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「ねぇ…翔は完全を求めているのかな?」
昴は窓の外を見つめながら短く息を吐いた。
「さあ?俺にも翔の考えていることがよく分からねぇときがある。ていうか、いつもそう。まぁ結局は自分以外なんて他人なんだから分かりっこないんだけど。」
「そう、だね。全部知りたくても、それは叶わないよね。」
絶対正しいことや、絶対正しい人間が、この世に存在するはずがない。すべては、不完全だ。
だからこそ自分のことも他人のことも100%はわからない。
「ただ俺は…“この人となら「俺らしいまま」つきあえる”
そう思った人たちとしかつるまないだけだ。」
世間からいくら拍手喝采をあびようとも、結局、自分らしく生きているという実感が得られなければ、何の意味もない。
「うん。私も同じ。自分を偽らなくていい居場所は、みんなと一緒にいることなの。」
「まぁ俺も…天才だ最強だなんだとか言われてるけどさー、そういう風に見ないで普通に接してくれんのは翔とかお前らだけなんだよー」
あぁ、そっか。
だから一緒にいて楽なんだ。
もう菓子には飽きたのか、昴は頬杖をついてボーッと外を眺めている。
サングラスの隙間から見える長く白いまつ毛が影を作って妖艶に見えた。
「…昴は才能もあって天才だと思うけど、でもそれはきっと、そういう仲間たちに囲まれているからだよね?人はどんなに素晴らしい能力を持っていても、自分一人ではそれは発揮できないと思うんだよね。だから翔とか私たちとつるむことは必要でしょ?」
その言葉に、昴は目を見開いた。
目の前で流れていく風景が突然目に入らなくなる。
「もちろん私も翔も、皆そうだと思うの。人は1人では生きられないし、どんな天才でも1人でできることは限られてる。仲間って、自分のできないことを助けてくれる人たちだと思うし、あと自分にしかできないことで助けてあげられる人たちのことだと思うから。」
目を見開いたまま里桜に視線を移すと、彼女はにっこり笑いながら肩に寄りかかっている翔の手を握っていた。
「だから昴もさ、弱い自分の部分を私たちにはさらけ出しなよ。なんかいつもそうやって馬鹿やってたりして、無理してるように見えるよ?
どんなに脆くて人間らしい部分でも、優しく受け止める人が本当の仲間であって、友達でしょ?あ、これ私たちのことね?」
ケラケラと笑う里桜に、つい言葉が洩れた。
「… 里桜はどうなんだよ。泣いてるところとか、見たことねぇけど…」
その言葉に、どこか寂しげな表情になるのが見て取れて、昴の中に妙な緊張感が走る。
「虹を見たければ、ちょっとやそっとの雨は我慢しなくちゃって誰かが言ってたよ?」
「…は?」
「だから泣きたい時は一人で泣いて、自分の傷は自分で治してきた。でも…そっか。…涙が弱さの象徴なら…誰かに慰めてもらうのも悪くはないよね…」
そう言って俯いた時、もう片方の手の上に昴の手が重なった。
目を丸くして前を見ると、サングラス越しにまっすぐとこちらを見つめる空のような碧眼があるのが分かる。
「里桜を泣かせるまでぜってぇ死なねぇようにするわ」
「…なに…それ……てか…昴が死ぬわけないじゃん。
それから…翔だって。」
もう片手は眠っている翔の手を握りしめている。
だからなんとなく、昴の手は握り返せないでいた。
だから代わりに真剣な目で見つめ返す。
「はっ。だな。」
そう言って昴は何事も無かったかのように手を離し、また何か菓子を取り出した。
ジッと耳を澄ますと、隣の翔の寝息が聞こえる。
斜め前の瞳の寝息は、隣の昴のバリバリという菓子の音にかき消されていた。




