8
昴の目の前には今、一人の男がいた。
「……なんで生きてんだお前?才輝の奴、しくじったな?」
「あのガキはどこだ。」
「もう用は済んだし、帰らせたよ。ちなみに俺はお前のお友達2人、死なねぇ程度にやったけど、運悪くあいつに出会ってたら今頃息してねぇと思うよ」
昴の目は恐ろしいほどの眼光を放った。
「殺す」
昴はオッドアイを開眼し、全神経を自分の魔力に集中させた。
男はウザったそうにため息を吐いた。
「はーあ。初めから俺が殺っときゃよかったかなぁ」
「……朝凪戦火……!」
バガガガガガ!!!
ドガガ!!!
バキン!!!
速い……
あのガキと同じくらい速い。
でも……
なんだろう?
今の俺はさっきの俺とは違う……
"お前はまだ本気を出したことがない"
クマの言ったあの時の言葉…
そうだな…俺は…
"お前にならできるんじゃねぇの、神塚昴…
理想の世界を一瞬で作ることくらい…"
そうだ、俺の覚悟が甘かったからだ。
何もかもがどーでもいいと思ってた。
なにもかもが本気じゃなかったんだ。
今なら……
「神塚秘術、夕凪戦火……!!」
どごごごごごごごーーーーん!!!!!
「おっと、危ねぇ。あのバカ…無鉄砲すぎんだろ」
クマは崩れ落ちる建物を瞬時に避けた。
危険極まりないその乱闘の間合いに入らないよう、遠くの高台から見下ろす。
「全神経を己のみに集中させろ…神塚昴。
お前は今、覚醒する…」
昴は空中で、自分に滾り出す力をただただ実感していた。
こちらを見上げながら、男は「化け物が…」と呟いている。
男が捻り出す技は、S級の者でさえ目視することは不可能なくらい速く、そしてパワーがある。
しかし今の昴には、その全てがスローモーションに見えていた。
そして身体は自然と動いていて、ただ心地良さを実感していた。
そうか……この男は……
魔術界でも有名な麻宮家の人間だ。
聞いたことがある。
確か1人だけ、麻宮家を抜けた人間がいると。
あの家系は才能重視だからか。
度々酷い話は聞いていた。
でもこの男は才能がないようには見えない。
ただ、"求められていた才能"が無かっただけだ。
そう、あの家系が求めているのは神塚家の碧眼……俺の眼をも凌ぐ特別な能力だ。
じゃああのガキは……?
「てめぇっ……いい加減死ね!!!」
「……夜凪……百戦火……!」
「終わったな…」
クマの小さな呟きはその凄まじい轟に掻き消された。
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
ボロボロになった男が目を虚ろにさせて血を吐いている。
昴はジッと見下ろしていた。
「あのガキはお前の子か」
「ふっ……実の子じゃねぇが。」
「……なに?」
「…………。」
あの女が妙な魘夢を見せたせいだ…
俺が抱いていたあの赤ん坊は……
才輝じゃない……。
才輝は俺と同じように、捨てられてただけだ。
そう、
俺もお前も才輝も、誰でもそうだ。
本当は…何の才能がなくても、何の能力を持ってなくても、世間に認められなくても……
ただ誰かに愛され、ただ誰かを……愛したいだけなんだ。
あの赤ん坊は………
「…幸愛…っ…」
麻宮政春は…死亡した。




