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「すべての人が死んでゆく時に」。

掲載日:2024/09/05

多くの者が道半ばで死んだ


この世界を生きられるほどには、人は強くなかったのだろうか

私は、自分より価値があるであろう人々が死ぬのを幾度も目撃した


むしろ、価値ある人こそ生きられなかったように思う

過酷な時代だった



時代が色々なものを失えば、最後にはそこに生きる者たちはすべてを失う


私の知るある者は、貧しい暮らしに耐えかねて自死を選んだ

またある者は、生きる孤独に耐える事が出来ず狂人となった


老いた親の世話に疲れ果てた者もいた

社会に馴染めず生きる事が出来なかった者もいた


皆が疲れていた

皆が死んでいった



私だけが死ななかった

彼らと共に生きる権利も、共に死ぬ権利も私の人生からは剥奪されていた


どんな過酷な出来事も、私から命だけを奪わなかった


「命だけを」奪わなかった

それ以外は常に奪われ、損なわれていた


人々は私を「強い」と言ったが、私にはそれに価値を感じなかった


しかし事実として私は肉体的に頑強であり、精神もまたそうだった

人より少ない睡眠で活動し、休憩を必要としなかった


私は価値ある人々すべてを救わねばならないと思い続けていた

さいわい、私には生命科学の知識はあった


もし私の心身に「強さ」が存在するのだとしたら、それが何かを突き止めて与える事も可能な筈だ


生涯を費やす研究になる可能性はあったが、成し遂げるつもりはあった


永く生きたせいだろうか、私は常に過去に取り憑かれていた



────────



月日が流れた


私が思ったような意味での「強さ」を、いまや人類すべてが獲得していた

私はその人類たちの作る街角を一人歩いていた


「助けて!助けて助けて!!」

恐怖に涙を流しながら往来を狂った男が走っていく


やがて彼は立っていられなくなり崩折れると、歩道のコンクリートに頭を打ち付け始めた


血液が歩道を濡らし、近くにいた私の服の裾を濡らす

やがて彼の頭蓋が割れたが、男が死ぬ事は無かった


見渡せば、街のすべての人々が似たようなものだった

「強く」なった人類は、それでもその「強さ」に心が耐え切る事が出来なかったのだ


確かに現行の人類は、あらゆる肉体や精神のストレスやダメージに強い耐性を持っている

だがそれは、痛みが消えて無くなる事を意味しないのだ


昔ならいざ知らず、現代の技術では苦痛も具体的数値化が可能だ


測定した情報からすると、人々のいま感じている肉体や精神の苦痛の数値は、私が生きる上で負った多くのダメージと大きく違いのあるものではなかった

ここにきて私はとても重大な、そして一つの結論に辿り着いていた


もちろん、取り返しは付かなかったが


「人は命によって生きるにあらず、という事か……?」

私は雑踏に目を向けた


人々は自分達の簡単には死なない体に痺れを切らし、拾った石で互いの頭を殴り始めていた

近年広まり始めている「相互支援」と呼ばれる行動だ


「だとすれば、私は生命ではなく覚悟によってここまで生きたという事か」


私の体もいまや改良されている、時間は沢山あった


私は「人々に覚悟を与える」方法について思いを巡らせていた

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