いなくてもできるよ!」
「あと、しず子ちゃんといい感じになったら、報告して!」
「それは……まあ、考えとく」
「うん。じゃあまた、近いうちに!」
ピカッと光ったアナポケットから、ふわっとアナルえもんの体が浮かび上がる。
そのまま彼は、空へ──
……飛ぶと思いきや、逆に地面に吸い込まれていった。
「下かよ!!」
「僕、肛門系だから出口はこっちなんだ!」
「なるほど納得できるか!!」
そうして、アナルえもんは地面の裂け目にズボッと消え、見事なまでに去っていった。
辺りはしんと静かになった。
あのうるさい声がないだけで、こんなにも空気って静かなんだな。
……ちょっとだけ、物足りないけど。
僕は立ち上がり、夜空を見上げた。
「また来いよ、アナルえもん。バカで、アホで、うるさくて……最高のロボット」
風が吹いた。
どこか、あのロボットの屁みたいな音が聞こえた気がした。
笑ってしまった。
僕はこれから、ひとりでも肛門を守れる人間になる。
……いや、そこはちゃんと普通の人間に戻りたいけど。
とりあえず、今日も元気に生きていく。
それがアナルえもんとの約束だから。




