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2人の頭の中で、
その会話となんとも言えない感情と胸糞悪さが反芻された。
「俺さーもう魔術師やめるわ」
それは昴の一言から始まった。
「・・・は?」
一瞬本気で幻聴かと思った。
目を見開いて隣を見ると、ベンチにだらりと身を預けてペットボトルに口をつけている昴。
「いやさー、もううんざりなんだよね。ぜんっぜん遊べねーしー。マジ青春ねーじゃぁん」
その言葉に、翔はこめかみに青筋を立てた。
こうなると、完全に切れるまでほんの少し。
「ふざけるな昴!君には強者としての役割がある!それを放棄してはならない。魔術師としての責任を果たせ。」
「あ?じゃーいつまでもこんな普通じゃねぇ生活してなきゃなんねってか?」
眉間に皺を寄せて横目で見てくる昴の顔は至極本気に見える。
冗談で言っているのだと淡い期待をしていた自分を呪った。
「そうだ。それは人にはない力を持った者の宿命だ。最期まで責務を全うしろ」
「責務?なんじゃそら。俺は自分の人生を生きてぇんだ」
「人生=責務なんだよ。目の前の現実から目を背けて使命を放棄するな。」
すると昴は少し押し黙り、そして視線を遠くに投げ、静かな声を出した。
「たまに、なにもかもを終わらせたくなる時があんだよ」
「・・・なんだってぇ?」
翔の声はものすごく低い。
その声のすぐあとに昴は言った。
「俺も怖いんだよ。翔。
俺も里桜みてぇにな、怖いんだ。この先が。
今の幸せが、一瞬で壊れちまうときが、来るのが…」
その言葉には口ごもってしまった。
何も言い返さなくなった翔をチラリと見てから昴は言った。
「あー…お前には分かんねーかもな。俺と翔の考え方って昔っからぜんっぜん違うもんな。」
「・・・何が言いたい」
「俺も里桜も、翔みたいにリアリストじゃねーってことさ。できる限り、幸福な人生を享受していたい。あるはずの青春を謳歌したい。いつ死ぬかなんて分からねーんだからさ。」
翔はふーとため息ひとつついて、視線を落とす。
小さな蟻が懸命に地面を這っているのが見える。
「……死は万人に共通だ。誰にだっていつかは訪れる。その死をできる限り魔物によって理不尽を被ることの無いように、人を助けていくのが私たちの役目だろう」
「お前はそれで満足なのかよ翔。」
「・・・は?」
顔を上げると、真剣な眼をした昴の蒼眼。
久しぶりにこんなに間近で見た気がした。
「お前は俺をなんだと思ってる?俺だって人間なんだぞ。人生を選ぶ権利も選択肢もあるはずだ。死に方を選ぶ選択肢だって、あるだろ…」
しかし翔は顔色ひとつ変えずに目を逸らさない。
「普通の人間ならばそうだろうな。」
「あ?」
「しかし我々は普通じゃないんだ。異常なんだ。
むしろ私たちなんかは異常を期している。わかるだろ。」
険しい視線が交わる。
残暑のほんのり冷たい空気が掠めた。
「はっ、意味わっかんね。
さすがは正義感の強い正論ボーイだね」
ここでさすがの翔にも頭に血が上った。
奥から絞り出すようにして声が出る。
「いい加減にしろよ昴……君の脳ミソは子供のまま成長が止まっているのか?」
「はん、それでもいーわ。翔がわかってくれねーなら、もういい」
「・・・なに?」
昴の口角が上がっていき、両膝に両肘を置いて前かがみになって上目遣いになる。




