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翔は心底申し訳なさそうに部屋のソファーに深く腰掛けため息を吐いて上を見上げている。
クマがようやくバッグから這い出てきた。
「ふーっ、マジ息詰まるぜぇ…」
すると、ノックもなしにガチャっとドアが開いたかと思えば、お茶をお盆に乗せた棗が入ってきた。
また翔の顔がみるみる不機嫌になる。
「おい、ノックはしろよ。常識だろ」
「だって両手塞がりなんだもん。今だって肘でなんとかドア開けたんだよ」
「あっ、棗ちゃんごめんね!私がやるよ!」
里桜が慌てて立ち上がりお盆を受け取ろうとするが、
「ははっ、いーのいーの!座ってて!」
そう言って棗が紅茶を注ぎ始めた。
テーブルに皿を並べ、ドーナツの袋を置く。
箱を取りだし並べられているドーナツを眺めながら言った。
「ね!どれ食べていいの?」
「もちろん棗ちゃんから好きなの取って?」
里桜がそう言うと、色とりどりのドーナツに目を輝かせている。
すると横から、ひょいっとピンクのドーナツを掴みあげたのはクマ。
棗が唖然とした表情になり、里桜も一瞬のことすぎて固まってしまった。
「ん〜けっこーうまい!やっぱイチゴの味だァ〜」
「ぬいぐるみが…喋ってる…」
そう目を見開いて呟く棗に、慌てて里桜が口を開きかけた時、翔の冷淡な声が降ってきた。
「棗、そいつはS級クラスの傀儡だ。扱いには気をつけろよ」
えっ、と思って里桜が翔を見ると、翔は何食わぬ顔で紅茶を啜っている。
「あー…そっか、思い出した。
ラインで言ってたやつね。かわいいなぁ…」
棗はむしゃむしゃドーナツに夢中になっているクマの頭を撫でた。
「ちょっと翔っ。こういうの大丈夫なら先に言っといてよ。クマは家族の前には出さないって話だったじゃん」
こそこそと翔に耳打ちをする。
「そんな話したか?うちの人たちは全く平気だよ。そもそも私の呪霊のことだって分かっているし」
「・・・」
やっぱり話を聞いていなかったんだなと思い、何も言えなくなる。
しかし、とりあえずは良かった。
クマの素性を隠す必要はなくなった。
棗はまだドーナツに迷っているようなので里桜は声をかけた。
「棗ちゃんはピンクは好き?
クマと同じイチゴ味なんてどうかな〜って思ったんだけど」
「え?私の好きな色は緑色だよ!ピンクみたいに女の子っぽい色って、ちょっと苦手なんだ〜」
そう言って緑の色合いのドーナツを取って食べだした。
「ん〜おいしい〜!抹茶味だ〜」
「・・・」
すかさず里桜は翔を睨む。
全然ピンクじゃないじゃん、と目だけで言う。
翔は苦笑い気味で視線を逸らした。
「ところでさぁ、神塚昴は元気ー?」
まさか突然その名前が出てくるとは思わず、里桜は目を見開く。
それと同時に翔が面倒くさそうに答えた。
「元気ありすぎて困ってるくらいだよ、相変わらずね。」
「あのさー、これ返しといてくんない?」
そう言ってテーブルに置いたのは何かのゲームのようだ。
五条に借りていたということは…1年前に借りたものということだろうか?
翔は実家に帰るのは1年前の夏休みぶりだと言っていた。




