お尻にまつわるおべんきょう
翌朝、アナルえもんが僕の布団の中で爆睡していた。
「おい、出てけ!」
「むにゃ……肛門に平和を……」
寝言のパンチ力が高すぎて、もはやツッコむ気力もない。
僕はそっと彼を毛布ごと押し出し、制服に着替えた。
今日は、しず子ちゃんと約束していた図書館の日だ。緊張しすぎて胃がひっくり返りそうだった。
「よし……大丈夫、大丈夫……アナル関係ない日になるはず……」
その予想は、秒速で裏切られた。
図書館に着くと、しず子ちゃんが先に来ていて、手にはなぜか、妙に分厚い医学書。
「お、おはよう!」
「のびスケくん、ちょうどよかった。これ見て!」
見せられた本のタイトルは──
『人はなぜ“おしり”に惹かれるのか ~肛門心理学入門~』
「……なんでこれ読んでるの?」
「昨日の、あのロボットくんのこと、ちょっと気になっちゃって」
「え、うそでしょ」
「いや、なんか……変な方向にすごくまっすぐで、ちょっと興味が湧いてきたっていうか」
「アナルえもんがきっかけで興味持たれるの、すごい複雑!」
だが、しず子ちゃんは真剣な顔でページをめくる。
「これ、面白いよ。“肛門期”って、子どもの成長にとってすごく大事なんだって」
「それはまあ、たぶん正しいけど……」
「のびスケくんって、わりとそういうのを受け入れてるよね。ロボットにあそこ監視されても普通に生活してるし」
「いや、普通じゃないんだよ!?」
僕は思わず頭を抱えた。でも、しず子ちゃんはくすっと笑う。
「でも、そういうとこ、好きかも」
耳まで真っ赤になった。急にそんな、ナチュラル爆弾落とさないでほしい。
「の、のびスケくん、顔真っ赤!」
「うるさい!!」
「……かわいい」
心臓が破裂するかと思った。肛門じゃなくて心臓が限界だった。
***
帰宅すると、アナルえもんが待ち構えていた。
「おかえり、のびスケくん!おしりの様子はどうだった?」
「様子って言い方やめろ!!」
「しず子ちゃんと肛門トークしたんでしょ?」
「する予定なかったのに巻き込まれたわ!!」
「ふふふ……ついに彼女も、こっち側の扉を開き始めたか……」
「違うからな!?オープンじゃないからな!?」
でも、なんだかんだ、悪くなかった。
アナルえもんが来てからの毎日は、めちゃくちゃだけど、確実に僕の世界を変えていた。
未来がどうなるかなんてわからないけど──
「なあ、アナルえもん」
「なに?」
「お前が未来に帰るときって、来るのかな」
「うーん……君の肛門が完全に自立したら、かな?」
「どんな判定基準だよ!!」
どんなに否定しても、このロボットは僕のそばにいる。
うっとうしくて、うるさくて、でも、ちょっとだけ頼もしい。
これは、僕とアナルえもんの、すこしだけ変態で、すこしだけ感動的な、日常の物語だ。