土地争奪合戦
「あー、久しぶりだなぁ」
日本屋敷の、自室にログインした。
割と使えることが判明した、一面のパソコンモニターが俺を迎える。
予定では、文化祭なんて適当にそれっぽくして、UAOをし続けるつもりだったのだが、いつの間にか一週間丸々ログインしていなかった。
とりあえず、居間の様子を覗いてみようと、部屋のドアを開けると、ピンク色の髪が目に入った。
最近音沙汰がなかった、マドカである。
「よ、久しぶり」
「イグノさん! やっと来たっす!」
ちょっと声を掛けただけなのに、彼女は俺の両手を握って、ブンブン振り回した。
どこか喜んでる風だ。
「どうかしたのか?」
「この拠点、移動して下さい」
彼女が言うには、活動の中心はルネ肆アになっているので、参テルにあるこの拠点が使いにくいらしい。
そこで、ルネ肆アの方に拠点を移したいのだが、それをできるのは《海馬組》リーダーである俺だけだった。
「拠点の移動ってどうすんの?」
「専用の土地が幾つか用意されてるので、そこから選んで……あとはワチャワチャしてたらできるっす」
「じゃあ、それを探しに行くか」
マドカと二人で、ルネ肆アへワープしようとした瞬間、誰かに背中を押された。
「ダーリーン♡久しぶり!」
もちろんミワさんです。
「別にお前は久しぶりでもないだろ。リアルで会ってるし」
「細かいことはいいの。私も行くから」
なんか付いて来ようとしてるけど……こいつ止めるの難しいし、いっか。
「良い場所探すぞー」
「え……二人きりって思ってたのに」
「ん?なんか言ったか?」
「なんもないっすよー」
◇
イグノ、ミワ、マドカの3人で、ルネ肆アの拠点用土地を周っていく。
「なんか希望とかある?」
「商店街が近い所がいいっす」
確かに、うちは拠点でボードゲームをすることも多いので、商店街は近い方がいいだろう。
商店街の真っ只中はアレなので、少し外れた所を周っていくと……良い感じの所があった。
デカい日本家屋が入れる面積が確保されていて、商店街の活気も、壁を隔てれば入ってこないだろう。
「ここどうよ!?」
「いいっすねぇ」
「ここが私とダーリンの愛の居城に……」
他のメンバーの同意は得られてないけど、すぐに変えられるらしいし、文句が出たら後で変えたらいいだろ。
まあ、マドカから聞いてる感じでは、みんな結構今の立地に文句言ってたらしいけど。
だが、
「「じゃあ、ここにしよう」」
土地の片側から、俺と同じことを言った人がいた。
見ると、こっちと同じく三人の人が、俺たちと同じ場所に設定しようとしていた。
「……すみません、こっちの方が早かったので、引き下がって下さい」
とりあえず、先制で圧を掛ける。
クソ、こんなことなら先にグラサンしとくんだった。
「いや、こっちの方が早かった。テメェ羅が引き下がれ」
「……私のダーリンに歯向かうの?」
「譲らなかったらどうなるか分かってんのか?」
はい、色々話し合った結果、決闘で決着をつけることになりました。
一応決闘場に移動しておく。
「お前ら、必殺技は解放してるよな」
「うん、楽しみにしててね」
「恐れ慄くといいっすよ」
……みんなお互いを驚かせたいという理由で、能力共有してないけど……まあなんとかなんだろ。
「ってか、今回前衛しかいないじゃん」
「……じゃあ、やることは一つっすね」
決闘場を隔てる結界のギリギリまで、3人とも詰め寄る。
相手は、この陣形を不気味に思っているのか、少し下がり気味で……地面に足を付けるのは珍しいな。
「オイオイ、あんだけ啖呵切っといて、チキってんのか?」
「うっせえ!テメェ真っ先に殺してやっからな、覚悟しとけよ!」
「あまり強い言葉を使うなよ……弱く見えるぞ」
「……ここ治安ヤバいっすね」
いや、相手に合わせてるだけだから。
普段は初めて会った人には敬語で行くから。
『そろそろ、開始します。3、2、1 デュエル開始ィィィ」
始まった瞬間、相手のリーダー格の男が、剣を地面に突き立て、
「【学校軍事基地 COWRD-MEDAKA】」
必殺技を発動させた。
地面が地震の様に揺れ動き、何かの建物が這い出してきて……時計が頂点に付いていて、等間隔に窓が並んでいる、昔ながらの学校だった。
「……あれ、どうする?」
俺だけだったら、攻撃力が足りない。
いつか集中力が切れて死にそう。
「何言ってるんすか? デカブツにはデカブツで対抗するって、太古の昔から決まってるんですよ【顕幻・ヒュドラ】」
マドカが紫色の光に包まれ……その光はドンドン大きくなり、やがて出てきたのは巨大なヘビ。ただし、頭を九つ持った。
「HYUAAAAAA!」
「……ワオ」
「ダーリン、あんなの見ちゃダメ!私だけを見て」
ミワが後ろから両目を塞いできたせいで良く見えないが……とても強そうだ。
まあ、巨大なサイズと質量は強さに直結するからな。
「じゃあマドカ、あれの相手は頼んだぞ」
「HYUUU!」
ヒュドラは、鈍重な動きながらも真向から突撃し、相手の学校は窓を幾つか開け、
ウィーン
そこから、大砲が顔を出した。
ただの学校ではないと思ってたが、やっぱそんな感じか。
「〈MEDAKA大砲‐DX〉発射用意」
無機質な機械音声が響き、ヒュドラに大砲……弾が大砲のメダカ弾が着弾した。
しかし、元の彼女の耐久力もあってか、ほとんど怯みもせずに、学校に噛り付く。
「おい、テメェ等も戦え!」
「しっかたねぇなあ。【千秋葉刀】」
「【鯖詠み詐欺換算】」
魚の形の柄をした刀が、ヒュドラの首を一本落とし、もう一人の必殺技が、メダカ弾の数を倍増させ……要するにマドカに結構痛いダメージが入った。
「っと、なんかボーっとしてた。俺たちも行くぞ」
「うん、私が刀持ちを殺るから、ダーリンは倍増君をよろしくね」
「おう【終焉まで続く加速】」
必殺技を発動させて、弾の数を増やした奴に突撃する。
止まったらいけないので攻撃しにくいが、一撃離脱を繰り返して、着実にダメージを与えていく。
学校の中に逃げようとするが、先回りして逃がさない。
「野郎!」
「ダーリンの邪魔はさせないよ」
魚刀の奴がこっちに向かって来たが、ミワが受け止め……彼女のナイフが切れた。
折れたのではなく、切れた。
ギコーのと同じように、絶切断の能力でもついてんのか?
