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6


私はその日、クマ先輩と任務へ出ていた。

散々罵倒され、しごかれ続けた私はもう心底疲れてしまっていて早く学校に戻って爆睡したいと、そればかり考えていた。



そして、帰り際に、森さんの車内の中でクマ先輩のスマホが鳴った。



「なんだ、グラサン野郎」


«******»


「あぁん?」


«******»


「言ってる意味がわからねぇな。てめぇ寝起きか?」


«******»


「…はっ、あのクソ大バカ嘘つき野郎が。」



ピッ



「・・・」


「あの…どうかされましたか?」


「…日和、お前はこのまま学校に戻れ。

おいらは降りる。というか、飛ぶ。」


「っ?!」


声を発する間もなくクマ先輩は窓から飛んでいってしまった。

クマ先輩は非魔術師からは目視できない術を身につけてはいるが、その突然の行動には唖然とする。

森さんも慌てていたが、森さんとクマ先輩の信頼関係ともいうべきか、ひとまずはそのまま私たちは高専へと向かった。




私は先程の疲れと眠けが一気に吹き飛んでしまった。


廊下で泣き喚いて暴れている里桜さんを、鬼頭先生と神塚さんが押さえつけている。


いつも落ち着いていて笑顔の里桜さんのそんな光景を見るのは初めてで…私は目を見開いて突っ立っていることしかできなかった。



「うわぁあああ!!!嘘!!絶対!!嘘ぉ!!」


「落ち着け里桜!!」

「里桜!俺が行くから!」


そしてしばらくして彼女は、目眩を覚えたように崩れ落ちた。

立っていられなくなったらしい。

そんな彼女を起こそうと神塚さんが肩を支えるが、それでも力が全く入らないらしく、神塚さんは彼女を抱き上げた。

その間もずっと彼女は泣きわめいている。



部屋に運ぼうと神塚さんが踵を返した時、里桜さんの脱力した手から、何かが落ちたのが見えた。


私は急いで駆け寄ってそれを拾った。


稲妻型のピアス…


あれ?これはいつも天馬さんがしていたものじゃ…


天馬さんはいつも、大きいピアスの隣に、稲妻型のピアスをしていたことを知っている。


とにかく私はそれを届けようと神塚さんに声をかけた。


振り返った神塚さんの顔を見て、たじろいだ。

こんなに禍々しいオーラを纏っている彼は初めて見たからだ。

見開かれた眼光は血走っていて、唇は震えているのがわかった。


神塚さんが抱えている里桜さんは、ひっくひっくと嗚咽を漏らしていて、顔はぐしゃぐしゃに濡れていた。


「どうした…日和。」


「っ…あのこれ…落としました…」


神塚さんは瞳だけ動かして私の手のひらを見下ろし、そして言った。


「俺、今 両手塞がりだからさ、少しの間預かっててくれるか」


かなり冷たく感情の籠っていない無機質な声。

本当に神塚さんの声か?そしてこの人は神塚さんなのか?

と思ってしまったのを覚えている。



「……はい。」


「悪いな。無くすなよ。」


くるりと踵を返して、すぐに去っていってしまった。



「日和。」


後ろから鬼頭先生に声をかけられてびくりとなる。


その後の鬼頭先生からの話に、私の耳は幻聴を聞くようになってしまったのか?

それ以前に、幻覚すらも見るようになってしまったのか?

と思ってしまったほど驚愕した。




そして、この時から私は理解した。



人生には、どうしても信じがたくとも残酷な、誰にも想像さえできぬ予期せぬ現実が湧いて降ってくるのだと。


それはいつでも突然で、決して忘れることのできない傷と記憶を、元々脆い人間の奥深くまで染み込ませるのだと。


いくら絶望的なものでもそれは現実であり、そして記憶として残る以上は、決して癒されることのない一生残る不治の傷なのだということを。


記憶は時に、人間にとって最も拷問に近い魔力であると。

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