しず子ちゃんとのデート
次の土曜日、僕は人生で初めて「デートらしきもの」に行くことになった。
相手はもちろん、しず子ちゃん。
行き先は近所のショッピングモール。僕が一人で歩いてたら警備員に保護されそうなレベルでガチガチに緊張していた。
「やっほ、のびスケくん!」
「し、しず子ちゃん……!」
しず子ちゃんは、私服になるとさらに破壊力が上がる。白のブラウスに淡いピンクのスカート、まるで空気が花の香りになったみたいだった。
「……すごい、かわいいね」
「え、ほんと? うれしい!」
心の中でアナルえもんが「ポイントアップ!」とか叫んでる幻聴がした。
でも、それだけじゃなかった。
「……でさ、今日はアナルえもん、ついてきてないの?」
「うん、家に置いてきた。さすがに今日は二人きりがいいかなって」
「そっか……ちょっと、寂しいかも」
いやいやいやいや。
「なんで!?」
「なんか、あの子といると、お尻の空気が明るくなるっていうか……」
「“肛門”が明るくなる空気ってどんなだよ!?」
「ふふっ、まあたしかに、ちょっと変だけど……なんか、嫌いじゃないよ。あの雰囲気」
しず子ちゃんは、笑顔で言った。
僕はその笑顔を見て、ほんのちょっと、アナルえもんに感謝した。
***
夕方。モールの屋上にて。
風が気持ちよくて、僕たちはベンチに座って、わたあめを食べていた。
「今日は、楽しかったね」
「うん……あの、また一緒に……どこか行きたいなって、思ってるんだけど」
「え?」
「い、いや、もし迷惑じゃなければっていうか!」
どんどん声が小さくなる僕に、しず子ちゃんはふっと笑って言った。
「じゃあさ、またアナルえもんも連れてきてよ」
「なんでそうなる!?」
「いや、なんかね……のびスケくんとアナルえもんって、いいコンビだなって思って」
「僕は全然思ってないよ!!」
「ううん、思ってるよ。顔に書いてある。“めちゃくちゃ迷惑だけど、いないとちょっと寂しい”って」
僕は完全に図星を刺されて、口を閉じた。
その沈黙を、夕焼けが優しく包んだ。
***
帰宅した僕を、アナルえもんは玄関で出迎えてきた。
「おかえり!どうだった!?どこまで進展した!?」
「お前、顔がニヤつきすぎて怖い」
「デートの途中で突然おならとか出なかった!?ちゃんと我慢できた!?」
「人のデートに“排気チェック”入れないでくれ!!」
「でも……表情を見る限り、うまくいったっぽいね。ふふふ、さすが僕の育てた肛門だ」
「お前の手柄じゃない!!」
でも。
たしかに、こいつがいなかったら、僕はたぶん今もしず子ちゃんと、普通に話すことすらできてなかった。
だから、つい口にしてしまった。
「……ありがとな」
「え?なに?」
「だから、ありがと。お前、けっこう、役に立ってるよ」
「のびスケくん……!」
アナルえもんが感動の顔をする。
「こんなこと言われたの、初めてだよ……!」
「そりゃそうだろ、普通は言わねーよ!」
「いや……でも……僕、嬉しい!」
次の瞬間。
ブッ。
「おい、今のなに!?」
「ごめん、嬉しさで感情ガスが漏れた」
「ロボットなのに感情ガスとかやめろ!!」
アホらしくて、でも笑えてしまって、僕は腹を抱えて笑った。
気づけば、アナルえもんも一緒に笑っていた。
肛門ロボットと、人間と、恋と、排気音と。
そんな、ちょっと汚れてて、でもまっすぐな日常が、僕には心地よかった。