風習が悪習か
「お前達、ヴィルコット家に婿養子として入りなさい。これは決定事項だ、異論は許さない」
この日セオドアは、兄のエドワードと共に父親の執務室に呼び出されていた。
執務室に入ると疲れを隠しきれない父親リックと、その後ろに控えるように寄り添う母親ジョアンナがいた。
其処で言われた言葉に、思わず「は?」とセオドアの口から声が漏れて兄のエドワードも眉間に深く皺を刻み、何をいっているのだと不機嫌を隠そうともしないでムスっとした顔隠しもしない。
「我がセトカリス家は商家だが、今は、経営不審で借金が有る。情けないことに、その借金を肩代わりして建て直してくれたのはフォースタイル島に移住したヴィルコット家の御当主だ。彼との約束でね、お前達をベアトリス嬢の夫と決めたのだ。先方には伝えてある、必要な物をを纏めて五日後に来る使いの者と共に向かうように。分かったな?」
それを聞いて噛みつく勢いで言い返したのは、兄のエドワードだった。
「嫌に決まってます!俺にはジュリアがいるんですよ。父上も知っているでしょう」
エドワードは、幼馴染みの子爵令嬢ジュリアと恋人同士だ。
幼い頃から思い合い、将来は結婚しようと話し合っていた仲で有る。
それを、借金の形に引き裂かれるなんてたまったものではない。
婿養子、結婚なんて認めないと声を張り上げた。
「行くなら、セオドアに行かせればいいでしょう」
頭が痛いと、軽く横に降り片手で頭を押さえた父親リックは、大きなため息を吐いた。
「エドワード、お前が作った借金だろう。結婚だってお前達が勝手に言っているだけだ。両家が認めてる訳ではない。」
「それは、父上たちが認めないから」
感情のままに言い返していたエドワードは、リックに睨まれ言葉に詰まると大きな舌打ちをした。
「あの……父上」
「なんだ、セオドア」
お前も何かあるのかと視線を向けてきた父に、自信無く下を向いていた目を何とか上げて、震えそうになる唇を一度ギュッと閉じると声を出した。
「ヴィルコット家とは、前に住み込みで勉学を教えて頂いていたオーガストさんの関係者でしょうか」
「あぁ、フォースタイル島に住む令嬢で、オーガスト殿の姪だ」
フォースタイル島、本国本土から離れた島で自然溢れる港町。
厄介払いの、島流しのように感じた二人の気分は悪くなるばかりだ。
エドワードはイライラが増し、セオドアは不安と悲しみで気分が落ちる。
「俺もこいつも居なくなれば、セトカリスの跡取りはどうするんですか」
エドワードの言葉にかえってきた来たのは冷たい声だった。
「お前たちが、知る必要はない」
冷たく、重く、身体の内側に響いた言葉にセオドアは何も、言えなくなってしまった。
パタンっと扉が閉まった音がする。
そのまま、ズルズルと扉に背中を預けて崩れるように床に座り込んだセオドアは、暫くして自分の部屋に戻って来ていた事に気づいた。
思い出すのは、オーガスタと勉強した日々だ。
机上、教科書やノートを使っただけの勉強だけではなく外に出て教えてくれた、とても楽しくて、大好きな先生だった。
捨てられた、嫌われた、知らなかった。
父親リックが言うには、セオドアとエドワードが婿入りする話が出た時ににオーガスタがヴィルコット家の当主に付いた事を知らされたらしい。
オーガスタが言うには、「フォースタイル島は、本土から離れた島で住んでる住人も少ない自然が多く残る所」そんな離島の、当主から外された人の娘と結婚とは、厄介払いとしか受け取れなかった。
一緒に過ごした日々の思いでと現実が、グチャグチャと胸の奥から搔き混ぜられるかのように悲しくて、それでも諦めたくないと気持ちが落ち着かない。
力なく、自分の部屋を見回した。
何を持っていこうかーー
纏まらない、頭の中で考える。
迎えは五日後、今日を入れて四日しかない準備期間。
俺は、もうすぐこの家を出で行く。
読んで下さった方々、有り難うございます。
お時間頂きました。
更新速度が、遅い作品ですが。
完結出来る様にさせて頂きますので、此れから宜しくお願いいたします。




