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3

突然、天馬の手が頬に触れ、一気に現実に引き戻される。


俯いていた顔を恐る恐るそちらへ流すと、ゾッとするほど美しい…まさにあの時のその顔があり息を飲む。


「…な、なに?」


天馬はフッと笑ってから里桜の耳に手を滑らせた。

そしてみるみる眉を下げはじめる。



「痛そう…もう耳ではないな、これは…」



そりゃそうだろう。

ジャリジャリとしかしない感触。

里桜の耳は全てピアスで埋め尽くされていて、もはやもう耳ではないかのよう。

まるで宝石の塊…いや、武器の塊みたいな…



「はは…こんなの痛くも痒くもないよ。あの頃の痛みに比べれば…」



その痛みとは、あの頃の心の痛みのことを言っている。

それは天馬にも分かり、口を噤んだ。


「…だから天馬くんは、命の恩人なんだよ。

私を救ってくれた。私は存在してもいいんだと、そう思わせてくれた。居場所を与えてくれて、感情をくれた。」


そうでしょう?

というように真っ直ぐに見つめると、天馬は里桜の耳を触ったまま時が止まったように固まった。



「…?」



「だから…私が優しい、って?」



彼の一人称は、誰に対しても"私"

真顔のままポツリと言ったその言葉はとても小さくて、思わず笑って聞き返しそうになった。



「そうだよ。だからこの綺麗な星空の下に連れてきてくれるだけじゃないって、さっき言ったじゃん」



「・・・」



なぜかまだ固まって黙ったままの天馬に、さすがに目を合わせていられなくなって里桜は上を向いた。


いつまで耳を掴んでいるつもりだろうなんて思いながら…



「あー…夜空ってこんなに綺麗だったんだね。これも天馬くんいなかったら、一生気付けなかったことだろうなぁ。」



その言葉に、天馬も上を見上げたのがわかった。


「私は…満月よりも三日月の方が好きなんだ。ちょうど今の、このくらいのやつがね。」


「…なんで?」


めずらしいことを言うなと思って里桜は聞いた。

チラリと横目で天馬を見ると、耳は柔く掴んだままだが、夜空を見上げて小さく深呼吸をしている。



「三日月の方が、不完全という感じがしていいだろう?…皆、この世のものは全て不完全なのさ。」


「じゃあ…完璧になるにはどうしたらいいの?」


「…自分の力じゃ絶対に埋められない不完全な部分がある。それはきっと、自分以外の誰かの力が必要なのさ。だから完璧な何かはこの世に1つも存在していない。…あの神塚昴だってそうだろう?」


その言葉に、里桜は小さく笑った。


「確かにね!ほんとその通り。」



神塚昴(かみつかすばる)という同じクラスの生徒は、確かにとても強くて優秀で、しかも外見もかなり良い。

だが、中身があまりにもクソだ。

同じクラスの小篠瞳ですら、クソと呼んでいるし、鬼頭先生も彼と接する度に頭が痛くなると言っている。


やはり完璧人間などこの世にいないのだろう。

神なんてのも、この世に存在しないのだから。

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