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そして、先に到着したのはクマだった。
クマは冷静沈着な態度で矢作の顔の白布を取った。
「矢作…この仔犬野郎……
毎回おいらがついていてやるわけにいかねぇっつったろ…」
里桜は奥歯を噛み締めて目を逸らした。
とても勉強熱心でいつでもやる気に満ち溢れていた矢作は、クマと出会った頃からしょっちゅうクマを連れて任務へ出かけていた。
夏樹の成長を見守り、そしてたくさんの想い出と様々な思いがあったであろうクマを、直視できなくなった。
そのとき、ゆっくりと翔が入ってきた。
ハッとして里桜はみるみる顔を歪める。
無の表情で夏樹を見下ろし、何度か瞬きをしながら、何も言葉を発さない。
夏樹の口癖は、
"天馬さんのようになる!"
"天馬さんにいいとこ見せたい!"
だった。
常に翔に憧れと尊敬を抱いていて、その仔犬のような可愛らしい顔で翔を追いかけていた。
そんな彼はもういない。
翔は表情ひとつ変えずに白布を彼の顔に戻した。
目にタオルを当てて歯を食いしばっていた京介が、奥から絞り出すように声を出した。
「私が判断を見誤っていた!A級魔物が潜んでいたんです…私のせいでっ…!」
悔しそうに息を荒くする京介を一瞥すると、また夏樹の方に視線を移してから翔が冷静に言った。
「とにかく休め、壱屋。その任務は昴が引き継いでる。」
「……はじめから……あの人に任せていれば……全て問題ないのに……」
「…………。」
「私たちがいる意味って、あるんですか…?」
翔は、俯いている里桜をチラリと見てから、何も言わずに部屋を出ていった。




