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突然、天馬の手が頬に触れ、一気に現実に引き戻される。
俯いていた顔を恐る恐るそちらへ流すと、ゾッとするほど美しい…まさにあの時のその顔があり息を飲む。
「…な、なに?」
天馬はフッと笑ってから里桜の耳に手を滑らせた。
そしてみるみる眉を下げはじめる。
「痛そう…もう耳ではないな、これは…」
そりゃそうだろう。
ジャリジャリとしかしない感触。
里桜の耳は全てピアスで埋め尽くされていて、もはやもう耳ではないかのよう。
まるで宝石の塊…いや、武器の塊みたいな…
「はは…こんなの痛くも痒くもないよ。あの頃の痛みに比べれば…」
その痛みとは、あの頃の心の痛みのことを言っている。
それは天馬にも分かり、口を噤んだ。
「…だから天馬くんは、命の恩人なんだよ。
私を救ってくれた。私は存在してもいいんだと、そう思わせてくれた。居場所を与えてくれて、感情をくれた。」
そうでしょう?
というように真っ直ぐに見つめると、天馬は里桜の耳を触ったまま時が止まったように固まった。
「…?」
「だから…私が優しい、って?」
彼の一人称は、誰に対しても"私"
真顔のままポツリと言ったその言葉はとても小さくて、思わず笑って聞き返しそうになった。
「そうだよ。だからこの綺麗な星空の下に連れてきてくれるだけじゃないって、さっき言ったじゃん」
「・・・」
なぜかまだ固まって黙ったままの天馬に、さすがに目を合わせていられなくなって里桜は上を向いた。
いつまで耳を掴んでいるつもりだろうなんて思いながら…
「あー…夜空ってこんなに綺麗だったんだね。これも天馬くんいなかったら、一生気付けなかったことだろうなぁ。」
その言葉に、天馬も上を見上げたのがわかった。
「私は…満月よりも三日月の方が好きなんだ。ちょうど今の、このくらいのやつがね。」
「…なんで?」
めずらしいことを言うなと思って里桜は聞いた。
チラリと横目で天馬を見ると、耳は柔く掴んだままだが、夜空を見上げて小さく深呼吸をしている。
「三日月の方が、不完全という感じがしていいだろう?…皆、この世のものは全て不完全なのさ。」
「じゃあ…完璧になるにはどうしたらいいの?」
「…自分の力じゃ絶対に埋められない不完全な部分がある。それはきっと、自分以外の誰かの力が必要なのさ。だから完璧な何かはこの世に1つも存在していない。…あの神塚昴だってそうだろう?」
その言葉に、里桜は小さく笑った。
「確かにね!ほんとその通り。」
神塚昴という同じクラスの生徒は、確かにとても強くて優秀で、しかも外見もかなり良い。
だが、中身があまりにもクソだ。
同じクラスの小篠瞳ですら、クソと呼んでいるし、鬼頭先生も彼と接する度に頭が痛くなると言っている。
やはり完璧人間などこの世にいないのだろう。
神なんてのも、この世に存在しないのだから。




