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「おい、翔にピッタリなのがあるぞ!
ルカによる福音書6章…」
「ん?なに、ピッタリ?」
翔は里桜の髪を撫でていた手を止めた。
「人を裁くな。そうすれば、あなたがたも裁かれることがない。人を罪びとだと決めるな。そうすれば、あなたがたも罪人だと決められることがない。赦しなさい。そうすれば、あなたがたも赦される。与えなさい。そうすれば、あなたがたにも与えられる。
んー…これは…
人のいい所を探せという簡潔な話でもねーな…」
クマはモゾモゾとお腹の辺りをかきながら言った。
「というか…なぜそれが私にピッタリなんだ?」
翔は納得のいかない声色で問いかける。
「だって翔、お前は正義感の強い優男なんだぞ。だからこそ、決して赦せない人間や、赦せないことがあるだろう。」
「・・・」
その小さな頭の中に、一体どういう思考回路が渦巻いているのだろうかと考えてしまう。
「私は…人を裁こうと思ったことはない」
「ああ。無いからこそ危険なんだお前の脳ミソん中は。」
「・・・どういうことだ?」
翔の片眉がピクリと上がる。
「お前ん中で圧迫されていく、その憎悪がだよ。」
「…憎悪?」
「お前のような奴ほどその正体に気が付かない。その危険因子は目には見えないからなかなか取り除けない。…いいか翔、お前ほどの力の持ち主はそれを掌握していかなくちゃならない。そうじゃねぇと…わかるだろ。」
押し黙っている翔を無視して、クマはそのまままたページを捲っている。
はぁ…とため息ひとつつく。
神塚昴は正反対の性格だから大丈夫とも言われているような気もした。
翔がふとスマホの時計を確認すると23:00を指していた。
待ち受けは今日皆で撮った写メ。
昴の前で全員強制的に変えられたのだ。
それを画面が暗くなるまでボーッと見つめていた。
「クマ助。そろそろ寝ないか」
このままクマの勉強会に付き合っていたら、本気で朝になってしまう気がしてそう声をかけるが、聞こえているのかいないのか、クマは真剣な瞳を聖書から離さない。
「お!聞け翔。マタイによる福音書第7章だ。」
「いや…さっきから、なんとかによる福音書の何章とか言われてもよく分からないよ」
クマは無視して続ける。
「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば開かれる。だれでも、求める者は受け、探す者は見つけ、門をたたく者には開かれる。
…っつーことだ。わかったか?」
「・・・」
目を僅かに見開いた翔の瞳を、クマが捉えた。
全てを見透かしているような煌々としたそのクマの目が異様に大きく感じて目が離せなくなる。
"求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば開かれる。だれでも、求める者は受け、探す者は見つけ、門をたたく者には開かれる。"
頭の中でクマの言った言葉を反芻させる。
この言葉の意味は…
そしてクマが言いたいことが分かって暫く沈黙した。




