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「翔、楽しかったかー?里桜との任務は。」


机に足を乗せながら昴が明るく問う。

翔は無機質な声色で返した。


「あぁ。見ての通り傷1つ付けることなく里桜は帰ってきたろう?」


「はぁ?それなかなか嫌味〜!自分がつけといてよく言うよ」


首筋のアザのことを言っているだろうことは分かっている翔は顔色ひとつ変えない。

しかし、話の内容を変えてきた。



「里桜がさ…私が飲もうとした魔物を飲んだんだ」


その言葉にさすがに昴はガタッと足を落とし、目を見開いた。


「あぁ?!なんだってぇ?聞き間違いか?」


「…こんなこと、2度も言わせないでくれ」


しばらく沈黙した後、昴は舌打ちをしてから翔の顔を覗き込むようにして口を開く。


「…どういうつもりだ、翔。

里桜がお前みたいな体質だとは思えない。今のとこなんともなかったとしても、いずれ具合やばくなるかもしれねぇぞ…」


「一瞬すぎて、止められなかったんだよ。私の普段感じてるものを共有したいと言うだけで、話にもならなかったんだ」


頬杖をついて視線を落としている翔を、昴も同じように頬杖をついて目と鼻の先で見つめ合う。


「ナチュラルな自慢だねぇ、翔。」


「・・・かもね」


互いに目を逸らさずにそのまま見つめあう。


初めに口を開いたのは意外にも翔だった。


「好きな人と共有できるものが欲しいんだと言われたら、私も欲しくなったんだ。」


「…それがお前の術でも?」


そんなのを里桜と共有するなんてどうかしてる。

そう思うが、過ぎたことはもう遅い。


「こんな術式でも、彼女も私と同じように感じてくれたのなら、これ以上嬉しいものはないね。」


そうどこか遠くを見るように目を細めて呟く翔が異様に気味悪く感じて昴は眉をひそめた。


「…あっ、そう。どうかしてるね」


「ふ…それは自覚しているから否定はしないが…

…君はどうなんだ?」


「…は?」


「君は初めて手に入らないものを見つけた。欲しくて欲しくてたまらないものが手に入らないという初めて感じる感情に支配されている君は、今、自分にかなり動揺しているんじゃないのか?」


昴の眉がぴくりと動く。

真っ黒なサングラスの向こうの碧眼は見えないが、翔はそれすら見透かすようにジッと目を逸らさない。


「それはどうだろ?手に入らないものかどうかは分からねぇからなー。」


ニヤリと白い歯を見せはじめる昴に、ふぅとため息を吐く。


「ん…なるほど。君はなかなかに私を煽ってくれるね」


「煽ってるわけじゃない。正論を言ったまでさ。つまり翔の真似〜!」


「・・・」


翔は無機質な顔で僅かに目を細めたあと、視線を逸らした。


「…そうか。わかった。」



昴、君は気付いているのか?

私には君のことはなんでもわかる。


自分の気持ちに気付かないふりをして、気付いた時にはまだ認めたくないとばかりに目を背けるような行動をする。


例えば、ホテルの時がいい例だ。


わざと里桜と私を同室に押しやったりして、いわば自分の気持ちを試し、確認している。


そしてそこで自分の本当の気持ちを再確認することになって、徐々に自分を誤魔化せなくなって…

こうして突然ふっきれたように素直に好戦的になる。


初めから天馬翔という男しか視界に入っていない里桜に対し、プライドを傷つけられた可能性もある。


そう思っていたのだが、今、わかった。


それはきっかけに過ぎなかったのだろうと。

彼女に興味を持つという、最悪のきっかけだと。



ならばこちらもとことん付き合うまでさ、昴。

プライドを傷つけられるのは私も好きではないからな。


君は最強でもなんでもない。

ただの男だ。

かく言う私もな。

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