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クマは今日は矢作夏樹と任務へ出かけているらしい。
クマがいれば心強いことこの上ないのだが、翔と昴コンビでももちろん文句無しに心強い。
ただ、このメンバー3人で任務というのは初めてなので、どことなく緊張してしまう。
いつもの森さんは、やはりクマに付かされているので、今日は佐々木さんという補助監督だ。
佐々木さんは割と年配で落ち着いた雰囲気を持っている。
ちなみに娘さんはもう結婚していて、佐々木さんには孫までいるそうだ。
車内で、あーでもないこーでもないとおしゃべりに夢中な3人(とくに昴)に対し、森さんのように不安の表情を滲ませたりするのではなく、笑いながら会話に参加したりもしていた。
「ぎょぎょっ?!ちょっとちょっと佐々木のじーさん!こんなの聞いてないよっ?!」
「ははは、道中に言いましたよ?」
そこは、とある海だった。
△△海岸と書かれた古く薄汚れた看板がある。
砂浜の砂が異様に靴にめり込んでくる感じや、妙にひと気のない感じがとても奇妙で、それでいてやはり空気が重く、綺麗な海のはずなのに気持ちが悪い。
ザブンザブンと時折押し寄せてくる波の音までも不気味だ。
しかし、海ともなればこれは一体どうすればよいのだろうか?
果てしなく遠い地平線を見ながら里桜も不安の表情を浮かべた。
「ちょっ!マジこの海を端から端までチェックしてけってぇ?冗談は顔だけにしてよ、佐々木のじーさん!」
「いえ、当然それはどう考えても不可能ですので。境界壁のこともありますしね。正確に言えば、向こうにとび出ている孤島のようなあの森と、その周辺の浜辺付近です。」
佐々木が指さす方角を見る。
なるほど、とにかく広すぎるから3人が招集されたのかと誰もがさとる。
「くはーあ、だとしても広すぎるっ!3人で足りるかこれぇ?」
「一応私の傀儡たちならいるけど…」
里桜は腕いっぱいに持っている愛らしいぬいぐるみたちを上下に振った。
持ちきれない分は佐々木さんが抱えている。
まるで孫を抱いているかのように微笑ましく優しい雰囲気だ。
「あ〜とりあえずさぁ、翔、
クジラみたいな魔物出せるー?」
「はぁ?」
「クジラに乗ってあそこまで一気に行こーぜ!それかイルカでもいいよ、前〜に水族館のショー見てからあれやりてーと思ってたんだよね!」
緊張感の欠片もなしにそんなことを言うので、真面目に言っているのかふざけて言っているのかよくわからなくなる。
翔はみるみる眉間に皺を寄せ呆れたように言った。
「…君は私の魔物操術を四次元ポケットかなにかと勘違いしているのか?」
「そうだよ昴。翔はドラえもんじゃないんだよ?」
「あーじゃあ里桜はドラミちゃん?
とりあえずあそこに行ける乗り物かなんか早く出してよ!」
「君はのび太くんなのか、昴。」
意味不明な言い合いをしている3人を朗らかな笑みで見守っていた佐々木も、さすがにしばらく経つと、オホンと咳払いした。
「…なにしろ広いですのでね。3人で手分けをしてください。あと、聞いていなさそうだったので一応もう一度言っておきますが、魔物の詳細は把握できておりません。しかしここは入水自殺や水難事故が多発しているのです。なので人があまり寄り付かなくなりました。」
「人喰いサメはいないよな?!」
「いませんよ…。」
いるわけないじゃないかと言いたげな笑みを浮かべながら佐々木は境界壁を下ろした。
「とりあえず入口付近にのみ境界壁を下ろしました。
そして…こちらは私の魔力を含ませた特殊な方位磁石です。」
佐々木は、よいしょと里桜の傀儡をなんとか片手で抱え直し、見た目はかなり普通の方位磁石を3人に渡した。
「では…ご武運を。」
そう少し不気味な笑みで言ってから里桜の傀儡を解放した。




