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「っ!来たぞ里桜!気をつけろっ!」
クマは5、6体の魔物を相手にしながら叫んだ。
里桜は、向かってきたそれのあまりの俊敏さに声は出せずに避ける。
察するにこれはA級レベル…!
まさしく命の削り合いギリギリの戦いになるはずだ。
ここから一気にゴングが鳴ったかのように里桜の目の色が変わった。
「っく!操術……蛇鎧霊魂……」
手持ち魔物の中で、なるべく硬度と速度のあるものを引き出す。
しかし相手もA級ともなれば簡単にはいかない。
いつのまにか、クマの姿は視界から消えていて、自分は細かい魔物たちにも囲まれていることに気がついた。
急いでピアスを放とうとしたその時…
“”ししししにたい“”
“”生きていたくない“”
“”辛いよ“”
“”逃げたい“”
"消えたいよ“”
里桜の頭の中にはダイレクトにそれしか響かなくなり、耳からは何の音も入らなくなった。
辺りは真っ暗闇。
幻覚と幻聴という認識さえ今の里桜には分からなくなってきていた。
“”怖いんでしょ“”
“”いいじゃん一緒に死のうよ“”
“”もう全部終わりにしよ?“”
“”こっちの世界はずっと楽しいよ“”
“”永遠に幸せでいようよ“”
“”生きるのなんかやめて辛いことから逃げよう“”
里桜は呆然と目を見開いたままで、1ミリも体を動かせない。
“”いいじゃんもう楽になりなよ“”
“”行こう、幸せな空間へ“”
“”逝きたいんでしょう?“”
「だ、ダメだよ…行けない…」
"こっちに来れば好きな人と好きな世界だけが見られるよ"
「……え?」
「おいで、里桜」
「…っ!」
聞こえてきたのは、
優しくて大好きな、あの人の声。
そして、暗闇から手が伸びてきた。
その手も、大好きなあの人の手。
何度も聞いてきたからわかる。
何度も見てきたから分かる。
翔だ…!
里桜は微笑んで手を伸ばした。
「……うん…わかった。」
しかし、手はドンドン遠のいていってしまう。
「こっちへおいで…」
「ま、まって…」
その手を掴みたくて、必死で追いかける。
「もっとこっちだ里桜…」
「うん…まって…あと少し…」
「さぁ、一緒に行こう…」
あ、やっと届く…
「うん、行」
「里桜!!!!」
安堵の笑みと共に手が触れそうになった時、
突然聞こえたクマの大声。
突然辺りが先程の森に戻り、
ハッと我に返った。
「ーーーっっっ!!!!」
驚愕しすぎて声が出なかった。
自分の足元は崖。
下は大きな滝が打ち付ける川。
あと一歩でそこへと落ちていく寸前だったのだと気づき、よろよろと後ずさりする。
バガガガガガガガ
グザザザザ
ゴゴゴガガ
凄まじい音響が背後から聞こえ、
バッと後ろを振り返ると、"例のモード"に入っているクマが、魔物と一気にカタをつけている所だった。
「クマっ!」
急いでピアスを手に取り、手でピストルの形を作る。
それによって何発か放たれた魔力玉が、魔物を射抜いた。
しかし、結局クマによってそいつは祓われた。




