2
「…まぁ、その間に他の任務と被らなければ少しくらいは良しとしよう。しかしくれぐれも気をつけろよ、とくに昴、お前だ。」
気をつけろという一言にはいろいろな意味が込められている。
己の力を過信しすぎるな、無為な戦い方はするな、被害は極力最小限に、一般人への考慮、一般人からは見られないブラインド(境界壁)を忘れないこと、エトセトラだ。
話すと長くなるのでいつしか発せられる言葉はもうこの一言のみとなった。
「へーい。でも大丈夫。俺ら、無敵コンビだから。」
意味が伝わっているのかいないのか、神塚は天馬の肩に腕を回してピースサインをした。
確かにこのコンビは無敵と言われている。
しかしそれを過信して身を滅ぼすことにならないか、いつも気が気じゃないのだ。
はぁ、と1つため息を吐いてから、
里桜と瞳を見て、頼んだぞ。と目だけで言う。
しかし2人は既に観光のことで頭がいっぱいなのか、輝いた目を上に泳がせていた。
ーーーーーーーーーーーーーー
新幹線の中、里桜と天馬が隣同士に座り、向かい側に神塚と瞳が座っている。
夢子と理玖には悪いが、今の4人は明らかに浮かれていた。
A級とB級だし、しっかり者のあの二人なら大丈夫だろうと思っているというのもあるし、単純に4人揃って遠出するこの状況は新鮮すぎる。
弁当を食べ終わり、少しばかり眠気が襲ってきてはいるが、なんだか眠ってしまっては勿体ない。
目の前で神塚はさっきから、あーでもないこーでもないとずっと喋っている。
「神塚くん、呼吸してる?」
里桜の呆れたような問に、神塚は白い歯を見せながら言った。
「しなくちゃダメ?
ってか、なんか甘いもん食いたくね?」
甘党の神塚は突然立ち上がり、キョロキョロしだした。
「…もう、少しは落ち着きなさいよあんた」
「っあ!すいませーん!こっちこっち!」
瞳の声を無視してワゴンを推す乗務員を呼び止め、チョコレート菓子やクッキーなどを大量に買うという、まるで子供のようなその姿が親子みたいに見えてしまい里桜は笑った。
楽しい。
そう純粋に思える。
しかも隣には大好きな人がいるのだ。
ふと横目で見ると目が合い、そして彼も優しい笑みを零していた。
「それよりさぁ、里桜、どうしていつまでも苗字にくん付けで呼ぶわけ?」
「っえ!」
突然真面目な声色でそんなことを問われ、食べていたクッキーが喉に詰まりそうになった。
「ど、どうしてって…」
「瞳のことは瞳って呼ぶのに、なんで俺と翔だけそんな他人行儀な呼び方なんだ?」
里桜は顔を赤らめて髪を弄り出す。
これは戸惑っている時の癖だ。
もちろん名前で呼びたいのは山々だ。
けど、今更どのタイミングでそう切り替えればいいのかわからないし、もう遅いと思っている。
「まぁ、いいじゃないか、昴。それより前から言おうと思ってたんだが、昴も丁寧な言葉を使った方がいい。」
「あぁ??」
「君、たまに周りから怖がられてるじゃないか。まぁその見た目もあるかもだけど。」
冷静沈着な態度でそう言う天馬だが、里桜は内心、それは天馬自身も人のこと言えないだろう、と思った。
なぜなら2人とも身長185を超えているし、天馬は髪が長めでピアスをしているし、神塚は短髪だけどグレーのメッシュを入れている上にオッドアイだ。
「はっ。やなこった。つか、今そんな話はしてねぇ。
翔だって、里桜に翔ぅ〜って呼んで欲しいくせに」
意地張っちゃって!
神塚はそう言い返しながらもニヤニヤとした視線を隣の瞳に流し、なぜだか瞳もニヤニヤとしだしている。
えー、ど、どうしよー。
でも考えてみたら、これは絶好のチャンス。
今しかない…かもしれない。
里桜は気付かれないように深呼吸した。
「じゃ、じゃあ…次からはそう呼んでもいい、かな?」
「次?そう言っててきっと次ん時忘れてるぞ。
今だ。練習も兼ねて、今呼んでみろよ」
偉そうに…
そう思いながらおずおず隣を見ると、天馬まで意地悪そうな笑みを浮かべていてドクンと鼓動が跳ね上がり、口を噤んでしまった。
ますます言いづらくなっているこの状況をどうにかしたい。
タジタジになっている里桜に、神塚は言った。
「じゃあさじゃあさ、いきなり翔だと緊張しちゃうだろうから、まずは俺の事を呼んでみてよ。
…す、ば、る、ってね!」
「っえ…」
その言葉に、突然天馬が口を挟んだ。
「それはダメだ」
3人は驚いたように目を見開いて天馬を見る。
彼は珍しく少し不機嫌そうな顔をして神塚を睨んだ後、そのまま里桜を真剣に見た。
「私のことを先に呼んでもらう」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
見つめあったまま数秒沈黙した後、チラと視線だけ天馬と瞳に移すと、ホラ早く言え!といわんばかりの2人と目が合う。
その瞬間、天馬にグッと顎を掴まれ、視線を合わされた。
「よそ見をしない」
ポッと顔が火照り出したのがわかったが、生唾をゴクリと飲んでから恐る恐る口を開いた。
「か…ける…」
「・・・ん?聞こえないな。」
わざとらしく耳に手を当ててそう言われる。
「かける…」
「もっと近くで」
絶対に今ので聞こえたはずなのにそんなことを言われて少しムッとした里桜は天馬の耳に口を寄せてコソコソ話のように手で覆ってから言った。
「…かける!」
向かいの席で噴き出している2人の声が聞こえる。
天馬は里桜の手を耳から剥がして掴んだまま、今度は里桜の耳に口を寄せた。
「…ありがとう。里桜…」
その甘い囁きのせいで一気に鳥肌が立ったことには3人とも気がついていないだろう。
体の力まで抜けてしまった。
そのあとは、そのままずっと隣で天馬が手を握ってくれていて、いつの間にか彼の肩に寄りかかって眠っていた。




