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10

その日の夜、翔と里桜は自販機のジュースを飲みながら休憩室で休んでいた。


クマは1人で、というか1匹でどこかへ行ってしまった。

恐らく鬼頭やタヌキのところへ暇つぶしに行ったりしているのだろう。



「はぁー…なんだか落ち込むな。

まさかすんなり負けてしまうとは思わなかった…」


「いや、全然すんなりではなかったよ!?」


「けれど、負けは負けだ。父親が子供に打ち負かされるというのは、皆こんな気持ちになるものなのかな。とにかく複雑な気分だ…」


翔は落胆しているようでもどこか嬉しそうだ。

まるで子供の成長を目の当たりにしている父親みたいに。



もちろん里桜も複雑だった。

自分が作り出した傀儡が自分より強いだなんて、むしろ自分なんていらないのではと思ってしまう。


そんな気持ちを汲み取ってか、翔は里桜の顔を覗き込むと、小さく笑った。


「そんな顔をするなよ。里桜はあそこまでのものを作れるんだ。もっと自信を持って。」


「いや、でもクマは私の力だけじゃなくて翔の力の影響も絶対にあるから」


「私はたいして何もしていない。でもそう思うのなら、実験も兼ねてこれからもっとたくさん作ってみたら?」


「うん…そうだね」


切なそうな笑みを零す里桜と、優しく笑う翔の唇が重なった。

翔の指が里桜の髪に滑り込んできて、後頭部をギュッと引き寄せられる。

いつの間にか、深く濃厚なキスを交わしていた。


ガタタンッ…


突然扉が開く音がし、パッと唇を離す。



慌てて視線を流すと、そこいたのはクマを抱きかかえた矢作夏樹と、その矢作夏樹の目をバチッと片手で覆っている壱屋京介だった。



「やぁ、矢作、壱屋、お疲れ。

何か飲みに来たのかい?」


何事も無かったかのように翔は微笑む。



「も!突然なんだよ壱屋!手ぇ退けろ!」


クマを持っていることにより両手塞がりの矢作は、壱屋による目隠しを退かせないようだ。


壱屋が仏頂面のまま黙って手を退けると、矢作はいつもの子犬のような顔で目を輝かせた。


「お疲れ様です!翔さん里桜さん!

クマくんが落っこちてましたよ!」


「えぇ?!」


よく見るとクマは矢作の腕の中でグーグーといびきをかいている。


「ね、寝ている…!ごめんね矢作くん!

どこに落ちてた?」


「構いませんよ!すぐそこの廊下です!」


「ななんでそんなところで…もう…」


里桜はクマを受け取ると、ため息を吐いた。

けれどこうして見ると、本当にただの可愛いクマのぬいぐるみだ。



翔はいつの間にか2人に飲み物を買ってあげていた。


それを飲みながら、やはり皆でクマの話になる。


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