「ヒャ―、本体使わないでよかった」
切られる予感がしていたのか、温存していた[逆刃刀 シンテゐ]を取り出し、再び相対する。
「その刀も切ってやるぜ」
「かもね。けど、私の刀は一本じゃないし……私は一人じゃない。
【偽りの魚群】」
ミワの数が増えた。いつもの5体とか、そんなんじゃない。
目算で……百以上。
「ダーリン、これで二人で百一人プレイできるよ」
「できないよ。やんないよ。やりたくないよ」
「ざけてんじゃねえ!」
魚刀は、一番近くのミワに切りかかり……すり抜けた。
絶切断でも切った音くらいはする。
隣にいたミワが攻撃するが、それもすり抜ける。
「こいつら実体ねえな!?」
次のミワに切りかかり、金属が重なり合う音がして、今度はシンテゐが切れた。
「テメェが本体か!」
そのミワに切りかかり、シンテゐで受け止めようとしたが、シンテゐごと首を切られてしまった。
が、デコイはいなくならない。
「どうだオラ!……あ?」
相手の左手は、なくなっていた。
「どういうこった!?」
「実体があるデコイも混じってるってこと。確率は5分の1。安心して、本体は最後に残った実体デコイになるから、倒す順番は関係ないよ」
「……クソがぁ!」
無造作に魚刀を振り回すが、陽動役デコイが上手く攻撃を躱し、あたったとしても、それには実体がなく、死角から切りつけられる。
「おい、この辺一帯吹っ飛ばせ」
「〈MEDAKA大砲‐DX〉発射用意」
魚刀の呼びかけを受けて、ヒュドラに噛みつかれてる学校が、砲門をミワ達の方に向けた。
「防ぐぞ、マドカ」
「HYUAAAAA!」
ヒュドラ語は分からないが、賛同してくれている気がした。
ちなみに、今のヒュドラの首は、10本になっている。
切り落とされた首が、2本に増えて再生したからだ。
「HYUU〈水蛇の猛毒〉」
その10本もの頭が、一斉に毒を吐き、砲撃の為に窓を開けていた学校は、毒まみれになった。
中にいる学校君の本体と、数を増やす奴は、猛毒に侵されている頃だろう。
「……って、このままだと砲撃止まんねえぞ!」
「HYU」
……忘れてたんですか。
「〈MEDAKA大砲‐DX〉発射」
ッチ、発射されたか。
だが、弾速はそこまで速くない。
ミワの群れに直撃しそうな数発を、超スピードで回収し、進行方向を変えて、学校の方にメダカ弾を誘導して、
「返すわ」
ドガガガン!
複数の爆発音が鳴った。
煙がなくなると、学校の角の一部が消し飛んでいる。
「よしマドカ、あどこに毒入れろ」
「HYUAAAAAAAAAAAAAA!(〈水蛇の猛毒〉)」
十個の頭が、空いた学校の穴に向かって、猛毒を注入していく。
至近距離からの大砲が発砲されるが、ものともせず、死ぬまで毒を吐くのをやめない。
「クソ、どけ!」
「まあ、そろそろ決着つけますか」
バババババ!
一斉に、魚刀に近いミワはシンテゐを、中距離以上のミワは久しぶりの小型拳銃を構えた。
「〈流墜漸〉」
「〈葬流漸〉」
「〈流墜昇漸〉」
「〈玖洙流漸〉」
「〈天翔流漸〉」
「〈スターシックスショット〉」
多くの技が重なり合い、合体技まで発生して、凄いダメージを叩き出し、魚刀を撃破した。
学校も、本体が死んだからか崩壊し、商店街近くの土地をゲットした。
【メダカ】
メダカの学校はー♪ 川の中ー♪
【サンマ】
サンマって、感じで書いたら秋刀魚になるんだ。
生態調べるまでもなく能力が決まって、楽だった。
【サバ】
サバを読むという慣用句が能力の元。
年齢を誤魔化す時に使います。