数週間後
「イッチー!!
元気だったァァ〜?久しぶりぃ!」
京介は仕事終わりに会社の前で待ち伏せていた神塚昴を不機嫌な表情で睨む。
県外なのに、わざわざ来た?
まぁ瞬間移動も使ったのだろうが…
そう思ってため息を吐く。
「何用ですか」
「んな冷たいこと言わないでさ〜
ちょっと今夜は付き合ってくんない?」
「お断りします。もう仕事は終わったので。」
「違うよイッチー!
別に勧誘に来たわけじゃないよ今日は!」
卒業後、ずっとサラリーマンをしている京介に対し、昴は時々、魔術師に戻るよう言ってくるのだが、今日はどうもそうではないらしい。
というのも、どことなく、醸し出しているオーラが違う。
そう京介は気づき、ため息を吐いて承諾した。
今夜だけですよ。と付け加えて。
そして、酒好きの京介はゲコである昴を無視してお気に入りのバーに入った。
ウイスキーを飲んでいる隣で昴はジュースのストローに口をつけている。
都内奇襲の件は、京介にも届いた。
しかし、県外な上に、わりとすぐに終息したとのことで結局今まで仕事をしていた。
「で……何の話でしょうか。」
横目でチラリと昴を見る。
昴は明るい声を出した。
「僕ね〜、今日ついに、天馬翔を処刑したんだよ」
「?!?!」
驚愕の表情で黙っている京介には目もくれず、昴はまた喋りだした。
「僕ってちょっとおかしいのかな〜
親友をこの手で殺したのに、なんかホッとしてんだよね〜
ようやく殺せてよかったな〜みたいな、
喉に刺さった小骨とれたスッキリ感に似た感じかなー?」
「まぁ…おかしいのは今に始まったことではないですが…」
「ホント辛いとか悲しいとか罪悪感?みたいのよりもさ、なんかーこうー…」
「ずっと…黙っていたことがあります。」
突然言葉を被せてきた京介にポカン顔で目を向ける。
「…ん?」
京介はいつもの仏頂面が、更に眉間のシワが濃くなっていて、なんとも言えない雰囲気を醸し出していた。
「私は…昔…天馬さんに…
言ってはいけないことを言ってしまいました…」
「え、どんな?」
京介はウイスキーのグラスを傾けながら、複雑そうに押し黙り、暫くしてまた静かに話し始めた。
「…私たちがいる意味なんて無いのでは…と……
あれは言うべきではなかった…」
「……そぉ。でもイッチーのせいじゃないよ。
あいつの問題。てゆーか、僕のせ」
「いいえ。」
京介にその言葉は遮られた。
「……言い訳ではないんですけどね…
私は…それはあなた方が1人でも大丈夫だとか、神塚さん以外は弱いとかいらないとか…そういった意味で言ったわけではないんですよ…」
矢作のことを思い出しながら、奥歯を噛み締める。
グラスの氷がカランと溶けた音が異様に大きく感じた。
京介は静かに話し出す。
「私はあなた方2人を見ているのが、
なんだかんだ好きだった…
羨ましくも思っていたし、憧れてもいた…」
自分と矢作も、そんな2人を目指していた。
とても儚いあの頃の記憶。
ずっと、思い出さないようにしてきた。
「…ただ、自分の無力さを肯定する何かが欲しかった…」
昴は音を立てずに笑った。
「いいよ、分かってる。
それにそんなのは僕も翔も同じだった。
いくら僕らが最強と言われていようと…ね…」
思い出したくない思いと、
思い出したい思い。
何度も葛藤してきて、結局いつも思い出してしまっていたのは、今を生きていないことと同義なのかもしれない。
ならば、忘れなくてはならないかもしれない。
「翔が生きているうちは、僕はおかしかったんだ」
「…はい?」
京介の片眉が僅かに上がった。




