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そうやって命は続いていく

里桜は単独任務を終えて高専に戻った時、校舎入口の桜の木の下で、1人ぽつんと佇んでいる京介を見かけた。


ゆっくりと近づいていき、その表情を見てハッとなる。


いつもの無機質な真顔だ。

そのはずなのに、こんなに悲痛そうに見えたことは初めてだった。


花びら1つない、散り終わった桜の木を見上げている。

散り終わったというよりも、今年は全然咲かなかった。



なんとも言えない京介のその表情は、やはりあのことを思い起こさせた。



「壱屋くん、お疲れ様。

もう桜、なーんにも残ってないね…

って当たり前か。もう5月半ばになっちゃったし。」


京介は僅かにこちらに視線を移し、そしてまた上を見上げた。


もしも桜がまだ少しでも咲いていたら、目のやり場に困らなくて済んだだろうか?

彼がどこを見て何を考えているのか、分からないままでいられたかもしれない。

そう思いながら、里桜も上を見上げた。



「来年も…壱屋くんはまだここにいるよね。私たち3年生はもういないけど…壱屋くんはきっと、来年はこの桜の木の下で、花を見上げているだろうね。」


「……どうですかね…それまで生きているかはわかりませんので。」


「生きてるよ」


強く即答するその言葉に、京介はうつむいて目を細めた。



「なぜ、ですか」



里桜は、地面に視線を落としたままの京介に目を向けた。



「…壱屋くんは、生かされたから。」



京介はグッと拳を握りしめ、掠れた声で言った。


「…そんなこと…私は頼んでいません」


「そんなことは関係ないよ。守られる価値がある命だったから守られた。それだけが事実だよ。」


京介はハッと目を見開いて里桜に視線を移した。

彼女は無表情で、なにもない木の枝を見上げている。



「だからね壱屋くん、その命はね、次の価値ある命に繋げなくちゃならない。……繋げてくれた矢作くんに、報いるためにも…」


いつか、命懸けで何かを守らなくてはならない日が、来るかもしれないから…





京介は静かに話し出した。



「……いた時はうるさいと思ってたんですよ。

ただの私のストレスでしかないと…

そう、思っていたんです」



矢作のことを言っているということは分かり、里桜は黙って耳を傾けた。



「でも…いなかったらいなかったで、今度はやけに周りの音がうるさく聞こえるし、自分の呼吸音さえも、耳障りなんです…」



いつもの無機質な声色のはずなのに、やけに優しく柔らかく聞こえた。



「ストレスが減ったかと思ったら……

増えていってるんですよ…ずっと…。」



里桜は、目を合わせない京介にまっすぐ向き直って笑顔で言った。


「そのストレスは、糧になる。どこまでも壱屋くんを強くする糧に。

だから、きっと負けない!壱屋くんはものすごく強くなる。私達もクマもついてる。独りじゃない。」



目を見開いた京介から、ゆっくりと涙がこぼれ落ちた。



「壱屋くんは…生かされた。

だから生きなきゃいけない。生きて、強くなって、次の誰かにまた命を引き継ぐ。そうやって、命は続いていくんだよ。

苦しくて、辛いこともあるけど…それが、生きてるということそのものでしょ。」



私も同じなんだ。


あの時、翔に道を教えてもらって、

生き方を教えてもらって、

だから、生かされた。





"あとは頼んだよ、壱屋"




京介は目を瞑った。


彼女の、強く真剣な言葉は、京介の心に暖かいものを染み込ませ、それは1滴、2滴と、小さく地面に染みを作っていった。

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