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「翔が生きている間は、いい思い出も悪い思い出も、何を思い出してもイライラしたのにさー、あいつが死んだ途端、全部がいい思い出だったように思えてきちゃって。
自分自身が都合良すぎてやんなるけどー、でも…
ほんとにホッとしてるわけよ。」
早口でそう言ってから、頬杖をつき、ストローでグラスをかき混ぜているその仕草がどこか異様で京介は目を逸らす。
「これであいつももう罪を重ねないわけだし。
てか、やっぱ3年のとき殺しとけば、こんな大惨事にはならなかったよねぇ。
あの時、僕が殺しておけばさー…
まぁでもようやくこれで、あいつを苦しみから解放できた気がする…」
ストローを動かしたまま昴はどこを見ているのか分からない目をしている。
「ねーやっぱ僕っておかしいよねぇ。
らしくない感情に葛藤しちゃってる感じ?」
「…故人を悼む感情は人それぞれですし…おかしいなどということはないとは思いますが…」
京介はグラスに口をつけ、短く息を吐いた。
この人の、あの日から変わった一人称には未だに慣れない。
さっきからペラペラと早口で言うあなたは今…
「…神塚さん。あなたは今、かなりの精神的ダメージを食らっていると思います。恐らく自分が思っている以上に、天馬さんの死にショックを受けている……休んだ方がいい…」
その言葉に、昴は手を止めた。
そしてとても寂しげな口調で声を出す。
「あのね、壱屋……
僕は…最強なんだ。」
「……知っていますが。だからといって心も最強なわけではありません。勘違いしないでください。」
「ははは…そうじゃなくて…
人ってさ、いつ死ぬと思う?」
京介は突然何を言い出すんだと言うように訝しげに横目で昴を見る。
昴は切なげに口角だけ僅かに上げていた。
「人は…忘れられた時に死ぬんだ。
僕は最強なわけじゃん?だから…たくさんの死を見ていかなくちゃならない。きっと、これから先も。」
京介は目を瞑った。
この人は…そうだ…
最強故の辛さがあまりにも多くのしかかっている。
里桜さんとクマさんの死から始まり…
そして親友の死も…
「で、だからって、全ての死を請け負えないわけ。
イッチーの言うように、僕は心まで最強なわけじゃないんだから。
それでも死は僕の前を通り過ぎていく…。
ただね……忘れちゃいけない、忘れられない死は、それでもあるんだ…」
いつも平気な顔をしていて、
平気であったことなんて、きっとこの人にはなかった。
京介はそう思って眉間に指を当てた。
それに比べ私は…
こうして逃げているだけか?
1番弱いのは…自分か…?
それともこれこそが強さなのか…?
「最強だから、いくら死が通り過ぎようと、僕は平気な顔はする。でも……壱屋のことも忘れないから安心して。」
そう言って昴はバンッと京介の肩に手を置いた。
「……死んでもあなたに忘れてもらえないとか…
…悪夢ですね…」
未だにこうして、自分のことを忘れずに何度も会いに来る神塚昴という最強魔術師。
自分の中の思考が揺らぎつつあることから目を背けられなくなってくる。
死んでもそうなのか?
矢作をはじめ、あなたにとっても私にとっても大切だったあの二人を亡くし、天馬さんを亡くし…
それでも尚……私は…
「ははっ!悪夢じゃなくって光栄って言えよー!」
「……とにかくあなたは休養してください。」
"壱屋くんは…生かされた。
だから生きなきゃいけない。生きて、強くなって、次の誰かにまた命を引き継ぐ。そうやって、命は続いていくんだよ。
苦しくて、辛いこともあるけど…それが、生きてるということそのものでしょ。"
あの日の彼女の言葉をまた思い出す。
しかし私は…
大義や正義、生き甲斐などというものとは無縁の人間…
今は、まだ、そう思っている。




