青春の壁
あっという間に夏休みは終わった。
計画してた所には全部行けたけど、本当はもっともっとまだまだ行きたいところもやりたいことも、たくさんある。
けれど、時間は待ってはくれない。
現実は常に忙しない。
「っえ、ちょっと何事?!」
「ハッハッハすっげ久々に見たわこの光景!」
隣で瞳はケラケラ笑っている。
けれどなぜこの状況が笑えるのか、
里桜には1ミリも分からなかった。
「何してる、昴!本気を出せよ」
「ああん?!お前こそ本気を出せよ翔ー!!」
バガガガガガガ!!!!!
ガシャン!!!
ドカッ!!!
ジャリン!!!!
中庭で、昴と翔が術式を使い合って乱闘を繰り広げている。
こんな光景は初めて見た。
目を見開いて、顔を強ばらせることしか出来ない。
「っぐ…!だいたい!俺はなぁ!お前のそういうっ!いつもわかったようなフリして見透かしてるような態度がっ!気に食わねぇっつってんだよ!」
「はっ!何も分かっていないのはそっちじゃないかっ。私に何度も同じことを言わせるんだからな!いい度胸だ!」
「おまっ!だからこっちも何度も説明し」
「少し黙らせてあげよう昴!」
言い合いの最中でも、翔の魔物と昴の術がぶつかり合い、その破壊力は当然凄まじいので、辺りは大変なことになっている。
遠くのはずなのに、校舎のガラスは割れ、木々はバキバキになっている。
このままだと、本気で丸ごと破壊されてしまいそうな気がするが、二人の間に割って入れば一瞬で死にそうなほどの迫力で、息を飲むしかない。
しかしどうしたというのだろう。
これはどう見ても訓練ではなく喧嘩だ。
かなり離れたところにいるはずなのに、こちらにも突風や残骸が飛んでくる。
「っざけんなよ翔!!!」
「このままだと君を殺してしまいそうだ!ハハハ!」
どちらかというと、昴はこの喧嘩をやめようとしているようにも見受けられる。
「っ!ていうか…翔……え?」
里桜はさらに目を見張った。
よく見ると、翔はなんと、制服の前ボタンを全開にしていてカラーシャツが顕になっている。
そして、いつも後ろで綺麗に束ねられている髪は解かれ、乱雑に風に舞っていた。
完全にガラの悪い不良…というか、超ヤバい輩にしか見えない。
あんな人がもしも前から歩いてきたら、確実に誰もが逃げ出すだろう。
「ふははははっ!翔があーなってる時は、完全にブチ切れてるときだよ」
笑いながらチュッパチャプスの封をペリペリと剥がしはじめる瞳。
里桜はただただ顔面蒼白にしてそのヤバい恋人を見つめる。
本当に翔なの?と疑いたくなるくらいに、そこにいるのは完全にイッてしまっている彼だ。
そしていつもの優しい目はそこにはなく、あるのは冷徹に見開かれた本気の眼光。
「ど…しよ……」
「今のあいつらの力はだいたい互角だからな。
どっちも死んじまったりしてな。ふっ」
クマが呑気な声でそんなことを言うので、ますます唖然としてしまった。
そんなことになりそうな気もしなくもないほど、目の前の2人の迫力は異常を期している。




