婚約破棄された令嬢が罰として結婚されられる乱暴者の辺境伯がホントに乱暴者だった件
「シルビア・ローゼンベルク公爵令嬢!
貴様の度重なる聖女アリシアへの嫌がらせ、最早看過できん! 貴様との婚約は破棄させてもらうぞ!」
ここはナーロッパ大陸のテキトー王国、その王城で開かれた舞踏会の会場の大広間。おバカで有名な第2王子殿下がビッチ臭いピンク髪の女の子を侍らせて婚約者であるローゼンベルク公爵令嬢に婚約破棄を突き付けていました。
何故嫌がらせが婚約破棄に繋がるのか過程がサッパリですがきっと王子様の中では理路整然としているのでしょう。なお聖女とか言ってますが単に回復魔法が得意なだけで神殿は一切の関わりがありません。ちなみに聖人認定は神殿しか行えないので、信仰の篤い方々はこめかみに血管が浮いていますが王子は気付いていません。
「わかりました。婚約破棄、確かに承りました」
ほら、元婚約者さんなんか満面の笑みで婚約破棄を受け入れてますよ? ちなみにこのシルビアさん、聡明なことで有名でそれ故にアホの面倒をみせる為に婚約者にされたと言うわりと不憫な娘だったりします。
だがこの王子、ここでは終わらなかった。
「ふんっ! だが傷物になった貴様に慈悲深い私は新たな縁を紹介してやろう!
そうだな、確かベルセルガー辺境伯が30を過ぎてまだ独身だったはず。田舎者で粗野な乱暴者と評判の男だがアリシアを虐めた性格の悪い貴様にはお似合いだろう! 王家からの命で結婚するがいい!」
「なっ!?」
あろうことか王都では評判の悪いベルセルガー辺境伯との結婚を命じたのです。
かの辺境伯の領地は魔境に隣接し、日々魔物の脅威にさらされています。それ故に辺境伯領では良く言えば尚武の気風が強く、悪く言えば脳筋の乱暴者が多いと専らの評判です。特に現辺境伯は自ら魔物狩りに出て血塗れになって帰ってくる事から「血塗れ領主」「戦闘卿(狂とのダブルミーニング)」「筋肉貴族」等と呼ばれ、領地で魔物対策に専念している為に王都には滅多に姿を見せない事でも有名です。
「殿下……ご自分が何を言っているのかお分かりですか!?」
顔を真っ青にして取り乱すシルビア嬢。その様子を見てにんまりと意地の悪い笑みを浮かべた第2王子(そーいや名前考えてねぇ)は更に続けます。
「はっ! アリシアを虐めた貴様にはあの血塗れ領主がお似合いだ! 貴様は罰としてアレの下へと嫁ぐがいい!」
「そ、そんな……」
血の気の引いた様子でヨロヨロと後退るシルビア嬢。そんな彼女の様子に笑いが止まらない第2王子。だが次の瞬間、彼の笑みが凍り付きました。
「へぇ……俺との結婚は罰ですかいそうですかい……」
当事者を遠巻きにする人垣の向こうから現れたのは身長2mオーバーの偉丈夫で、長髪にする文化のある貴族としては珍しく短髪(と言うか角刈り)にしています。顔面についた数々の向う傷と服の上からでもわかる鍛え上げられた筋肉はカタギじゃない雰囲気をプンプンと漂わせています。分かりやすく表現するとマッチョヤクザ、パッツンパッツンの貴族の服装が死ぬ程似合ってません。
「殿下……よりによって……よりによって珍しく辺境伯閣下が参加している時にそんな事を言うなんて……ご自分が何を言っているのかお分かりですか……?」
「そう言う意味!? 言って! 早く言ってよ!?」
どう考えても主催側の王族なのに出席してる高位貴族を把握してないのが悪いですね。後、シルビア嬢にフォロー求めるとか何を考えてるん?
ちなみにシルビア嬢の態度ですが王家と辺境伯家の政治的問題に発展しそうなヤバい展開に顔を青ざめさせてたんですね。よろめいたのも王子のアホさに目眩がしたって事だったんだよ?
「ええいっ! 何にせよ王家からの命だ! 貴様らは結婚……」
「ふんっ!」
「あべしっ!!」
殴った。
辺境伯がそれはもう容赦なく第2王子の顔面をぶん殴った。
王子はゆうに数メートルをふっ飛び、ごろごろと床を転がっていきます。
仮にも、ホントーに仮にも王家の人間に対する暴力行為に周りの人間の目が点になりました。
「ちょっ! 殿下!? ア、アンタ何て事するのよ! こんな事してただで済むと……」
「ふんっ!」
「ひでぶっ!」
殴った。
それはもう容赦のない腹パンで、ピンク髪ビッチが床に崩れ落ちました。
口からキラキラした謎のエフェクトが出ているのは食事中の方がいるかもしれないので配慮した結果です。
「ククククク、ベルセルガー家が拝領して100と10年あまり、国の盾となるべく辺境にて魔物の脅威を防ぐ為に戦い続けたがよもや王家からこんな扱いを受けようとはなぁ……」
ヤバい、その場にいた全員が戦慄しました。
確かに辺境伯は王都での評判が悪いのは事実です。でもそれは貴族同士の付き合いを無視して領地に籠っているからで(実はもう一つ、と言うかメインの理由があるのですが、それを知る者は口を閉ざして辺境伯を避けまくっている為に憶測で色々と言われています)、魔物に対する盾たる辺境伯領の重要性は誰もが理解していました。何より魔境で産出される貴重な薬草や魔物素材の加工はこの国の産業として重要な位置を占めていたのです。
だが分かってないアホが1人。
「な、殴ったな! 王族である私に対し……」
「殴って何が悪い!」
「たわばっ!」
ぶった。二度もぶった。たぶん父親にもぶたれた事が無いはず。だって王族だから。
「クヒヒヒ……いいぜぇ? 戦争だぁ……王都のなよなよした騎士団どもがウチの猛者どもの相手になるかねぇ……?」
イッちゃった目付きで狂気じみた笑みを浮かべる辺境伯閣下に、周囲はドン引きです。ヤバ過ぎて第2王子が股間を濡らしています。周囲はドン引きです……あれ? どっちにドン引きしてるんだろ?
