マイスイートハニー
「あ〜にしても、とっとと終わらせてーなー
俺まだクマ野郎と全クリしてねぇゲームあんだよね。つーか俺があいつにゲームでもリアルでも勝てねぇとかこれリアル?!」
道中、そう言ってごくごくと缶に口をつける昴に、翔はため息を吐いた。
昴はそれに気づいてあからさまに不貞腐れた顔で上目遣いになる。
「んっ、なに?またなんか文句?」
「文句って…なぁ昴。
前にも言ったはずだが、言葉遣いをどうにかしないか。」
「んぐ、ゲホ、またその話ー?」
「今後きっと私たちはいろんな場面でいろんな人物に会っていくと思うんだ。そういったとき、そんな言葉遣いや態度では支障をきたす恐れが十分あるというか、単純に損なんだよ。」
昴は変なところにジュースが入り込んで咳き込みながら翔を睨む。
「せめて俺じゃなくて僕にするとか、若者言葉をやめるとか」
言いながら翔はスマホを見つめ目を細めだした。
画面にあるのは4人とクマが写っているドリームでの写メ。
昴は、「ったく姑かよ」と後ろで愚痴愚痴言っている。
"俺も怖いんだよ。翔。
俺も里桜みてぇにな、怖いんだ。この先が。
今の幸せが、一瞬で壊れちまうときが、来るのが…"
4人の写った画面を見つめながら、頭の中に今朝の昴の言葉が降ってきていた。
「なぁ、昴」
「んん、今度は何!」
「君が私に今朝言ったことは全部、
本当は嘘でも冗談でもないんだろ。」
陽の光で眉をひそめたサングラスが光った。
今日は異様に天気がいい。
「本気で思ってるんだよな…?」
目を合わせず呟く翔を、昴はチラリと見てからまた缶に口をつけた。
「……お前を怒らせたくねー。こえーから。
でもさ、時々思うんだよ。俺も翔も里桜も瞳も、みんなさ、もしも普通で、普通に出会えてたら…って…さ。」
もしも、俺らが普通の人間で、
普通の日常で普通に出会っていたら…
そう静かに呟く昴に目を見開く。
"俺もレイも、翔みたいにリアリストじゃねーってことさ。できる限り、幸福な人生を享受していたい。あるはずの青春を謳歌したい。いつ死ぬかなんて分からねーんだからさ。"
昴のこの言葉の真髄がようやく理解できてきた気がした。
「あ〜、つーか俺、
もし普通だったら将来何になれてたんだろ〜?」
缶を道すがらのゴミ箱に放り投げて独り言のようにいう昴を一瞥したあと、翔も考える。
「……なんだろな…確かに…」
「やっぱ俳優かなぁ〜?アイドルグループのセンターもいいなぁ〜!もしくはなんでもこなしちゃう系の福山雅治みたいなっ」
昴は楽しそうにケラケラと笑いだした。
しかし、決して叶うことのない夢を諦めているようなその笑みが切なく見える。
「君は教師なんか向いてるんじゃないか?」
「はぁあ?!」
被せるように呟いてきた静かなその声に驚愕する。
そんなワードが出てくるとは思ってもみなかったので昴は冗談だと理解した。
「それっ!ふははっ!翔にしては珍しく面白い冗談じゃん!」
「……私は君と違って冗談のセンスはある方だが、これは冗談で言ってるんじゃないよ昴。」
「は?」
目を見開いて隣を見る。
翔は歩きながら空を見上げていた。
「結局のところ君も、望んでいるのはこの世界の変革だろ。
腐敗した上層部が支配する魔術の世界、若者に青春を謳歌する余地のない現実…こんな世界のね。」
至極冷静に呟くその声は、空に向かって消えていく。
釣られて昴も空を見上げた。
海面に浮かんで見上げた時の空よりも薄い青。
そして霧のような雲が所々に浮かんでいる。
「青春を取り上げられることの無い現実を、君が作っていけばいいんじゃないか。高専で教鞭を取って、強く聡い若者を育て上げ、夢を現実にするんだ。」
目を見開いたまま横を向くと、いつの間にか翔もこちらを向いていて目が合った。
「自分の力で変えてみろよ、昴。」
こんな現実が嫌なら。
翔の切れ長の瞳の奥には、君ならできるだろ、と口にはせずとも語られているように見えた。




