4
「…なぁ、今何時だ?」
突然そんなことを聞かれ、急いで腕時計を確認し、思わず声を上げる。
「えっ!もうこんな時間だと思わなかった!
0時回っちゃってるよ!」
時計の針は、0:04を指していた。
まぁ別に、かと言って何を焦る必要もないのだが。
寮にだって、魔術を使えば音沙汰なく勝手に出入りできることはできるし、門限だってあってないようなものだ。
神塚昴なんて、自分よりもしょっちゅう天馬とぷらぷらしている。
それに少しばかり里桜が嫉妬していることを、2人は知らないだろう。
「日付変わっちゃったか。本当は0時ピッタリに渡そうと思ってたんだけど。」
「…え?」
ようやく耳から手が離れていったかと思えば、天馬が懐から小さな箱を取りだし、里桜の手に乗せた。
「っな、なぁに?これ…」
驚いたように箱から視線を上げると、天馬は目をなくすように弧を描き、にっこりと笑った。
「誕生日おめでとう、里桜。」
「おっ…覚えててくれたの?…1度しか言ったこと…なかったのに…」
驚きだった。
出会ってすぐに、身分確認のために1度だけ聞かれて答えただけ。
はっきり言って、自分でも忘れていたくらいで、今言われて思い出したくらいだ。
それくらい、今まで生きてきて誕生日なんてものは無縁だった。
「開けてみてよ」
感極まっている里桜に、天馬はたった一言そう言った。
可愛いリボンを丁寧に剥がし、息を止めてゆっくりと箱を開ける。
中には、真っ赤な宝石が1つ輝いていた。
夜空の月と星の光が照らしているせいもあるだろう、あまりの美しさに目を奪われる。
おずおずとそれを手に取ると、ピアスだということが分かった。
「…わぁ、き、綺麗。
いいの?こんなに高そうなもの貰っちゃって…」
誰かにプレゼントなんて貰ったのも生まれて初めてで、戸惑いすら感じてしまう。
「っは、今更返されても困るよ。
里桜は肌が白いから、ルビーが似合うと思ったんだ。ほら、付けて見せてよ。」
そう言って天馬は里桜の髪をすくって耳にかけた。
里桜は嬉しそうに目を輝かせながら耳たぶのピアスを1つ取ると、そこにルビーを装着した。
鏡がなくても慣れているので、流れるようなその動作に天馬は複雑そうに笑った。
「ね、どお?」
さすがにルビーが埋め込まれた自分を見ることは、鏡がなくてはできないので、代わりに天馬に聞くしかない。
「うん。いいな、想像以上に。」
彼の優しく細まった目を見てから、里桜はきちんと礼を言った。
「本当にありがとう。ずっとずっと大切にする。
これだけは使わないように、ずっとピアスとして、お守りとして、したままでいるね。」
その言葉を天馬は真剣に否定した。
「いや、これはいつか使ってほしいんだ。そのために渡した。私の魔力も少し混ぜられている。君の身が危ない時に、必ず使ってくれ」
「…え、そんなことできない。せっかくもらったのに…」
できるわけがない。
今まさに最高の宝物となったものを、手放せるわけが。
「使ってほしいんだ。頼む。
…じゃないと、あげた意味が無い。」
「なにそれ?意味は大ありだよ!こんなに嬉しくてものすごく感激してるのに!…わからない?」
目を潤ませて必死で語りかける里桜に、天馬は一瞬目を見開いたかと思えば笑い声を上げた。
「はははははは」
「…な、なに?」
「いやごめんごめん、そうだね。じゃあ…いつか使う勇気が来た時でいいよ。まぁ…君の身にそれほどの危険が及ぶのは私も想像したくはないからね…」
心配してくれているのはもちろん嬉しい。
でも絶対にこれを使う日は来ないだろう。
たとえ、自分の命が危うくなっても、これだけはきっと外さない。
「ルビーには、勇気や情熱っていう宝石言葉があるんだ。不完全な里桜が、より完璧に近づくためにそれを渡したっていうのもある。」
その言葉にハッとする。
確かに私にはいつも、勇気と情熱が足りないように思う。
それなりに強くはなったけど、まだまだ臆病で自分に自信が無いし、何を目指してどこまで行けばいいのか、立派な大義なんかもなくて情熱がないと自分でも思っている。
それを、天馬くんはきちんとわかってくれていたんだな。
ちゃんと、いつも、見ていてくれていたんだ。
私を連れてきてくれたあの日から、ずっと…
そう思った途端、目頭が熱くなった。