ですがここで状況が変わります。
国王陛下と王妃様が会場にやってきたのです。
その目に映るのは拳を握りしめて戦慄く辺境伯と腰を抜かしたように座り込み何か股間のあたりが濡れてる次男坊。
どう見ても辺境伯が王族に暴行を加えてる事件現場です、が。
「あー、ウチのアホ、また何かやったか?」
物凄く正確な状況把握です。と言うかそこまで理解できる程の頻度でやらかすんなら幽閉でもしとけやと思わなくもありません。少なくともここにいた貴族は全員思いました。
さて状況を問い質した国王陛下は頭を抱えます。ぶっちゃけ王族のメンツはありますが修羅の国の住人である辺境伯とその手勢をどうこう出来る自信が全くありません。と言うかアホの為に血を流すとか騎士団がストライキ起こしかねない案件です。
国王陛下は秒で実の息子を切り捨てる事にしました。
「すまぬなベルセルガー辺境伯。私は王であるが故に軽々に頭を下げられぬがそれでも息子の不始末は謝罪しよう。この件に関する賠償はソレの個人財産からむしり取ろう」
「チッ! 陛下に謝罪されたら流石にこっちも振り上げた拳を降ろさざるを得ねぇな……」
普通に不敬な口調ですが誰もツッコミません。だって怖いし。国王陛下も頑なに目を合わせようとしませんね……
「ち、父上!? 何故王家が辺境伯ごときに譲歩しなければ……」
「黙ればかちん!」
「うわらばっ!」
あ、親父にも殴られた。
「貴様の度重なる私への嫌がらせじみた軽挙妄動、最早看過できん! 貴様との親子の縁を破棄させてもらうぞ!」
何かどっかで聞き覚えのある台詞です。
「ふんっ! だが王族でなくなった貴様に慈悲深い私は新たな生きる道を紹介してやろう!
そうだな、確かベルセルガー辺境伯は兵士を募集していたはず。厳しいと評判の職場だが貴様の根性を叩き直すにはお似合いだろう! 国王の命で就職するがいい!」
物凄く聞き覚えのある台詞です。こいつら親子だわ。
しかし国王の言葉に疑問を感じたのがシルビア嬢。
「あの……陛下? 問題を起こした殿下の再教育を辺境伯閣下に押し付けるのは……」
その言葉に、しかし国王はフッと笑って答えました。
「普通ならそうだ……だが辺境伯はこういう根性の曲がった男を『教育』するのが好きな奴でな」
「さっすが~、王様は話が分かる!」
一転してにこやかな笑みの辺境伯の姿に、周囲は、特に第2王子は疑問符を浮かべます。
そんな様子の息子に、憐れみの表情で国王陛下は告げます。
「ではヒントだ。
辺境伯領は戦場。
戦場は男ばかり。
生存本能で増す性欲。
頑なに『女と』結婚しようとしない辺境伯」
その言葉を聞き、理解が及ぶにつれて顔を青ざめさせる第2王子。周囲の男性貴族が辺境伯から決して尻を……もとい背を向ける事なく距離をとります。
「え? え? え? まさか……ホモ?」
その言葉に辺境伯は気を悪くしたような顔をして答えます。
「はぁ? 誰がホモだ」
「そ、そうか! それは良かっ……」
辺境伯の言葉に、地獄に希望を見付たかのように喜ぶ第2王子。しかし辺境伯は第2王子の肩を掴み遮るように言葉を続けます。
「俺は……ゲイだ!」
「イヤァァァ!」
絶望の声を上げる第2王子。そのまま辺境伯は第2王子を俵担ぎにしてお持ち帰りします。
こうして国を乱す愚かな王子は表舞台から姿を消し、テキトー王国に平和が戻ったのでした。
めでたし、めでたし
「やめて! 私に乱暴する気だろう!」
「おう、だって俺、乱暴者らしいし?」
「いやそう言う意味の乱暴じゃ
アッ───!」
ホモは差別的なニュアンスだからゲイを使おうね! おニィさんとの約束だゾ♡
ところで朝方に感想返信で「主人公が「アッー!」な展開は止めよう絶対にだ」とか書いてたモツ煮込みがいましてね……君子豹変ってヤツだな!(違
短編で「悪女が嫁に来るらしい」って作品を読んで「俺との結婚が罰ゲームってひどくない!?」と言うフレーズに感化されて書いてみましたw
前書きに書こうと思ったけどネタバレになるから後書きに。