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「くっ…弾かれたっ…」
クマの連打攻撃で女怨霊の姿は薄れ、即座にクマのパンチが翔に飛んできた。
翔はすんでのところでパシッとその手を掴み、いつの間にか近接戦になっていた。
その組手試合のような光景は凄まじく速く、目視しているのもなかなか困難で、里桜も昴も目が離せなかった。
「ではそろそろ本気を出そうかな…
いいかいクマ助…」
「てめぇ舐めてんのかロン毛野郎?!
初めから本気を出しやがれっ!」
その瞬間、大きな龍が翔の周りをぐるぐると回りながら現れ始めた。
「…甲龍神…」
「えっ!いきなりそれ?!」
里桜はつい叫んでしまった。
それは翔の手持ちの中で、今のところ最高硬度を誇る龍神の形をした強力な魔物。
かなりクマのことが心配になってきてしまった。
「いいぞ翔〜!とっととやっつけちまえ!」
昴はやはりノリノリだ。
しかし次の光景には目を見張ることとなった。
ググググググ……
「えっ…?!」
クマの目に鋭い光が宿り、可愛らしい目は獣のような三日月形に変わった。
そしてクマの全身からは凄まじい青い炎が滾りだし、毛並みはボワッと逆立ち始めた。
その瞬間から、可愛らしいテディーベアーはどこにもいなくなってしまった。
「なんじゃありゃ?!プーさんの覚醒?!」
「わっ、かんないけどっ…なんかすごすぎ…」
昴と里桜は屋根の上から冷や汗を流しながらその姿を凝視する。
「ふふ…クマ…君も本気じゃなかったんじゃないか…」
翔の虹龍は目にも止まらぬ早さでクマにとぐろを巻き始めた。
バチンっバチンっと火花がほとばしる。
クマを纏う炎が龍の攻撃を弾いているのだ。
「すっすごいよ、クマっ!」
「…マジかー…」
「・・・っ」
翔は何も言わずに眉をひそめだした。
そして…
ついに龍の呪霊はクマの炎によってたちまち焼きつくされてしまった。
「なっ?!……」
「おいらの勝ちだな天馬翔。」
「・・・」
「・・・」
昴と里桜は目を見開いたまま唖然としていた。
ベンチでスルメを食べながら見ていた瞳と鬼頭はスルメを地面に落としてポカンと口を開けている。
しゅわんっという音とともに、クマから炎のオーラは消え、元の愛らしいクマのぬいぐるみに戻っていた。
まさに嵐が去ったように静まるその場の光景に、何事も無かったかのような静寂な空気が戻る。
この日から早くもクマはS級魔術師になってしまったのだった。
そして、里桜は先日の任務と、今回の功績のおかげで準A級呪術師に昇格した。




