14
「にしても……今日、
私はちょっと妬いてしまったよ、里桜ちゃん」
「んぐっ?はい…?」
突然、理玖に意味深なことを言われ、変な音を鳴らして肉を飲み込んでしまった。
「姉様を妬かせるとは、
なかなか罪深い人ですね、里桜さん」
「は、はぁすみません…ていうか、何の話ですか?」
ムスッとしている羽実の隣で、理玖が艶めかしい笑みを浮かべて言った。
「随分と天馬くんにご執心なんだなぁと思ってね…
でもまぁ、分かるよ…。私も、彼のことは神塚君よりも買っているから。」
「え、あ……そうなんですか…?」
翔とベタベタしすぎていたかな?
それともキスを見られてた?!
たちまち顔を赤らめる里桜。
「ニヒルな笑みもミステリアスでいいと思うよ…ほら…」
そう言って理玖は里桜の顎を優しくつかみ、キュッと方向を変えた。
その瞬間に、向こうにいる翔と目が合ってしまった。
彼は気がついたようにフッといつもの優しい笑みを浮かべた。
あれが…ニヒルな笑みってやつ?
私には最上この上ない大好きな笑顔なのだけど。
いつも目を無くして笑う彼は、空虚ともミステリアスとも違って、私にとっては神様みたいに天使みたいに、ただ暖かく感じる。
数秒見つめ合ってしまい、
恥ずかしくなって急いで視線を逸らした。
本当はもっともっと見ていたかったけど。
「でもね、私はたまに思うんだよ。愛は価値のあるものなのかってね」
「え?」
「私はね、昔から、
金に換えられないものには価値を感じないのさ。
物質的な価値に変えることのできないものにはね。」
何の気なしに言っているようなその声色が、逆に里桜の口を開かせた。
「確かに、お金は大切だとは思います。でも人って、愛がなければ心が荒んでいくし、誰かを愛し、誰かに愛されていなければ、生きている実感がわかないと思うんです。昔の私みたいに…」
そう言って遠くの方に視線を送る。
夕陽がゆっくりと沈んでいくのが見えた。
「高校に来る前の私は、本当になんにも持っていなかった。もちろんお金も愛もです。どちらも持っていなかったからこそ、今になって言えることがあるんです。」
「うん?」
理玖は里桜の瞳をジッと見つめた。
彼女のまつ毛が小さく揺れ、一瞬だけチラリと翔の方を見たのが分かった。
「本物の愛は、お金では買えません。
それに愛は、与えるものなんです。」
ゆらゆらと揺れる橙色の光が、大きなその目に映し出されているのを見て息を飲む。
彼女はとても美しいと理玖は思った。
「富は海水のようだとも思うんです。飲めば飲むほどに、渇きを覚える…私は今日、泳ぎの練習で結構 海水飲んじゃいましたっ。」
そう言って思い出したように里桜は笑った。
いつのまにか、夕陽が半分になっている。
「…そうだね…1度溺れるとなかなか出ては来られないよね…」
理玖は小さく呟き、里桜と同じ方向に目を向けた。
夕陽も、海に溺れていくように見える。
「すごく喉が乾きましたよ。でもそこでまた海水を飲んでしまえば、もっともっと喉が乾いてもっともっと飲みたくなって…それを繰り返しても喉は潤わないんです。いつまでも…ただもっと、欲しくなるだけ…」
理玖の見開いた目にも、玲瓏な橙色が揺れだした。




