あこがれのしず子ちゃん
次の日、僕はしず子ちゃんと一緒に下校するチャンスを手に入れた。
「今日は、ありがとうね。のびスケくんって、優しいんだね」
「い、いや、そんなことないよ!優しいというか、その、アナ……いや、なんでもない!」
「え?」
「あ、あの、宿題とか困ったら、手伝うよ!」
「本当? うれしいな」
まさか、人生でこんなに脇汗をかく場面があるとは思わなかった。心臓バクバク、アナルえもんが横にいなかったら死んでた。
でも。
「……のびスケくん?」
「え、な、なに?」
「その後ろの……それ、なに?」
振り返ると、アナルえもんが半透明モードで浮かびながら、僕の後ろに張りついていた。
「僕の仕事は、君の肛門を24時間監視することだから」
「監視しなくていいよ!!」
しず子ちゃんが引いていた。そりゃそうだ。
「アナルえもん、今日は頼むから家で待ってて!」
「ええ〜……じゃあ、トイレに行きたくなったら呼んでね?」
「呼ばねえよ!!」
しず子ちゃんはうっすら笑ってたけど、その笑顔の裏に「変な子かも」というラベルが貼られたのを感じた。ヤバい、非常にヤバい。
***
その日の夜、アナルえもんが重大な顔をして話しかけてきた。
「のびスケくん、大変だ。未来が……変わりつつある」
「え?」
「本来、しず子ちゃんとはあの日、道でぶつかった本を拾って仲良くなる運命だった。でも君が介入して、未来がズレ始めた」
「僕のせい……?」
「いや、全てはこの『スカスカ恋愛促進スプレー』のせいだね」
「お前だよ原因!!」
「でもこのままいくと、未来の君は肛門事故じゃなく、恋愛事故でメンタル崩壊する可能性がある」
「どんな未来だよ!?」
「つまり、しず子ちゃんとの距離を縮めるには、運命の流れを戻さなければならない!」
そのとき、アナルえもんが取り出したのは──
「『うんめいのアナルリセットボタン』!」
「名前のクセがすごい!!」
「これを使えば、しず子ちゃんとの出会い直前まで時間を巻き戻して、正規のルートを歩める!」
それって、今までの思い出も消えるってことか?
「なあ、それ……本当に押す必要あるの?」
「未来は君が選ぶんだよ、のびスケくん。肛門のようにね」
「例えの意味が全然わからない」
僕は、ボタンを見つめた。
今日の放課後の時間、しず子ちゃんの笑顔。
そして、僕の背後にいつもいた、最高に迷惑で、最高にアホなロボット。
その全部が……嫌いじゃなかった。
「いいよ、このままで」
「え?」
「僕、未来とか運命とか知らないけど……今のこの変な毎日が、けっこう好きなんだ」
アナルえもんは、静かにポケットにボタンをしまった。
「……わかった。じゃあ、全力で応援するよ!」
「ありがと。できれば……もうちょっとだけ、後ろから離れてくれると嬉しいけど」
「肛門の距離は、愛の距離!」
「もう黙ってろ!!」
その夜、月はやけに優しく見えた。
明日もたぶん、大騒ぎだ。
でも、それでいい。