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「…っていうか!この子が噂に聞いてたS級クマくんね?!かっわえぇやんなんやこれ!!」
「っ!おいやめろっ!」
楓がクマを抱き上げ、頬擦りをした。
「おいこらてめぇ!…うぅ〜!おい翔!お前この女と浮気したら里桜に言い付けるからな!!」
「えぇっ」
ボンッとクマは瞬間移動で消えてしまった。
「あぁーん!行っちゃったやん!!
まだ触ってたかったのにぃーー!!
あの肉球の魔力やばない?!あんなんイチコロやろ!!」
「ちょっと楓さん、うるさいですよ…」
相変わらず声がでかく、早口で周りが見えない破天荒さだ。
楓は鬼頭の同期であり、日本で5本の指に入るS級魔術師だ。
しかし彼女はいつも所在不明で、任務をなかなか受けず逃げ隠れしていると魔術界では度々問題になっている。
楓は翔の隣に腰掛け、タバコに火をつけた。
「最近どお〜?」
「…楓さんこそ最近どうなんですか?
また長いこと見ませんでしたけど。どちらに行かれてたんですか?」
「あぁ、うち実はエルサルバドルの伝説の魔術師ってのと会ってたんだわ!これがなかなか凄くてなぁ、」
「そんなマイナーな国に?」
「そうっ。エルサルバドルは知る人ぞ知る小さな南米の国。ただね、舐めちゃいかんよ天馬くん。すっっごく美しくて歴史的で、んでもって魔術を他国とは違った角度で研究している、1歩も2歩も先を行ってる国なんや!」
楓は、フーっと煙を吐き出しながらウインクした。
ここ禁煙なんですけど…と言おうとしていたが、翔はそちらの情報に完全に興味を持っていかれた。
「おっ、興味あるぅ?」
目を見開いてジッと見つめてくる翔に、楓はタバコを灰皿に押し付けた。
「エルサルバドルにホルマンという魔術師がいる。彼の魔術は強力で、A級魔術師およそ50人分を持ってしても叶わないのではないかと言われているんだ。」
「そんな人が…。昴より強いってことですか」
「噂には聞いていたけど、最近の昴くんってそんなに強いん?」
「……はい。それに比べて私は……」
複雑そうに地面を見つめる翔に、楓は目を細めた。
「まぁいろいろあったって、風の噂で聞いてたけどなぁ」
やはりあの任務失敗で致命傷を負った一件も、楓の耳には届いていたようだ。
「でも君もそれきっかけでS級になったんちゃうん。
きっかけってのは自分で選べるものちゃうで。」
「…私は…特別な力は特別な者にしか与えられないと思っていたんです。でも……」
翔は力なく自分の掌を見つめ、一瞬口ごもった。
「才能は、選ばれし者にしか与えられない。
きっと特別な者はランダムで、才能のある者は、崇高な何かが、何かを基準に選んでる…。」
「…君は、自分には才能がないと思ってるん?
うちは、才能ってのは誰でも持ってると思ってるねん。ただそれが、開花するかしないかなだけでな。」
楓は立ち上がり、気持ちよさそうに伸びをした。
そして地面に落ちている枝葉を拾い上げた。
「なぁ天馬は、早いとここんな日常をどうにかしたいと思っとって、抜けられないジレンマに悩んどるんやろ?」
翔はドクッと心臓が鼓動したのが分かったが、極めて冷静に、はい…と頷く。
「んで、変えられないと思っとるんやな」
「っえ……」
驚いたように楓を見ると、楓は目視できないほど遠くの的に、拾い上げた枝葉を魔力で飛ばしていた。
ものすごい威力の魔力を纏って飛んでいき、一瞬で真ん中に刺さったのがわかる。
「……変えられるんですか?」
「あぁ。その気になればな。
この世に変えられんことなんかないで」
楓は、エルサルバドルを始め、各国で得た情報や、魔術や魔力、魔物の研究についての内容を話し始めた。




