一難去ってまた一難
全ての生き物が等しく持つエネルギー「玉」を駆使して生きる人々。
「玉」のスペシャリスト「演算士」によって繰り広げられる戦いに憧れ、巻き込まれながら成長していく1人の青年の物語。
家族旅行中は家の中で基本術式の練習という重罪を数回行ったということ以外何事もなく退屈な休暇だった。
「あぁークソッ」
右手に包帯が巻かれているため生活の難易度が乗術習得を超えていると思いながらこまめにストレス発散の文句を言いつつゴールデンウィーク最終日を過ごしていた。家族は今日の午後帰ってくるらしい。父親は明日から仕事があるのに自らタイトな予定を立てるというタフっぷり。
久しぶりにユッケと登校。口には出さないが、乗術の習得というアドバンテージで胸を張りながら会話をしていると
「包帯巻いてるのに機嫌良さそうだね」
とユッケが一言。
言葉を交わさずとも分かるという親友特有の能力を発揮するユッケを誇りに思いながら他愛もないことを話して登校する。
朝のホームルームで珍しく新人教師から大事な連絡が発表される。
「基礎演算士試験についての連絡をします。この試験の合格者は、去年から大学受験で必修科目になった玉学を満点扱いで計算されるため原則として生徒全員受けること。日程は8月1日。試験内容は、数学の筆記試験と実技、面接試験があります。」
と新人感がなくなってきた教師が連絡する。
知ってた。てゆーかそのために基本術式を練習してたまである。変数値が0でも他の科目で優秀ならなんとかなるじゃんという思考回路にならなかった原因。大学受験の必修科目に去年から「玉学」が加わったこと。石神隊長に会っていなくても俺は、基本術式を練習してたと思う。あーそれで思い出した。なんで石神隊長はわざわざ俺に会いに来たんだ?俺の人生の七不思議だわ。いや7個もないか。
この学校は、中間テストはなく、期末テストのみである。「期末テストだけなんて楽勝と思うかもしれないけど、その分期末テストの範囲が広くなって、失敗すると結構笑えないというか補習授業が多すぎて笑わせてくれない。」とユッケが先輩から聞いたらしい。
「テスト2ヶ月前か…そろそろテスト勉強始めよっかな。することもないし。まあ数学はいいとして…」数学に関してはゴールデンウィークが暇すぎて1年生の範囲を1周してしまった。
基本術式の練習とテスト勉強をしているとあっという間にテスト前日になった。
「ちゃんと対策したから別に焦る必要ないんだけどなんかソワソワするなぁ」
自分を安心させるため、テストのためにした勉強時間を計算してみたら、この2ヶ月なんと1日平均6時間も勉強していたこれは流石に自分でもちょっと引いた。
無事テストを終えた。
テストは「玉学」の実技以外は問題なかった。うん。大問題だな。でもあんなの無理じゃん。
「玉を3つ出してください。」
「無理です。」
「じゃあ2つ」
「無理です。」
「じゃあ試験は終了です。」
終わったよマジで。これで手応えある方が病気だわ。明後日からのテスト返し憂鬱だなあ。
テスト結果もちろん上出来だった。実技以外は。
筆記はなんと平均97点。
まだ驚くなよ。家庭科、保健体育込みでこの点数だぜ。数学、英語、物理に関しては満点だった。実技はというと、15点。いや、あの内容で15点なら良い方だわ。当然学年最低点。1学期最終週は「玉学」の補習で放課後の予定が埋まった。
テストの学年順位が廊下に張り出されるため、「この如月悠聖って奴ヤバッ全部1位じゃん。玉学以外は」という声がかなり聞こえてきた。それと、俺はクラスで秀才キャラの地位を確立した。
変数値0が嫌すぎて勉強頑張ったのに結局「玉学」のことでこうなるのかと思いながらため息をつく。
補習に行く準備はもうお手の物だ。準備するものなんて大してないんだけど。
刈谷智彦。ユッケの本名。ユッケが大好きだったから「ユッケ」というあだ名がつきました。そのため、名前にユッケの「ユ」の字も入っていません。中1の夏に行われた体育祭で弁当に自作ユッケを入れるという異常行動をするほど。ちゃんとリバースしてました。